第3話 説明


天井を見つめながら俺は何が起こったか分からずフリーズしていた。


(あれ、俺は確かに死のうとして飛び降りたはずだよな?)


「おいおい、マジで焦ったぜぇー。

俺様が止めなかったら絶対に死んでたじゃねえかぁ。」


「・・・お前が止めたのか?」


「それ以外誰がいるっていうんだぁ?」


「たしかにな。」


「せっかく見つけた契約者がいなくなったらまた探さねえといけねえからなぁ。」


「なんだ、悪魔ってのは何人もの人間と契約できるもんじゃねえのか?」


シンプルに疑問に思った。


俺の思い描く悪魔は何人もの人間から魂を奪っていく悪い奴らってイメージだったからだ。


「お前は悪魔のことをなんもわかっちゃいないなぁ?

どうせもう契約しちゃったし、俺様が契約の詳細も含め説明してやるよ。」


「説明してやるよじゃねえよ、普通最初にそういうのは契約前に話すんだよ。」


「まあまあ、俺様はお前が気に入ったんだぁ。

さっきの度胸はなかなかだったぜぇ。」


「いや、正直お前が俺を死なすわけないと思ったから飛び降りたまでだ。」


「なんだぁ、見抜かれてたのかぁ?

むかつくやつだなぁ。

それでも俺はお前が気に入った。」


「ああそうかい、ありがとう。」


「ちなみになんで助けると思ったんだ?」


「簡単だよ、何でも願いをかなえることができるような能力があるにもかかわらず、その場で殺して魂を持ち帰らないってところだ。

つ・ま・り、契約を結ばないといけない何らかの事情があるってことだろ?」


「ほぼほぼ正解ってとこだなぁ。

さすが俺が見込んだだけある。」


「ん?俺はお前に見込まれてたのか?」


「まあ、詳しいことは今から話してやるよぉ。」


「あぁ頼む。」


「まず、”悪魔は何人とも契約できないのか”という質問だが答えは”できない”だぁ。」


「やっぱりそうなのか、意外だな。」


「悪魔は一体につき人間一人としか契約できない。

これがルールその1だ。」


「ということは、ほかにも悪魔と契約してる人間はいるってことなのか?」


「その通りだぁ。

お前以外にもこの世界にはたくさん契約している人間が一部いる。

だいたいそういうやつらは国の総理大臣だとか、まあお偉いさんが多いなぁ。」


「なるほど、悪魔の力で国の総理になったのか。」


「まあ全員がそうというわけじゃぁないけどなぁ。


次にルールその2だ。

”叶えられる願いは悪魔の持つ欲望によって決まる”っていうルールだぁ。」


「は?どういう意味だよ。

もしかして不老不死の体が手に入んないのと関係があるのか?」


「あぁ、そのとおりだ。

ここはわかりにくいからなぁ、俺様の欲望を例にして教えてやるよぉ。」


「お、おう」


「俺様は”睡眠欲”の悪魔ルシウスってのが正式な名だぁ。

つまり、俺様が叶えてやれるのは”睡眠欲”に関連する願いなら叶えてやれるってことだぁ。」


「ちょっと待って、質問がある。

ってことは、”1秒で12時間分の睡眠を味わえる能力が欲しい”みたいな願いは叶えることができるってことか?」


「もちろん叶えることができる。」


「じゃ、じゃあもし”健康欲”の悪魔みたいなやつがいたら不老不死の願いをかなえられた可能性があるのか?」


「そういうことだなぁ。」


「まじかよ!

クソ外れくじじゃねえか!

なんだよ睡眠欲って、何にも役立たねえじゃねえかよ!」


「残念だったなぁ、もう契約した以上お前は他の悪魔とは契約できない。」


「はぁ…。」


「そして最後のルールその3だぁ。

影にもぐりこんだ悪魔は、契約者に危険が及んだ時、その体を本人の意思に背いて動かすことができる。

正確には影を操ることができるってことだがなぁ。


この世のすべてのものには影が存在する。

本体が動けば影も動く。

その逆で影が動けば本体もそれに合わせないといけなくなり、結果的に本体を操ることができるってことだぁ。」


「なるほどね、その力で飛び降りる俺を阻止したってことか。」


「そういうことだぁ。


他にもルールはあるが、さっき言った契約を切ると死ぬとかそのくらいだなぁ。

おっと一つ言い忘れてた。」


「なんだよ。

大事なことだったらマジでキレるぞ?」


「そこそこ大事ってとこだなぁ。

悪魔と契約した人間は、悪魔と契約している人間がわかるって事だなぁ。」


「なんだよそれ。

俺が契約してんの一部のやつにはばれちゃうってことかよ。」


「一応仲間を見分けられるようにこういうルールが設けられている。

ちなみに悪魔と契約した者同士は、相手に危害を加えられないってルールもある。

だからお前がどんなに殺したいほど憎くても相手が契約していたらどうしようもないってことだぁ。」


「なんとなくルールは分かった。

最後にもう一つ質問がある。

お前たちは何のために多くの人間と契約してまで魂を欲しているんだ?

そして、何のために契約した俺の死を止めようと思ったんだ?」


「・・・。

それは教えられないなぁ。

じゃあ俺様はこれで帰るぜぇ。

叶えたい願いができたら呼んでくれ。」


結局大事なところは教えてもらえずに帰られてしまった。


(それにしても睡眠欲に関連する最もベストな願いって何なんだろうか。)

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