第12話 イギリスから来た飛び級少女・2

美人でオックスフォード大学飛び級ですぐに外国で友達が出来るとは。

まるでベル嬢はラスボスみたいな存在だ。


しかし不死鳥(フェニックス)こと小鳥遊(たかなし)はそんな強敵にもお構いなしで特攻していく。


「ベルさんは、なぜこの大学を志望したのですか?」


というような事を、ヤツは英語で言ったように思える。「why」だけで推測しただけだが。


するとベル嬢は、流暢な日本語で返した。さすが飛び級、言語センスも飛び級だ。


ベル嬢の美しい顔立ちに見惚れているだけだった俺達は、彼女が才媛だという事を思い知らされてハッと我に返った。


「日本語でも結構です。私がなぜ、この大学を選んだかと言うと……。ここにいる友人達の前では話しづらいのですが……」


ベル嬢がおにーさんおねーさん達を遠慮がちにチラリと見やった。


それを察したのか、ご友人の皆さんは心配そうにベル嬢を伺いながらも、「じゃあ」「気を付けてね」「何かあったらすぐ呼んで」等と口々に言いながら去って行った。


「素敵なご友人ですね」


と、小鳥遊はニッコリ笑って日本語で言った。ベル嬢は、


「ええ、大好きな友人達です」


と微笑み返してくれた。そして、


「何故この大学を選んだか、という質問でしたよね。それは、私はもう『勉強の出来る』人達と付き合うのに飽きてしまったからです」


「ほう」


小鳥遊は興味深げに頷いた。


「こんな事は言いたくありませんけど、留学先は日本の中でもあまりレベルの高くない学校を探したのです。そこで、首都にあって男女共学のこの学校を選びました。ここに来て良かったと心底思っています」


「つまり、見下しているという事ですね」


「おい、止めろ小鳥遊」


俺は咄嗟に注意した。

しかしベル嬢は顔色を変えずに答えた。

キャンパス内は静かだった。


「そういう質問がいずれ誰かからされるだろう事は予想していました。だけど私は、成績なんかより『生の大学生活』を送りたかったのです」


「貴女の将来の夢は?」


小鳥遊は、委員長に聞いた事と同じ質問をした。

コイツはどんだけ頭良い人の将来を気にしてるんだろう。


「特に決めてないんです」


ベル嬢が首を振る。


「だからこそ、親の言われるままオックスフォードなんかに進学してしまった事を後悔しているのかもしれません。変に有名になってしまいましたから」


ーーすると。小鳥遊が、訳の解らない言語で話し出した。


「@/&☆%>>>¥〒?」


「はあ??」


俺と取り巻き2号3号は同時に反応した。何語を喋ってるんだコイツは?


すると、才媛のベル嬢にはその言葉が分かったのか、顔を真っ赤にして反応した。


「♨︎☆÷〆:〜//-¥#+!!」


パシン!!

俺達は驚いた。

あんなに穏やかだったベル嬢が怒り出し、小鳥遊の頬をひっぱたいたからだ。


小鳥遊は何事も無かったかのようにバッグからピンク色の名刺入れを引っ張り出して、


「失礼しました。こちらは僕の名刺です」


例のクリーム色のカードを取り出し、ベル嬢に差し出した。

しかしベル嬢はそれを受け取ってから地面にカードを叩きつけ、グリグリと踏みにじった。


遠くからこちらを伺っていた彼女の友人達が何事かと寄って来たので、俺達は小鳥遊の両腕を掴み引きずるようにしてその場を離れる事にした。






「オイ、お前あの時何言ったんだよ。全然聞き取れなかったぞ」


取り巻き3号が俺の代わりに聞いてくれた。

すると小鳥遊は事もなげに


「ドイツ語さ」


と言った。


「ドイツ語!? すげえ!! お前そんなん喋れるのかよ!!」


俺も含めた全員がどよめいた。


「僕は他の科目はからっきしだが、ありがたい事に外国語だけは得意だったみたいでね」


コイツ、隠してるだけで本当は何でも出来るんじゃないのか? 頭打ったせいで。


「で、ドイツ語でなんて会話をしたんだよ」


と聞く俺。

小鳥遊はニコリともせずこう言った。


「……あれはベルさんに対しての挑戦状だった」


「焦らすな。なんて言ったんだよ」




「『金持ち国で馬鹿な男を漁りにきたんじゃないんですか』って」


「……やっぱり馬鹿だ、お前は」


俺は呆れて何気なくキャンパスを振り返ると、ベル嬢が小鳥遊の名刺を拾ってジッと見入っているのが目に入った。


「図星だったり、面倒臭かったりしたらメールは来ない。考えてもいなかった事ならムキになってメールを僕に送る。賭けだ」



果たしてベル嬢からのメールは来たらしいが、小鳥遊は「僕の顔なんかもう見たくないでしょう。本当に失礼しました。さようなら」と返事をしたらしい。


これも女心をひく小鳥遊の作戦だった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る