第十二話 氷水剣舞

『お前たち、よくやったのです。これでカギとなるPPPは揃った。

引き続きセンザンコウとホワイトタイガーを見つけるのです。

ホワイトタイガーは、裏サバンナという滅多にヒトが立ち入らなかった

ところで、目撃されてます。どちらが、どこへ行くかはあなた方にお任せします...』


助手にそう言われた。


再び本島に戻り、ライオンに、

"雪山に一度寄ってから行く"と言い残し、別れた。


久しぶりに、雪山の温泉宿を訪れた。


「ただいま」


声を掛けても、返事は無い。

構わず、中へ突き進んで行った。


部屋の扉を叩き、開けた。


「ギンギツネ...」


机に色々な部品を散らかし、何か作業をしているキタキツネがいた。

奥のベッドではカピバラがウトウトと頷きを繰り返している。


「あっ...、どうもぉ...」


存在に気が付き挨拶したが、また、頷き始めた。

相変わらずだ。


「具合はどう?」


「今日は...、調子いいかな...」


機械を弄り続けながら答えた。


「こんな現実を作り変えるための機械...。タイムマシン」


「そんな小さいタマゴみたいな奴がタイムマシン?」


「見た目は重要じゃない...。ただ、完成まで、もう少し...。

未来に行って、ボクの病気を治してもらう...。10年後なら...」


「アナタには...、未来があるのね」


不安気な顔で、彼女を見上げた。


「その言い方...、何?まるで...」


「実は、ライオンに頼まれたの。旧友とは戦いたくないってね。

私も嫌な事を無理矢理やらせる程、冷酷じゃない...。

ヘラジカを何とかするわ」


「ギンギツネがフレンズを倒すのは、ボクの為?」


「昔はそうだった。今はわからない...」


「...、死んでほしくない」


「私だって...。でも止められないの。

この氷の力を貰った時から...、

命尽きるまで博士の忠実な下部として、生きるつもりだから」


「...」


「そんな悲しい顔しないの。あなたの未来は輝いてるから」








雪山を降り、水辺の森まで歩いて来た。

フレンズも数を減らした為であろう。


静寂な森の中で足を止め、氷柱の剣を出す。


「ヘラジカ、来たわ」


「来たか...」


木の上から降りて来た。


「お前の剣術、少しは上達したか?」


「私の様な素人にその区別が付くと思う?」


「...、それもそうか」


「アナタには本気のバトルを望む。...あるでしょ?」


金色のキセキセキを見せた。


「ああ...」


対峙した二人はキセキセキを握りしめた。

光に包み込まれる。


ヘラジカは和服になった。

侍の様な格好をし、刀も2つに増えた。


一方、ギンギツネは氷の鎧を着た、騎士の様な姿になる。

細かった、氷の剣も立派なものだ。


「さあ、精一杯、修行の力を見せろ。私はそれに応えてやる」


「言われなくても...、わかってるわ!」


剣を振り上げ向かう。


「...遅いな」


「...!!」


ヘラジカはいつの間にか背後を取る。


「アイスウォール...!」


彼女は咄嗟に剣を突き、背後に氷の壁を生成し攻撃を塞ぐ。


「ほう...」


一旦刀を引く。

剣を横に振り、氷を壊した。


「ハァ...、何時もより早くない?」


「お前も、そんな技使えなかっただろ。

だが、あの時より成長しているな」


当時、キタキツネは体調を崩した。

医療の技術が無いこの島で、回復と言えば自然回復しかなかった。


丁度その時、神の島計画が取沙汰された。


博士は、神の力を使い協力してくれれば願いを叶えてくれると

約束してくれた。


私はそれに頼ったのだ。

自分の得たのは氷の能力、氷柱で剣を作り出すことが出来た。


だが、そんな物で強くなれるワケが無かった。


能力を得たフレンズの中で、同じ剣を使い始めたのは、ヘラジカだった。

屋敷にあった刀を使い、様々な水の能力を使う。


そう言うものの扱いが得意ではない私は、直々に剣さばきを教えてもらう事にした。


しばらく、師匠と弟子の関係が続いた。


いつの間にかBGFとNGFという対立が生まれたが、

ヘラジカとの交流は続いた。だが、かばんが戻ってくる直前になり、

博士が本格的に目を光らせ始めた。

"今度戦う時は、水辺の森で"という約束の元別れた。


日時は決めていなかったが、ヘラジカはずっとここで待っていたのかもしれない。


「では...!!一の義、月波つきなみ!」


水を纏った刀を真っ直ぐにし、猪突猛進する。

ギンギツネは剣を持ち直し、剣先を下に向ける。


(その構えは...!)


「アイスウェーブ!!!」


直前で振り上げると氷の波が地上から出て来る。


(弐の義雨波あめなみからのっ...)


右手で刀を上げ、水のカーテンを作り氷の直撃を避ける。

しかし、凍結能力のせいで、それも凍り始める。

すぐに右手の刀を放し、左手の刀を抜いた。


「八の義!!飛沫波ッ!!」


氷を打ち砕く。


「ッ...!」

(こんな細い刀で氷を打ち砕くなんてっ...、

確かに凄いわ...!)


すぐさま右手の刀を回収した。


「お返しだ...、拾の義、氷波ひょうなみ!」


ギンギツネとの修行中に身に付けた技を出す。

先程のアイスウェーブとは異なり、

こちらは地中から飛び出すのではなく、地を這う。


「ブラックアイスバーン!」


後ろに剣を引き前へ振った。


ピキピキと音を立てた氷の波は、

まるでかまいたちにでも襲われたかのように

一瞬で破壊された。ヘラジカにもその凄まじい、

冷たい風が襲う。


「んっ...!」


肌が凍てつきそうなくらい冷たい。


「...強いな!」


「...どうも!私もあなたの技を身に着けたわ!」


剣を左斜めに持ち替えると、地面をまるでスケートリンクの如く滑る。


(あの型は...、まさか...)


「伍の義、巻波まきなみ!!」


ヘラジカの前で飛び、クルクルと三回転のジャンプを決める。


「参の義、逆波さかなみ!」


下から上へと刀を振り上げた。

自分の技同士がぶつかり合う。

しかし...。


「あっ...!」


後ろ足が滑り、姿勢を崩してしまった。


「フフッ、アイスバーンッ!」


剣を斜めに振り下ろすと強烈な冷たい風が襲いヘラジカが

滑る様に後ろに飛ばされた。


「ハァ...、寒いぞ...。というか、何故こんなに足元が滑りやすい!」


意外と地味な技に思えるが、そのダメージは大きい。


「ブラックアイスバーンは冷たい空気を剣に凝縮させ、

思いっきり放つ技。周囲の地面を凍結させ、自然のリンクを作り出す。

地の利を生かして、あなたも使うのが苦手な伍の義を出したって訳」


(飛ぶ...、か)


「悪いがギンギツネ...。もう時間のようだ」


「何?」


右と左の刀を、地に突き刺したあと、空中に飛び上がった。

2つの刀からは物凄い量の水が放出されている。


(空中ならっ!)


斜めに剣を構える。まるで、銃の標準を合わせるように。


「アイススピアッ!!」


「拾壱の義、青龍水十文字斬ブルードラゴンアクアクロス!!!」


二本の刀を重ね合わせ、ギンギツネに向かう。

一方で剣を長くするように伸びる氷がヘラジカに向かう。


「...!!!」



地面に降りたヘラジカは、ゆっくりと両方の刀をしまった。

数秒した後、バタリ、と音がした。

振り向くと、ギンギツネが仰向けで倒れていた。


「強くなったな...」


「...でも、あなたには勝てなかった...」


彼女は元の姿に戻っていた。


「ヘラジカ...、雪山に行って、キタキツネにこれを...」


差し出されたのは、金色のキセキセキだった。


「私の形見...、とでも言っといて...」


「なんだ、お前...」


「アナタがみねうちするのは知ってるのよ...。

この世界は、私にとって居心地が悪いの...。

私がやらなくても、彼女は自分で未来の道を探している」


彼女は鋭い氷柱を右手に出現させていた。


「キタキツネの...、未来に、私はいないわ...」


「...!」


手に持っていた氷柱を自身の身体に刺した。


「これで...、いいの...、敗者だから...」









「ねえ、どこまで行くの?」


センザンコウが尋ねた。


「わからないけど...」


「とにかく安全な所まで行くのだ!」


2人は安全な場所を目指していた。

だが...。


「Hey、ガールズ!!」


突如声がし、辺りを見回す。


「ど、どこなのだ!?」


「まずいっ!」


「「ミーは目の前ですネっ!!」」


急に2人の前に左右から現れたのは

分裂の能力を持つハクトウワシだった。


躊躇もなく、アライさんとフェネックの顔面を殴った。


「アッ!」


「ぐはっ!」


2人は背中をぶつけ、倒れる。


「きゃあっ!!」


センザンコウはハクトウワシに連れ去られてしまった...。



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