第8話 敵襲


瞬時に理解した牧田は全力で走った。


「おわっ!」


またしても体が勝手に動く。


”なにか”が俺を襲ってきている。


それでも俺にはただ走ることしかできなかった。


「はぁはぁはぁ…。

そろそろ逃げ切れたか・・・おっ。」


またしてもルシウスのおかげで攻撃をよけられた。


「えっ!?」


よけた先のコンクリートの地面に直径1センチほどの穴が開いていた。


(おいおいおいおいおい、コンクリ貫通ってやばいだろ。

攻撃くらったら即死じゃねえかよ!)


「おいルシウス!

あの攻撃、どう考えても人間の攻撃じゃねえよな。

ってことはあれか?悪魔と契約した人間か?

悪魔と契約している人間同士は殺しあうことできないんじゃなかったのかよ!」


「いいから人がいないところに走れ、クソ野郎ぉ!

細かいことは後で説明する。

一つ言えることは”奴”は悪魔でも人間でもねえってことだぁ。」


「また後で説明するかよ!

っていうか、このままだと俺殺されないか?」


「あぁそうだなぁ。

敵が俺様の予想できない攻撃とかしてきたらさすがに無理だぁ。

俺様の力でよけるのにもさすがに限界があるからなぁ。

このままだと”負け”だなぁ。」


(・・・何言ってんだこいつ。

は?この俺が負け?

今までこの”人生”というゲームにおいて一度も負けたことがない俺がか?

クソ腹が立つ。

調子に乗るんじゃねぇ!

人間でも悪魔でもねえ、よくわかんねやつに負けるわけねえだろ!)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

牧田本人に自覚はなかったが、彼は生まれつき負けず嫌いだった。


それ故に彼は幼少期から莫大な努力を積み重ねてきた。


それも勉強・スポーツ・芸術・遊び、あらゆる分野においてだ。


そんな彼が今、”人生ゲーム”という遊びにおいて敗北しようとしている。


敗北を許さない彼は持てる限りの経験と知識から勝利を導こうと作戦を考えていた。


そして、牧田が自力で”なにか”に勝つ作戦を考えるよう仕向けたのは紛れもない悪魔、ルシウスだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(クックックッ。

牧田ぁ、お前のことは契約前に調査済みなんだよぉ。

負けず嫌いっていう性格もなぁ。

そして敗北が迫ったとき、お前の力が一番覚醒することもなぁ。

さぁ、俺様を楽しませてくれよぉ。)


「はぁはぁ。」


走りながらも牧田は冷静だった。


(この人込みで敵の正体がわからない以上、まずはルシウスの言う通りに逃げる。

あそこのビルとビルの間がベストだな。

そして1ヶ所しかないその隙間に入ってきた敵を目視する。

そこで返り討ちにしたいところだが、どう返り討ちにするべきか…。)


ビルとビルの間まで残り150メートルほどある。


「おい、ルシウス!

叶えてほしい願いがあるんだが、まだ言ってない契約の内容とかないよな?」


「いやぁ、それがあるんだなぁ~。」


「クソがぁ!

まだ隠してやがったのか!」


「お前のイラつく顔が見たくてついなぁ。」


「やっぱりお前は生粋の悪魔だよ!

で、いいから教えろよそれ。」


ビルの隙間まで残り100メートルを切った。


「叶えたい願いを言うときに、それに見合う代償を言うんだぁ。

例えば”陸上選手並みの脚力が欲しい”だったら”代償は自分の全財産”って感じでなぁ。

そして悪魔が”欲に関連する願い”であるか、”代償が見合うか”

この2つの条件を吟味し、クリアすれば願いが叶う。」


(なるほど…。

こいつの欲望は”睡眠欲”だったから…、たぶんいけるな。

あとは敵がどんな奴でどんな力を使ってくるかだ。)


作戦を考えているうちにビルとビルの間に入った。


(さあこい。

お前を返り討ちにする方法は何となくできている。

姿を現せ、このバケモノが!)


逃げ込むことに成功した牧田は敵を確認するために後ろを振り返った。


ビルの間に差し込む光を遮り、何者かが入ってきた。


一瞬、逆光でよく見えていなかったが今なら見える。


そこには高校の制服を着た、中性的な顔立ちの美少年が立っていた。


「ねぇ、君も逃げるだけなのかな?

そろそろ僕飽きてきたよ。」

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