第18話 イチャイチャデート・2

手を握り合ってマックを後にした俺達は、美由起の好きなファッション・モールに出かける事にした。



さすがミス着物東京都4位、美意識が高いなと思わせるお洒落なファッション・モールである。


値段もお高いのからお安いのまで色々揃っているようだ。


聞けばこのモールの出入り口付近は芸能事務所のスカウトマンがウロウロしていて、戦力になりそうな若者達を狙って声掛けをしているという。


美由起は可愛いからそんなのに声を掛けられたらどうしようか。


芸能界なんて絶対ろくでもない所だから彼氏としてはスカウトされたとしても必死で止めたい所である。


そう言えば小鳥遊(たかなし)はヤンキーの姫をアイドルにしようとしてた時があったな。

あの子はどうしてるんだろう。


そんな事を考えていると、美由起が白いモコモコのセーターを手に取って鏡に合わせていた。


「これ、すごく可愛いと思いません!? これからの時季にぴったり」


「本当だ、よく似合うね」


「エヘヘ、見ているだけで楽しいです!!」


その白いモコモコはどこか羊を思わせる。

俺の目から見ても可愛いけど、女の子ってモコモコが好きだよなと改めて感じ入る。


値札を見ると、お値段はそれなりの物だった。

はっきり言って、高校生でこれといったバイトもしていない俺には手が出せない。

情け無い。


俺は洋服のプレゼントも出来ない事が美由起に申し訳なくて、


「なんか、ごめんな。買ってあげたいのは山々なんだが、でも……」


「……え? ええ!? 私、そんなつもりじゃありません!!」


美由起は服に触ったせいでヤケドしたかのようにパッとそれを手離した。

そして急にシュンとした表情になった。


「ごめんなさい、変な気を使わせてしまいました……。私、本当に見ているだけで楽しいんです。その気持ちを雪村さんと共有したかっただけなのに、私ったら……」


「い、いや、俺の方こそ妙な勘違いしてごめんな!! すまない!!」


イチャイチャデートのはずが、ちょっと気まずい空気になってしまった。


「美由起、俺も美由起に似合いそうな服を探してみるよ。と言っても、美由起の趣味に合うかどうか分からないけども。そんで、ウインドウショッピングとやらを楽しもうか」


そう言って何とか態勢を立て直す俺だった。


「本当ですか!? 嬉しい……!!」


感激のあまりか、美由起は俺の腕に抱きついてきた。


む、胸が当たってる……!!


フワフワとした柔らかい感触が俺の腕にとろけるようなスリスリを与える。


美由起は中学生にしては発育が良いんだという事を思い知らされた。


「……あ、エヘヘ、ちょっとイチャイチャし過ぎましたね」


そう言って美由起は照れたように笑ったが、俺の腕に与えた天国(パラダイス)については何にも思い至っていないようだった。


……うーん、やっぱりまだまだ子どもなんだなあ。

小悪魔と呼ぶには邪気が無い。

まず、あの兄貴に苦労させられてるからさ。

そんなブラコンで苦労性な所も愛しいんだが。



※※※



何とか首尾良くファッション・モールを堪能し尽くした俺達は、有名な並木通りを探索する事にした。


なぜか美由起がーー。

俺の腕に抱きついたまま。


止めろとも言えないし、どうしようか。

相変わらずフユフユの胸が当たり続けているし、歩いている分フユフユのモニュモニュがダイレクトに伝わってくるんだよなあ……。


『手を握る』という行為には何とか慣れつつある俺だったが、これはちょっとキツイ。


何より、ごくごくフッッツーの男子高校生である俺と、美少女中学生の美由起では釣り合いが取れなくて、周りからの視線も痛い。


あまりのイチャイチャぶりにちょっと耐えられそうになかったので、俺は美由起に適当な提案をしてみた。


「あの、えーと、美由起。歩き疲れたから、そこのコーヒー屋さんに入らないか」


「ん! そうですね!!」


何のためらいも見せず俺に同意する美由起と共に、落ち着いた雰囲気のカフェに入る。

木を基調とした古めかしいといってもいいカフェだ。

これなら俺でも入れる。



ーーすると。


「ユリたん!! それに、ミリちゃん!! どうしたの、こんな所で!!」


カフェに入るなり、美由起が驚きの声を上げたので俺もえらくビックリした。


「みゆ、うわあ、ぐうぜーん!!」


ユリたんと呼ばれた方と思われる女の子が、美由起を視界に入れるなり思い切り叫んだ。



なぜ『ユリたんと呼ばれた方』だと分かったか。


もう1人、座っていたあまりに体格のいい女の子が、あの少女ーー。


小鳥遊のナンパしたあの小学生だったからだ。


「みゆ、彼氏連れてるの!? やるー!!」


「エヘヘ、イチャラブデートなんだよ」


そんな事を公言して恥ずかしくないのかと思ったが、きっとこれが中学生のノリなんだろう。


「雪村さん、この子はさっきマックで話した友達のユリたん、で、こっちの背の高い子は、例の妹ちゃんです。あ、でもミリちゃんに会う事は私もあんまり無いんだけど……」


美由起が俺に説明したが、俺は『ミリちゃん』の姿を見て背中から変な脂汗(あぶらあせ)が出てきた。


「一緒に座っていいかな? 彼氏の自慢していい? エヘヘ」


「いいよー、彼氏さん紹介してえ!! ん、背高いね!!」


高いと言ってもミリちゃんには当然劣るのだが、ユリたんはさすが美由起の友達とあっていい子であった。


『彼氏』の自慢をしたいという無邪気なJC美由起に抗える訳が無く、俺はあの『ミリちゃん』と再会を果たし、あまつさえ会話を交わす事になってしまった。



そしてまた小鳥遊のせいで新たな問題を抱える事になったのである。


この俺が。

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