嘘をついたら閻魔様に舌を抜かれるよ。
「それじゃあ康太君と蘭ちゃんは転生の輪に入ってもらいます」
「元気でねー!」
「今度は長生きしろよ!」
地蔵菩薩によって、賽の河原にいる子どもたちの中から転生の輪に入る子が選出されていた。
本当に今度は長生きしろよ。
生きるというのは辛いことも多いけど、夢中になれるなにかがあれば、楽しめるはずだから。
みんな一握りの幸せを求めて一生懸命に生きている。その中で好きな何かを見つけられたらきっと人生は豊かになるはず。
あぁ私も早く次の生に移りたい。そして早くバレーに出会って、今度こそオリンピック選手になりたい。きっと次の私の世界の中心もバレーに違いない。
「あぁそうだ、松戸笑さん。あなたも順番がもうすぐなので一緒に行きましょう」
「あ、ホントですか?」
バレーに思いを馳せていたら、私が呼ばれた。やっとか。地獄だからカレンダーとか時計なんてものは存在しない。体内時計感覚なんだけど、1ヶ月以上ここにいる気がする。いや2ヶ月かな? わかんないけど。
それはそうと転生だ。ぶっちゃけ子ども達を残して転生するってすごく気まずいんだよ。せっかく仲良くなれたのにもうお別れって寂しいし、私がいなくなった後が気がかりである。
「せっかくですから、ここにいる子たちも全員転生させません? みんなで転生すれば怖くないと思うんですけど」
「そんな…赤信号皆で渡れば怖くないみたいな言い方されても…規則なのでできません…」
ちぇっ、地蔵菩薩は優しそうだからイケると思ったけどやっぱり駄目だった。
ゴジ○役の鬼にも何度か要望を出したけど、素気なく却下された。なので子ども達全員でゴジ○鬼をブーイングしていたら、怒った鬼に追いかけ回された。あの時は大変だった。まさに命がけの鬼ごっこ…いやもう死んでいるからその表現はおかしいな。
「笑ねーちゃんも転生の輪に入るの?」
「またね! 元気でね!」
仲良くなったちびっこ達に見送られて、私は地蔵菩薩の後をついていった。ちょっと後ろ髪引かれる思いだが…生まれ変わった時にまた会えたらいいね。
ここで賽の河原担当の鬼ともお別れ。なので「またね、ゴジ○鬼」と挨拶するとハイハイとあしらわれてしまった。なんだよ冷たい鬼だな。
それにしても…どんな感じなんだろうな。転生の輪。
私はワクワクしていた。何故なら次の新しい人生への期待に胸を膨らませているから。
エリカちゃんのお陰で私が後悔していた事は全て叶えられた。もう、未練はないと思う。
エリカちゃんがいなかったら私はきっと未練を抱えたまま転生するところだったけど、今の私はそんなことない。
次の生に向かって前向きに生まれ変われる、そんな気がしていた。
「はいじゃあ、ここに並んでくださいね。舌を引っこ抜きますから」
「…ホワッツ?」
「抜き終わったら、鬼の誘導に従って転生の輪に入ってくださいね」
地蔵菩薩は穏やかなほほえみを浮かべて、恐ろしいことを言い残して行った。
舌抜くって、え?
…なにそれー! なにそれぇぇー!
舌を抜くのは、本来受ける呵責の代わりらしい。呵責受けなくていいんだと思っていたのにまさかの…
舌抜き会場は大勢の亡者の行列が出来ていた。まるで正月の福袋を買いに来た人達のように長蛇の列だ。これみーんな転生の輪に入る亡者か…
嘘つきは閻魔様に舌を抜かれるとは言うけど…確かに私は嘘をついたことはあるけど……本気なの? 舌抜いたら…いっぱい出血が…それに喋れなくなるよ…
舌を抜かれる恐怖に怯えながら、この行列に並んで再び待たなければならないのかと絶望した。
「思ったより痛くなかった〜」
舌を抜かれた人達の集団の中からそんな感想が聞こえるが、舌を抜かれて思ったより痛くなかったってどういうことよ。注射じゃないんだから! みんなが平然としているのが異様である。
私はどんどん自分の番が迫ってきていることが恐怖で震えていた。
舌抜かれたら喋られないんじゃないの?? なんであそこの亡者喋ってんの?
待ち構えていた転生だけど、私は舌を抜かれるのがとても怖かった。でもこれクリアしないと転生できない…
「ハイ次の方〜」
明るい声で鬼のお姉さんが呼んでくる。何でそこ病院みたいなの。誘導されて丸椅子に座らされると、ベテラン医師みたいな鬼がニコニコしながら私にこう言ってきた。
「はい、大きく口開けて〜」
「あがっ…」
「ちょっと痛いから我慢してねー」
注射のときの定型文みたいな事言われながら、ペンチ状の器具で舌を挟まれた。ひやりと鉄の冷たさが舌に伝わってくる。
ごめん、これちゃんと消毒してる? 前の人が使ったものそのままじゃ…
「はい抜くよ〜」
スポリ、と軽い音を立てて抜かれた舌。
…あ、ホントだ。思ったより痛くない。ていうかあっさり抜けた…
私は口元を抑えながら、処置室から出てた。…構えていた分拍子抜けしてしまい、しばし呆然としていたのだ。
「舌抜いた亡者は誘導に従って並んでくださーい」
アトラクションの誘導のように、係の鬼が声を掛けてきたので、私はそれに従って列に並ぶ。
なんか…思ってたのと違うけど…まぁいいか…
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