第26話 妹はただ甘えたいだけなんダ!!!・1

美由起との交換日記は、俺の番で止まっていた。

俺は返事の日記を書き終え、小鳥遊(たかなし)の家に向かう。



「ンマー、雪村くん!! お久しぶりじゃないの、勇一も美由起もまだ帰ってないのよ、上がってお茶でも飲んで待ってらして!!」


「いえ、ありがとうございます。でもこれを美由起ちゃんに渡して貰えれば……。僕はすぐ帰ります」


「ンマー、残念ねえ!!」



相変わらず10代前半にしか見えない小鳥遊家のロリママに日記帳の入った布袋を託し、俺は帰宅した。

あのロリママさんなら勝手に布袋の中身を覗いたりしないだろう。



たった一行の短い日記。

美由起は俺の気持ちを分かってくれるだろうか。


街中はうるさい程のクリスマスソングに溢れ、早くカノジョと仲直りせよと急かされているような気がした。



※※※



美由起から電話があったのは、丁度夕飯を食べ終えて部屋に戻った時間帯。

俺のカノジョはエスパーなのかと疑う程のグッドタイミングだった。



「もしもし、美由起?」


「……ヒック……。ーー雪、村さんーー」


「読んでくれた?」


美由起は泣きながら電話をかけてきてくれたのであった。


「ハ、ハイ……。ヒック、ヒック」


「ごめんな、美由起」


「わ、私の方こそ……。ごめ、ごめんなさ……ヒック」


「お願い、泣き止んで」


俺がロリママに託した一文は。



『君がどんなに俺の事を好きでいてくれたとしても、俺はその千倍君の事が好きだよ』。



何だか小鳥遊に影響を受けたような口説き文句なその一行で、美由起は泣いてくれたのである。



「ーークリスマス、イチャイチャデートしような」


「!! ……ヒック、ハイ、嬉しい……」



だけどその前に美由起にはやって貰わなければならない事がある。

それは美由起の為にも、美由起の大好きな兄貴の小鳥遊勇一の為にも必要な事だ。


巨乳の水倉メイのアイディア、名付けて『小鳥遊のスマホをゲット作戦』。



俺はクリスマスのイチャイチャデートの事はさておいて、電話越しの美由起にその任務を事細かに伝えた。

美由起は泣き止んで、真剣に話を聞き、了解してくれたのである。





「雪村さん、お久しぶりです、寂しかった……。でも、私、やり遂げました!」



美由起が小鳥遊勇一のスマホを持って待ち合わせ場所に現れたのは、その3日後の事である。


「凄いぞ、美由起! よく盗ってこれたな!!」


俺が大絶賛すると、美由起は嬉しそうにフニャンと笑った。

そうだ、この笑顔。

俺はこの表情が見たくて数日間も我慢し続けた。


もっと早くあの一文を思いつけば良かったんだが、まあ結果オーライ。



「しかし……」


スマホには当然ながらと言うべきか、鍵がかかっている。

小鳥遊から暗証番号まで聞き出すのは不可能に近いし、どうしたものか。


「えーと、美由起。一応分かりやすい数字から試してみよう、小鳥遊の誕生日は?」


「兄さんはーー。えーと、1月25日だったはずです」


「ゼロ、イチ、二ー、ゴー……あ、駄目だ。弾かれた」


誕生日が駄目ならもう殆ど打つ手はない。

だが俺は勘が働いた。


「美由起、君の誕生日って、確か7月12日だったよな?」


「あ、ハ……ハイ!」


俺は0712と打ってみた。


「ーー開いたよ」


美由起は顔を赤らめた。


「兄さんのバカ。私の誕生日を暗証番号にするなんて……」


そう言いつつ嬉しそうに見えるのは俺の気のせいではないんだろうが、敢えてそれは見なかったふりをした。


「じゃあ、悪いけど先にメールボックスを覗かせて貰うからな」



しかし開いてみて俺は仰天した。



(何だコレ……)



一番受信の多い田園調布のストッキング見せお嬢様・渡辺淑子を筆頭にして、噴水の君の古戸派(ことのは)彩葉(あやは)さん25歳、くまちゃんことヤンキー少女熊谷(くまがい)結架利(ゆかり)という俺の知っている面々は兎も角として。



(薩摩 春、金澤 朱美、日村 樹(いつき)、時光 リル、小本 祥(さち)、阿部

洋子、牧村 京乃(まちの)、大友 和(なごみ)、小柿 りな、宝塚 園枝、池田

由花子(ゆかこ)、家室(かむろ) 深沙(みさ)、阪口 ありさ、小玉 涼、川上

由奈、白石 小絵(さえ)、平手 櫻、吉野

舞子、新田 りら、橋本 茜子、風原(かわら) 寧々、ニノ前 灯(あかり)、五島(ごと) 流美(ながみ)、安村 由美子、高須賀 まりあ、叶 美香、長澤 翔子、糸口 奈美恵、伊野波(いのはな) 真輝(まき)、尾長 まどか、粽(ちまき) いくえ、坂下 君(きみ)、雪見 杏菜(あんな)、荒井 紅(くれない)、正月(まさき) 美以子(みいこ)、小野 邑(ゆう)、けやき 真美、仁藤 絵里…………)




俺は頭が痛くなってきた。

上記に挙げた15倍くらいの、女子達の名前が表示されていた。


飛び級イギリス少女のベル・アボット嬢の名前も見当たった。



「雪村さん……、雪村さん? あの、どうしたんですか?」


「美由起、君は見ない方がいい」


どうしてもと見たがる美由起を制して、俺は考えた。



小鳥遊が女を使って世界征服だか世界を幸せにだかしようとしているというのは本気だったんだろう。


俺はまさに氷山の一角しか見てなかったんだ。


しかしーー。


ーーこの子達全員を呼び出すのは、物理的に無理だ。


俺はランダムに名前を選び、メールアドレスを控えた。


どうせ小鳥遊は彼女達の大半を忘れたままなんだろう。


小鳥遊がナンパした女の子達と対峙した時ーー巨乳少女の言う通り、ショック療法が効いてくれればいいんだが。


俺は美由起の為にも、小鳥遊自身の為にも、そしてナンパされたまま放置されている可哀想な女の子達の為にも、必ずヤツを元に戻そうと決意を新たにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る