第八話 キセキセキの奇跡

「ハァ...、ハァ...」


こんな全力疾走は久しぶりかもしれない。

気が付けば辺りは明るく、陽が昇っていた。


タイリクオオカミは砂漠にいた。アミメキリンの言ったことを信じてこの地へ来た。

彼女は、『さばくちほーに行ってください』と伝えた。


一体この場所で何をすべきなのか。


(ここに住んでる奴は...、アイツらか...)




砂漠の迷宮入口。トンネルの途中に扉がある。彼女はネクタイと服を整え、軽く息を吐くと扉を開けた。


「ツチノコ、いるかい?」


そう声を掛けるが彼女の姿はない。


「...」


刹那


ドン、と何かが金属で跳ね返ったような音がした。後ろを振り向き確認すると下駄が落ちていた。


(これは...)


「おい」


背後から声を掛けられた。


「...やぁ、ツチノコ」


「お前何しに来た…。BGFなのは知ってるぞ」


「...落ち着いて話を聞いてくれるかい」


「なんだ?」


「...私はBGFでもNGFでもない。

ただ、アミメキリンの頼みを聞いているだけなんだよ。君達に手を出すつもりはないよ」


そう説明し、ゆっくりと振り返って、改めてツチノコを見た。


「変な奴だな」


「元々だよ...。ところで、ここに

この世界を変えることが出来るかもしれない道具みたいなのはないのかい」


ポケットに手を突っ込んだままのツチノコは呆れ顔を見せた。


「なんだよ、藪から棒にスケールのデカい話しやがって...」


「こっちは真面目に聞いてるんだよ」


「ハァー...」


態と、溜息を大きく吐いた。


「取り敢えず、ついて来い」


タイリクから下駄を渡される。

ちょっとだけ頬を赤らめた。





道中、近況について質問されたツチノコは

闊歩しながら答えた。


「俺は実は、りうきうに行ってたんだよ」


「えっ、本当かい?」


わかりやすく驚いた。


「まあ、かばん達が外に行ったのを見てな。俺も宝を求めて冒険したいって思ってな...」


「じゃあ、遺跡ここの管理は?」


「驚くな。スナネコだ」


驚くなと言われたが驚かざる負えない。

彼女の性格は、知っている。

あんな優柔不断な彼女に管理が出来るわけないだろうと、タイリクは突っ込みたかった。だが、それは言い過ぎだと思い、

冷静に言葉を変えて言った。


「スナネコ...?大丈夫だったかい?」


「ああ...。それがな、俺が不在の間に

博士が来たんだと。それで、七色のキセキセキを俺に渡せと伝言したらしいんだ

だがな...」


(もしかして...)


自分は漫画家だ。想像することは得意である。恐らく、これは誤ってスナネコが

七色のキセキセキで能力を得てしまったのだろうと。


「スナネコが能力を得ちまったんだよ」


予想通りだ。

七色のキセキセキから能力を得る為には強い願いを込める必要がある。

博士もスナネコが強い願い事をするとは

思っていなかったのだろう。


「まぁ...、不幸中の幸いとでも言えば良いのかな...」


はーあ...、と今度は態とではない純粋な溜息を吐いた。


「...ツチノコ、りうきうへはどうやって行ったんだい?」


「船をビーバーに作ってもらった。

沖まで出たんだけどよ、壊れちまってな。

気が付いたら、りうきうって感じで...

あん時は砂漠に引き篭ってれば良かったって後悔したぜ」


「それは...、災難だったね」


「まー、お宝も見つけられたし。

迷宮の宝は取り尽くしたしな。それに、

ちょっとだけ俺自身も変わりたいって...」


ツチノコは気恥ずかしくなったのか、

最後の方の言葉を口篭らせた。だが、

耳の良いタイリクには全て聞こえていた。

自分自身を変えると決意し実行したのはとても素晴らしいことだと思う。


(私自身を変える...か)




「おい、スナネコ」


その声と共に、明るい昼の日差しが

タイリクを包み込んだ。


中庭のような場所に出ると、

石の上でスナネコがだらしなく寝ていた。


その声に反応してか薄ら目を開ける。


「あっ、ツチノコさん」


「久しぶり...かな。スナネコ」


タイリクも遅ればせながら挨拶した。


「タイリク、土産を見せてやるよ」


ツチノコは更に奥の方へと手招く。

壁の裏側に入っていった後を追う。


彼女が入った場所には四角い金属製の箱ポツンと置いてあった。


彼女はしゃがんで箱のダイヤルを回し始めた。カチカチという音が本能的にタイリクオオカミの心を高ぶらせた。


ガチャッ、という音とともに扉が開く。

その中には、金色こんじきに輝く

七色のキセキセキに酷似した石が入っていた。


おもむろにツチノコは取り出して見せた。


「恐らく、お前の言ってたすげーやつは

これの事だろ」


「それは...」


「金のキセキセキだ。りうきうの恩人に

貰ったんだよ」


誇らしげな表情をツチノコは浮かべた。












「聞いたよ、博士!捕まえたんだってね」


「私は約束は守りますよ…」


「じゃあ、頑張ったご褒美!」


彼女は、机の上に金色の石を置いた。


「これは...」


「キセキセキ...、だよ!」









ツチノコは金のキセキセキをスナネコに手渡した。


「タイリクにお前の力を見せてやれ」


「えー...?」


スナネコは真顔で受け答えする。


「私からも頼むよ」


「...」


キセキセキを受け取ったスナネコは

石を両手で包み目を閉じた。


すると、体が光に包まれる。

あまりの眩しさにタイリクは目を隠した。


「その姿は...」


白色の、まるで天使のような衣装にスナネコは包まれていた。


「これが金のキセキセキの力...、

所謂、奇跡解放...」


「奇跡解放...」


「七色のキセキセキは野生解放を失う。

その代わり金のキセキセキを用いることにより、野生解放より強力な力を得ることが出来るんだ。そう、りうきうの恩人に

教えて貰ったぜ」


その説明を受けた時、確信した。


「ねえ、ツチノコ。折り入って頼みがあるんだ。その金のキセキセキを...、

私に預けてくれないか…?今、この島がおかしな方向に向かってるのを君達も知ってるだろう?」


タイリクは必死になってツチノコに懇願した。


「お前、この世界を変えたいのか?」


詰め寄って聞いた。

その目はヘビの様に鋭く、流石のタイリクも怖気づきそうになった。


しかし、アミメキリンの願いを叶えるため、こんな事で怯んではいられない。


「仲間が死んでく世界は見たくない」


「...、スナネコ」


「はい...?」


奇跡解放したままの彼女が起き上がった。


「お前の能力で、タイリクを助けてやれ」


「...どーしてツチノコは命令するんですかぁ?」


「は?」


「能力持ってるボクの方が上だと思うんですけどー」


唐突にワガママを言い始める彼女に呆れた顔を浮かべた。


「お前、そんな事言ってる場合じゃないだろ...!」


「冗談ですよー...。はぁ〜い...」


その言葉の後に出たのは大きな欠伸だった。


「あ、あれ、スナネコ?」


「あぁ...」


ツチノコが諦め切ったような声を漏らした。


「コイツはしばらく起きねえな」


「こ、こんな時にうたた寝って...」


外の喧騒を無視するような、安らかな顔で夢の世界に入り込んでいるスナネコに驚きを隠せなかった。


「しょうがない。コイツはマイペースだからなあ」


ツチノコも首の後ろを揉む仕草をして見せる。


「よく留守が務まったね...」


苦笑いを浮かべながら言った。


「スナネコのヤツ、運だけは良いんだよ」


あまり遅くなるのは嫌だが、無理矢理起こす訳にはいかない。仕方ないか、と溜息を吐いた。








助手にこの基地の場所がバレたNGFの者達は窮地に立たされていた。


振り上げた右腕は今振り下ろされんとしていた。


フェネックが右手を掲げていたのを見て、

慌ててヒグマは制止した。


「待て。ここで爆破したら瓦礫の雨が降り注ぐだけで完全な破壊は出来ない...!」


「っ...」


「無駄な足掻きはやめるのです」


勢いよく振り落とされた。


「壊すのがダメなら守ればいいのだ!」


アライさんが咄嗟にバリアを貼った。


「急いでっ!」


キンシコウが魚群を出し、大きな群れを成す。


全員それの上に乗り、きょうしゅう本土を目指した。


「これでも食らっとけ!」


ヒグマが燃え盛る棒を横に振ると、

火球が助手に向かって飛ぶ。


彼女を囲む様にクルクル回り始めた。


「ファイヤーオブリング...、

これでヤツは追ってこれない」


「ッチ...、相変わらず火というのはおどろおどろしい...」


『助手、聞こえますか?』


耳に手を当てた。


「何ですか」


『奴らはいいでしょう。

コチラから送り込めばいいだけです。

恐らく、バラバラになるので』


「わかりました...。退却します」









「みんな、いいか!これからは別れて行動する!相手を錯乱させる為だ。連絡は腕のやつを使え!いいな。捕えられたフレンズを奪還するんだ!」




きょうしゅう本土に着いたサーバルとかばんは一先ず、先に降りた。


「どうにかして...、またあそこに戻らないとね」


人工島をサーバルは見つめて言った。


「これ...、どうやって...」


腕の装置を適当に触っていると...。


「あ...」


点灯したのも束の間、そのモニターに映し出された人物の姿に驚いた。


『どうも、こんな形で再会するとは...

とりあえず、おかえりなさいです』


「リ、リカオンさん!?」


「えっ、リカオン!?」


サーバルも驚きを隠せないようだ。


「本物...ですか?」


かばんは恐る恐る尋ねた。


『まぁ、本物といえば本物です。

記憶もあるし、現にこうやってリアルタイムで会話できますからね』


「で、でも殺されたんじゃ...」


『そうです。殺されました。痛かったですよぉ...』


脇腹を摩って見せた。


『まあ、生きてるんですけど』


「どっちなの!」


サーバルが声を上げた。


『殺された時に、私の能力が発動したんですよ。私の能力は“情報化する能力”です。

デバイスを通じて自分の記憶、体と言ったモノを...』


「あの、わかりやすく言ってくれませんか...?」


申し訳なさそうにかばんが言った。


『オーダーキツいっすね...。

ざっくり言うと、自分の体の情報をパソコンの中に入れたんです。

今、この体は“プログラムされた体”なんですよ。でも、現実の体は失われてしまったので、もう直接先輩やかばんさん達に触れる事は出来ませんけどね...』


「でも、どんな形であれ、また会えて安心しました」


『本当に、一安心です...。

これからは、私が色々かばんさん達をサポートするんでお願いします。

とりあえず、他の人のウォッチを起動させて来ます...』


リカオンと思わぬ形で再会したかばん達だったが、本当の戦いはこれから、始まるのだった。誘拐されたフレンズを救うための...。







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