第09話 僧兵団の強襲Ⅰ
ウェイの教会は、街外れの小高い丘にある。
かつては眼下に広大な牧草地が広がり、
教会の礼拝堂と併設された客間は、その全てを一月前から中央教会の
そして今、教会の食堂には団長バフガー・スターネスと団員の姿があった。頭から何枚もの毛布を被り、バフガーは暖炉の前に陣取って寒さに身を震わせている。炎帝捕縛の任にあたった他の団員たちも、バフガーを取り囲むように暖炉の前に集まり寒さに震えていた。また、任にあたらなかった者も食堂に会し、総勢五十名程の
「もっと、
命じられた部下が、暖炉へ次々と薪を投げ入れる。帰還してから暖を取り続けているが、一向に体が温まる気配がない。
先程まで、氷点下五十度を超える冷気に身をさらし続けていたのだ。しかも、動けば無数の氷の刃と、さらなる冷気がおそいかかる恐怖におびえながらである。
ドーの放った
結局は同行していたクシードが、術の履行を止めた。しかも、こともなげに
「貴様に助けられるとはな……
バフガーが、背後に座るクシードを見やる。行儀悪くもテーブルに腰を下ろして、脚をぶらつかせている。
「僕には、貴方たちを助ける義理はないんだけどね。全滅されても面倒だしさ……」
あどけなさが残るクシードの横顔が、意地の悪い笑みにゆがむ。
「……仕方なく助けてあげたんだよ?」
「くっ!」
悔しさに、バフガーが歯がみをする。
しかしクシードの言う通り、あのままでは全滅していた。クシードが居たからこそ全滅をまぬがれ、全員が生還できたのだ。不用意に凍りついてしまった団員ですら、手早く教会の
今回の遠征にクシードが同行しているのは、教皇の命によるものだ。なにゆえ教皇は、このエルフの小僧を同行させるのか……バフガーは自分が軽く見られているように感じて面白くなかった。
そもそも炎帝ドー・グローリーと並んで、十年戦争の戦犯とも呼べる存在ではないか。さらに言うなら、『青き
「団長、
二人の
「首尾はどうだ。隠れ家の場所はわかったか?」
毛布に包まったま、バフガーの瞳が期待に輝く。
「それが、森の入口までは尾行できたのですが、森に入った途端に見うしないまして……」
大きな溜息とともに、バフガーの表情が見る見るうちに曇っていく。
「それどころか森の中で迷いに迷って、やっとの思いで帰り着いた次第で……」
バフガーの表情を
「それ、きっと、結界だよ」
退屈そうに前髪をいじりながら、クシードが口をはさむ。
「結界だと!? また面倒なものを……」
心底わずらわしそうに、バフガーが吐きすてる。
「べつに面倒じゃないよ。それにね、結界をはってるってことは、隠れ家はその中さ。場所を教えてるようなものだよ」
「隠れ家は森の中か。となれば問題は、結界をどうするかだが……」
バフガーが、クシードをチラリと見やる。
「はいはい、やりますよ。僕が破ればいいんでしょ?」
両手を広げて、クシードが大げさに肩をすくめてみせる。
クシードの力を借りるのは
「第二分隊は、結界が破れ次第、隠れ家を特定して強襲。第一分隊は、俺と共に隠れ家の包囲にまわれ。蟻一匹も逃すな!」
森の中にあるとわかっているのだから、結界さえなければ隠れ家などすぐに知れよう。あとは火でもかけて
「クシード、結界を破った後は、森の外周の包囲を任せる。第三分隊と第四分隊を連れて行け」
「包囲はするけど、人はいらない。僕一人で十分なの、知ってるでしょ?」
鈍重な
先ほどまで寒さがバフガーの身を震わせていたが、今や武者震いが取って代わっていた。毛布を床に残し、バフガーがその場に立つ。
団長の起立に合わせて、全ての団員が立ち上がる。バフガーの
「聞け! 明日、日没と同時に作戦を決行する! 目的は炎帝ドー・グローリーの捕縛! 生死は問わぬ! 邪魔者は排除してかまわん! 各自、明日にそなえよ!」
「応!!」
(つづく)
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