第25話 巨乳少女の策略・2

 


  水倉メイさんの言うように、小鳥遊(たかなし)が彼女の事を覚えているかをヤツにメールしてみる事にした。


  水倉さんは、横に座って興味深げに俺のスマホを覗いている。



  [久しぶり。質問なんだけど、前に胸の大きい女子高生をナンパした事覚えているか? お前がピップエレキ◯ンをプレゼントした子]



  数分後、早速返信が来た。



  [ピップ◯レキバン? 確かに僕はそれを持ち歩いているが、女子高生にプレゼントした覚えは無いなあ。それがどうかした?]



  「覚えてないそうです」


  「うん、見てたから分かってる」


  彼女の大きな胸がふゆんふゆんと俺の腕に当たっているが、今はそれどころではない。


  「やっぱり、こっぴどく振られた女の子の事は覚えてないみたいです。水倉さんもその範疇に入ってますね」


  「そっかあ。面白い子だったからまた会いたいとは思ってたんだけどね。『二度と会う事は無い』ってのが効いたかな」


  「あいつ、傷付いてるんですよ、本当は。だから忘れる事によって……」


  「本当にそうかな?」


  「え?」


  彼女の疑問符に俺は声を上げる。

  水倉さんはテーブルの上に胸を乗せ、何事かを考えている表情で俺の左手に持っているスマホを覗き続けていた。


  「小鳥遊くんは、さ。忘れた女の子の事をどうでもいいと思ってるんじゃないかな」


  「え……」


  「つまり、本当に惚れた訳では無かったって事」


  水倉さんは、嬉しそうでも残念そうでもない、感情の読めない無表情で俺に答えた。

  俺は、フォローの言葉を探した。


  「いや、でもそりゃそうでしょう……。街で出会った可愛い子に手当たり次第声をかけてる訳だから、『本当に惚れる』のは普通難しいんじゃないですか」


  「あ、今私の事『可愛い子』って言ってくれた? 嬉しい〜!!」


  ポジティブな人だ。

  水倉さんは続ける。


  「雪村くんは、さ。小鳥遊くんの事を元に戻したい訳だよね?」


  「まあ、そうですね」


  俺の脳裏に美由起の顔が浮かんだ。

  兄である小鳥遊勇一が元の性格に戻る事を、誰よりも望んでいる美由起。


  「じゃあ、荒療治をしないとダメだね。例えばさ」


  例えば?


  「今までモテてきた女の子達を出来る限り集めて、小鳥遊くんの前に並べるの。そうして、皆に小鳥遊くんへの想いを伝える」


  「…………」


  「小鳥遊くんのスマホを理由をつけて貸して貰ったら、今までその『名刺』とやらを配った女の子達の返信が見られるかもしれない。その子達に連絡を取るのよ、雪村くんが」


  「そうすれば、今まで小鳥遊のヤツが振り回してきた女の子達のナマの声を浴びせられるって事ですか」


  「あったりー!!」



  水倉さんは、それまでの無表情から眩しい笑顔を見せた。

  何だか楽しんでいるようで何よりだが、俺は思う。



  果たして、小鳥遊は本当に『ヒロイン』達の事を好きではなかったのか?



  これは女の子である水倉さんと、小鳥遊と同い年の男である俺の考え方ーーというより、生理的な物に近い感情の違いなのかもしれない。


  小鳥遊はそんなに酷い男ではない。

  否、ナンパをしている最中は、確かにその子の事だけをーー『愛している』はずだった。


  例え、振られたとしても。


  何度もナンパに付き合わされた俺はそう確信している。



  だけど、『小鳥遊を元の小鳥遊に戻す』という点では、水倉さんのアイディアはそう悪いものでもないような気がした。



  「……分かりました。何とかして、小鳥遊のスマホを奪ってみようと思います」


  「うん。じゃあ私も1枚かむから、雪村くん、メアドの交換しましょ」


  俺と雪村さんはお互いのメアドを交換し、その日は別れる事にした。



  「……ん、何だ。トモ、帰るのか」



  俺達が小鳥遊について相談している間に、仕事を終えたにいにがこちらを振り向いた。


  「でもまさか、水倉の言ってたピッ◯エレキバンの君がお前の友達だったとはなあ」


  「ああ。あまりの偶然に俺も驚いたよ」


  素直な感情をにいにに返し、俺は部屋を去る事にした。


  「じゃあ、首尾よくいったら連絡ちょうだいね!」


  水倉さんはニカッと笑う。

  俺はそれに対して無言でうなづいた。


  にいに、良い彼女ーーあ、『ペット』だったっけ? とにかく良い子がついてるじゃないか。


  にいにの事を心配していた叔母さんや俺の母親には、『天使がついてた』とでも伝えてやろう。


  何の事だか分からないだろうが。



  さて、俺はーー。

  大切な仕事に取り掛からなければならない。



  『カノジョ』である美由起の心を取り戻す作業に。



  何しろ、小鳥遊のスマホ強奪作戦には、美由起のチカラも必要な訳だし、それ以上美由起と気まずい関係を続けるのは俺的にも正直に言ってクルものがあった。



  これは、運命のクリスマス前の出来事。

  その年の冬は寒かった。

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