エピローグ

第13話

「葵……ありがとう」


 普段生活している部屋に戻って、美樹はもじもじとしながらボソリと告げた。


「なんだよ。礼なんていらないさ。今さら他の人間と同室になるのは面倒に思っただけなんだし」


 照れ臭くて、俺はそう誤魔化す。まともに顔を見られそうにない。


 そう返事をすると、美樹は自身の頬に両手を当てて、彼らしからぬトロンとした表情をした。頬は上気し、耳まで赤い。


「ん?」


 様子が別の意味でおかしいので促すように視線を向けると、冠城はますます赤くなって視線を外した。


「だ、だって……まさかあんな台詞を言ってもらえるなんて思ってなかったから……とってもとっても嬉しくって、本当に夢みたい」


 そう答えてはにかむ様は、念願叶って初恋が成就した乙女にしか見えない。


(やばっ……可愛い……)


 美樹が言うあんな台詞――それは『俺の護衛はこのまま冠城だからなっ! 俺を騙していた罪滅ぼしがてら、検討くらいはしてもらうぞっ!』という宣言に他ならないだろう。我ながらよくそんな台詞を言い切ったなと思うが、堂々と言ってやればなんてことはないものだ。


(しかし反則だっ、これは……)


 俺は思わず鼻先をこする。


 ちなみにその願いは学院長に聞き入れてもらっている。しばらくはこれで安泰だ。


(――とりあえず)


 照れて恥ずかしそうにしている美樹に、俺はすっと手を差し伸べた。


「――ヨシキ、これからもよろしくな」


 キョトンと見上げていた美樹だったが、その台詞にポンッとこれでもかと言わんばかりに真っ赤になった。


「葵……名前で……」


「部屋にいるときくらいは、良いかと思って――」


「うん。ありがと。でも、クラスメートたちには内緒だからね」


 差し出した俺の手を美樹は握り返す。


「あぁ、もちろん」


 頷いて、俺は美樹の身体を引き寄せて抱き締めた。


「――みんなにも、ずっと秘密だ」


 美樹の耳元で囁くと、その腕にさらに力を込めたのだった。


《了》

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花より華なれっ‼︎ 一花カナウ・ただふみ @tadafumi

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