第7話 店員


5分ほど歩くと例のコンビニが見えてきた。


しかし、そのコンビニには普通じゃない様子が漂っていた。


「どいてください!

けが人が通ります!

道を開けてください!」


「関係者以外入らないでください!」


「おいおい事件じゃね?

ツイッターに挙げよー。」


「おはようございます。

ニュースモーニングです。

都内でまた事件が起こりました。」


あたりには通学途中の学生やサラリーマン、テレビのニュースキャスターがいた。


そして警察官と救急隊員もいた。


「どいてください!

けが人が通ります!」


そう言って人だかりから救急隊員が担架に人を乗せて出てきた。


(おい…。うそだろ…。)


その担架に横たわっていたのは紛れもない昨日の女店員だった。


女店員なのは間違いないのだが気になる点があった。


(あの店員あんなにガリガリだったっけ?)


昨日とは違い頬はこけていて、腕や足も骨と皮しかないんじゃないかってくらい痩せていた。


(もうちょっと近くで見ねえとな。

悪魔に関連する情報がなにか得られるかもしれない。)


そう思い近づこうとした時だった。


「えっ!?」


牧田の上半身は自分の意思とは関係なく大きく左に引っ張られた。


「おい牧田、とにかく人がいないほうへ全速力で走れ!」


声がする方を振り向くと地面からはがれ立ち上がる影、ルシウスがそこにいた。


「ルシウス、どういうことだよ!」


そういった直後、悪魔との契約のルールを思い出した。


―――――――――――――――――――――――――――


影にもぐりこんだ悪魔は、契約者に危険が及んだ時、その体を本人の意思に背いて動かすことができる。


正確には影を操ることができるってことだがなぁ。


―――――――――――――――――――――――――――


(てことは俺に危険が及んだってことなのか?)


瞬時に理解した牧田は全力で走った。


「おわっ!」


またしても体が勝手に動く。


”なにか”が俺を襲ってきている。


それでも俺にはただ走ることしかできなかった。


「はぁはぁはぁ…。

そろそろ逃げ切れたか・・・おっ。」


またしてもルシウスのおかげで攻撃をよけられた。


「えっ!?」


よけた先のコンクリートの地面に直径1センチほどの穴が開いていた。


(おいおいおいおいおい、コンクリ貫通ってやばいだろ。

攻撃くらったら即死じゃねえかよ!)


「おいルシウス!

あの攻撃、どう考えても人間の攻撃じゃねえよな。

ってことはあれか?悪魔と契約した人間か?

悪魔と契約している人間同士は殺しあうことできないんじゃなかったのかよ!」


「いいから人がいないところに走れ、クソ野郎ぉ!

細かいことは後で説明する。

一つ言えることは”奴”は悪魔でも人間でもねえってことだぁ。」


「また後で説明するかよ!

っていうか、このままだと俺殺されないか?」


「あぁそうだなぁ。

敵が俺様の予想できない攻撃とかしてきたらさすがに無理だぁ。

俺様の力でよけるのにもさすがに限界があるからなぁ。

このままだと”負け”だなぁ。」


(・・・何言ってんだこいつ。

は?この俺が負け?

今までこの”人生”というゲームにおいて一度も負けたことがない俺がか?

クソ腹が立つ。

調子に乗るんじゃねぇ!

人間でも悪魔でもねえ、よくわかんねやつに負けるわけねえだろ!)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

牧田本人に自覚はなかったが、彼は生まれつき負けず嫌いだった。


それ故に彼は幼少期から莫大な努力を積み重ねてきた。


それも勉強・スポーツ・芸術・遊び、あらゆる分野においてだ。


そんな彼が今、”人生ゲーム”という遊びにおいて敗北しようとしている。


敗北を許さない彼は持てる限りの経験と知識から勝利を導こうと作戦を考えていた。


そして、牧田が自力で”なにか”に勝つ作戦を考えるよう仕向けたのは紛れもない悪魔、ルシウスだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(クックックッ。

牧田ぁ、お前のことは契約前に調査済みなんだよぉ。

負けず嫌いっていう性格もなぁ。

そして敗北が迫ったとき、お前の力が一番覚醒することもなぁ。

さぁ、俺様を楽しませてくれよぉ。)


「はぁはぁ。」


走りながらも牧田は冷静だった。


(この人込みで敵の正体がわからない以上、まずはルシウスの言う通りに逃げる。

あそこのビルとビルの間がベストだな。

そして1ヶ所しかないその隙間に入ってきた敵を目視する。

そこで返り討ちにしたいところだが、どう返り討ちにするべきか…。)


ビルとビルの間まで残り150メートルほどある。


「おい、ルシウス!

叶えてほしい願いがあるんだが、まだ言ってない契約の内容とかないよな?」


「いやぁ、それがあるんだなぁ~。」


「クソがぁ!

まだ隠してやがったのか!」


「お前のイラつく顔が見たくてついなぁ。」


「やっぱりお前は生粋の悪魔だよ!

で、いいから教えろよそれ。」


ビルの隙間まで残り100メートルを切った。


「叶えたい願いを言うときに、それに見合う代償を言うんだぁ。

例えば”陸上選手並みの脚力が欲しい”だったら”代償は自分の全財産”って感じでなぁ。

そして悪魔が”欲に関連する願い”であるか、”代償が見合うか”

この2つの条件を吟味し、クリアすれば願いが叶う。」


(なるほど…。

こいつの欲望は”睡眠欲”だったから…、たぶんいけるな。

あとは敵がどんな奴でどんな力を使ってくるかだ。)


作戦を考えているうちにビルとビルの間に入った。


(さあこい。

お前を返り討ちにする方法は何となくできている。

姿を現せ、このバケモノが!)


逃げ込むことに成功した牧田は敵を確認するために後ろを振り返った。


ビルの間に差し込む光を遮り、何者かが入ってきた。


一瞬、逆光でよく見えていなかったが今なら見える。


そこには高校の制服を着た、中性的な顔立ちの美少年が立っていた。


「ねぇ、君も逃げるだけなのかな?

そろそろ僕飽きてきたよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る