百合のように艶やかに、薔薇のように芳しく

第7話

 ――どんなカラクリがあると言うのだろうか。


 桜が綺麗に咲く時分には、俺は聖カサブランカ女学院の生徒になっていた。


 引っ越し作業をする前、後、授業初日……と、隙あらば逃げてやろうとした俺だが、そのことごとくをルームメイトとなった美樹に邪魔されて失敗に終わった。


 中でも俺の親への説得が秀逸で、俺は親が知らない間に留学することに決め、手続きを勝手に進めていたことになっていた。笑えるだろう? チャリで三十分の留学先。未知の世界には違いないが、どこが留学なんだ? ちなみに、俺が通っていた高校もそんな感じの書類が通っているらしい。


 俺のささやかな抵抗を、美樹は往生際が悪いと文句をつけたが、そもそもこれは俺が望んだことじゃない。やれる抵抗はするつもりだ――そう誓っていた俺だったはずなのに。





 ゴールデンウィークが近付く頃にはすっかり聖カサブランカ女学院での生活に馴染んでいた。恐るべし順応性。いや、正確には、俺が脱出計画を企てて実行するのを美樹が楽しんでいるのがわかったので、諦めがついたと言うべきか。俺は美樹と戯れたくて脱走を企んでいるわけでは決してない。


 とはいえ、美樹との共同生活をしてみて驚いた。彼の完璧ぶりは相当なものである。同じクラスで過ごす彼はあらゆる面で格の違いを感じさせた。


 授業開始から間もなく行われた学力テスト。俺は中の上で前の高校と同じくらいであったが、美樹は一位で張り出されていた。感嘆の声を上げていた他の生徒に聞いたところによれば、彼の指定席らしい。点数が出ていないためわかりにくいが、断トツだというもっぱらの噂だ。


 また、先週行われたスポーツテストも、美樹は優秀な成績を修めて表彰されていた。俺も男だからそれなりの記録は作っていたけど、美樹の本気は他の追随を許さない。やはり頭一つ分ほど秀でている。汗を流す姿もなかなか様になっていたことも付記する。


 つまり、美樹は勉学においてもスポーツにおいてもトップクラス。ひそひそとした様子が微塵もなく、実に堂々としている。ここまで目立っても良いものなのか。


 いや、それだけではない。


 一人の女性としても、彼は実に完璧だった。クラスにいる間の仕草や言葉遣いはとても美しく、他の生徒たちに人気なのも良くわかった。誰にでも柔らかな微笑みと優しい口調で接し、大和撫子というのはこんな感じなのかと思うほどだ。中身が男であることを忘れさせるには充分と言えよう。


 俺も俺なりに女のコらしく振る舞うようにしていたが、そうそう上手くゆくものではない。女の園の生活を垣間見ることのできるこの立場に、最初こそちょっぴり喜びを感じていたが、その面倒さに気付くとすぐに辟易した。


 髪を整えたり、目立たない程度の化粧をしたり、制服を自分らしくちょこっとアレンジしないとならなかったりと、女のコなら楽しめるだろうお洒落は、俺には縁遠くて面白味のない手間にしか感じられなかった。


 俺が手を抜こうとすると、美樹が察知してやってきて、毎度ささっと整えてくれる。手際の良さもセンスも抜群で、いつも鏡に映る自分の姿が嘘のようでならなかった。

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