第6話(中編) 遭遇と対面
それほど事態を深刻に捉えていなかった真依だったが、凛の意見が正しかったようだ。
「今日、石井に、君には負けないよって言われたのだけど、真依さんとのことかな?」
週末、白木から報告があった。仕事関係の心当たりは白木には全く無いようだった。
この日は、石井のことで伝えたいことがある、と白木から真依に連絡があり、佐野の店で集まっていた。
「私のほうは特に何も無かったのに……」
まさか白木に仕掛けていたとは。
そんな思いにため息がもれる。
「ほんと、どうしたのかしら」
ため息とともにそう言った真依に、白木が慰めるように声をかけた。
「まあ、隣の芝は青いって言うからね」
「……なるほど」
他人のものになった途端、諦めていた思いが再燃する、ということは有りそうだった。
ーーまあ、私は白木くんのモノになったつもりはないけど
そう思いつつ、納得を示した真依だった。
「いや、違うでしょう?」
二人のやり取りに、凛の声が割って入る。
事情を知っている凛にも聞いてもらいたいと思い、真依が呼んでいたのだ。
「あんた達いつもこんな感じなの?」
驚きを隠せない声で凛が真依に尋ねる。
どんな感じか分からなかったが、通常運転だよな、と思って「まあ、だいたい…?」と真依は頷いて見せた。
そんな真依の様子に、「すごいわね……」と呟いた後、凛はしみじみと言った。
「いつか紹介してもらおうと思っていたけど、こんな形になるとは思ってなかったわ……」
それを受けて白木が言う。
「改めて、よろしくね。茅野さん」
このタイミングで呑気に挨拶をする白木に、「あ、うん、よろしく」と返したあと、話を本題に戻そうと凛が二人に尋ねる。
「それで、どうするの?言ってしまえば、宣戦布告されているのよ?」
もちろん石井のことだった。
「『隣の芝……』とか言っていないで、ちゃんと考えないと」
そう言う凛に対して、「うーん、」と白木が言う。
「まあでも、今のところ実害はないし、特に何か行動しなくても……」
ねえ、と白木が真依の方を見る。
真依は、白木らしいな、と思い
「そうね。」
と答えただけだったが、凛は呆れた顔をしていた。
なにか言いたそうな凛だったが、しばらくして諦めたようにため息をついて言った。
「……まあ、あなた達が構わないならいいけど」
なんとも締まらない、作戦会議兼・凛と白木の対面となった。
◇◇◇◇◇◇
凛にとっても、白木は理解が難しいようだった。
真依がお手洗いから戻ったとき、そこには、いつも通りの涼しい顔をした白木と、微妙な顔をした凛がいた。
「どうしたの?」
そう尋ねる真依に、
「あ、真依。おかえり。……何もないわ。」
そう答えた凛だったが、そのあとこっそり真依に耳打ちした。
「白木くんってもしかして変な人?」
ーーいったいどんな話をしたのやら。
「そうね、言ってなかったかしら?」
真依が苦笑いでそう答えると、凛は深いため息をついた。
「まあいいわ。……白木くんに石井くんとのことはちゃんと説明したのよね」
気を取り直して、という風に凛が真依に尋ねる。
「あーうん。したわ。」
もちろん、白木には給湯室で遭遇した日に説明をしていた。
それを聞いた白木はというと、「ああ、彼がそうなんだ。」と言っただけだった。
ーーまるで知っていたふうな反応だったな
その時の様子を思い出し、真依は白木に尋ねる。
「そういえば、あまり驚いていなかったよね。話したことあったかしら?」
無かったはずだけど、という思いを含んで言うと、白木はいたずらっぽく微笑んで言った。
「もちろん、真依さんのことだからね」
つまり、聞いていないけど知っているよ、と言いたいのだろう。
ーーそうだ。こういう人だった。
「……はいはい。」
また嘘か本当か分からないことを……そう思って適当に返事をした真依だった。
そして、このやりとりを見ていた凛は、また深いため息をつくことになったのだった。
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