第十話 甘い強敵

サーバルの前に立ち塞がったのは、アルパカだった。


咄嗟に、腕を引き彼女に殴りかかる。

その目はいつもの優しい雰囲気を醸し出す物でなく、

真剣そのものだった。


迫ってくる彼女に対しニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる。

シュー...という音を立てながら、彼女の腹に拳を突き刺した。


「な、なに・・・!?」


ベトベトとした物の中にサーバルの拳が、食い込まれていく。


「あたしゃねぇ~・・・、お菓子の能力なんだよぉ」



(お菓子・・・、そうか!)

彼女の能力に気付いたかばんが声を上げた。


「サーバルちゃん!アルパカさんの体は"クリーム"なんだよ!!」


「クリーム!?」


「あまいカスタードクリームだよぉ・・・、さすがだにぇ。

サーバルちゃんの能力は発熱みたいだねぇ」


手を抜くと、べっとりとクリームに覆われている。

アルパカの体には穴が開いていたが、それも元通りに戻っていた。


(・・・。あんな能力、どうすれば勝てるの・・・?)


「めんどーだから、一気にやっちゃうねぇ~」


アルパカは笑顔で、3つのエクレアを浮かべる。

キンシコウにもやったあの技だ。


三角形の物体がサーバルに向かって勢いよく飛ぶ。


「...!!うみゃあああっ!!」


電撃のトライアングルが直撃した。


「サ、サーバルちゃん!!」


「残念だにぇ~。

今のサーバルちゃんじゃあ、あたしに勝てないよぉ」


指を鳴らし、宙に浮かんだのは二つのドーナツ。


膝を付き、サーバルも見上げていた。


「...ッ!」


「さようならぁ~」


アメで出来た堅い拳が穴から飛び出して来た。


「うっ・・・」


かばんも目を閉じて、その身を案じた。









「やっぱり砂漠はアチチなのだぁ...」


「そうかなー?」


フェネックとアライグマのマイペースコンビは

砂漠エリアを歩いていた。


先程リカオンから、博士たちが狙っているフレンズについての

情報があり、フェネックには心当たりがあった。


『オオセンザンコウ・・・、確か砂漠にいたような気がするんだ』


『それなら、砂漠に行くのだ!』



という訳で、この砂漠を歩いていた。



(でも・・・、金色のキセキセキって何だろう。

アライさんはロクに聞いてないからなぁ...)


そんな砂漠で2人はある人物と出くわす。


「・・・!君達は!!」


「タイリクオオカミなのだ!!」


「どうしたのさ?」


嬉しそうな顔を彼女は浮かべていた。


「色々言いたいことがあるけど...、とりあえずこれを受け取ってくれ」


タイリクは彼女らに金色のキセキセキの入った袋を渡した。


「これを他の仲間に届けてほしいんだ。お願いしてもいいかい」


「お任せなのだ!」


自信満々にアライさんが答えた。


「ところで、何しに砂漠へ?」


「オオセンザンコウを探しにねー」


フェネックが言うと彼女は"あっ"と声を出した。


「ツチノコから聞いた。彼女の住処を当たってみよう」


3人でオオセンザンコウの元へ向かうことにした。







「みゃあっ!!」


サーバルは空中に飛んだ。間一髪で、あのワザを避けたのだ。


「まぁー・・・」


アルパカも驚いたように上を見上げた。




『サーバル、あなたはその瞬発力を生かすべきだわ』


「しゅんぱつ?」


修行の際、カバに言われた。


『アナタは素早い動きが取り柄・・・。

その"目にもとまらぬ速さで圧倒させてやりなさい"』


「でもそんな...。

速くって言ったって・・・、ジェーンにも敵わなかったし...」


『他所は他所、ウチはウチ...。

彼女の速さは偽りの速さ。アナタのは本物よ。

実際・・・、自由に、自分が速いと思う動きをしなさい』


「自分が速いと思う動き・・・」




「うみゃああああっ!!!」


両手を素早く動かす。

爪で切り裂くという荒業に出たのだ。


これが彼女に対して有効なのかは、やらなければわからなかった。


両手からは大量の蒸気を発した。


「す、すごい速さ・・・」


かばんも遠くからその様子を見て、鳥肌が立っていた。


最後に拳を引き、彼女の体を貫いた。


「んにぇっ...!!」



スタッと、着地する。


「ハァ、ハァ...」


手からも"シュー"という音がする。

息を切らしつつも後ろを振り返った。


そこにアルパカの姿は無い。白い液体が水溜りを作っていた。


「・・・やった?」


「甘いにぇー...。

ホントーにサーバルちゃんはお人よしなんだからぁ」


「あ、危ないっ!!」


「えっ!?」


かばんが叫んだが、遅かった。

サーバルの両側には円形の...、クッキーだ。


そのまま、両側から挟まれた。


「ぅ...、みゃぁ...」


バタリと倒れてしまった。


「サーバルちゃんっ!!!」


「いくら早くてもにぇ・・・。あたしにゃ勝てないよぉ。

さぁ~、どうしよっかなぁ~。チョコにしよかぁ、ケーキにしようかぁ・・・」


「やめてくださいっ!!」


「どうしたのぉ?かばんちゃん」


「サーバルちゃんだけは・・・、やめてください・・・。

お菓子にするのなら、僕にしてくださいっ!!」


「ふふっ・・・、しょうがないにぇ~。

じゃあかばんちゃんはマカロンにしてあげよーかなぁ・・・」


「か、かば...、ん...、ちゃん...」


膝を付いて手を伸ばした。


(私が・・・、もっと、強ければ・・・)


マカロンの皮を出現させる。


「れっつクッキングでにぇ~!」


「・・・っ!」


自分の方に向かってきた。

もうダメだと、そう思った。




バリンッ!!




「・・・えっ?」


かばんが目を開けると目の前には・・・。


「へぇ!?」


「間に合って良かった・・・」



彼女は息を吐いた。


「ジャ、ジャガーさん!」




「そろそろ、本気を出さないとね...」


「無能力者のジャガーちゃんかぁ・・・。

いくら実力があったとしても無理だにぇ。だってこれがあるもん」


金色のキセキセキを取り出した。


「頼むよぉ!!」


彼女の声に呼応するかの如く、光り始めた。


「・・・その姿は、奇跡開放か」


「さあ、ジャガーちゃんからお菓子にするかにぇ~」


赤いスカーフを首に巻き、コック帽を被った、シェフ衣装のアルパカがそこにいた。

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