第七話 青く尊し命たち

秘密通路にてマイルカにヤマアラシを捕えられてしまったプリンセス達。

四神を解放する鍵として、必要になるフレンズ3人は非常にまずい状況に陥っていた。


「えへへ...、捕まえたら、海をキレイにしてくれるかも...」


「そもそも海の水は綺麗よ...、

とにかくヤマアラシを離しなさいっ!」


プリンセスは右手の拳を構えた。


(本当はこの能力...、恥ずかしいから使いたくないんだけど...!)


マイルカに駆けて行き右手を引く。

見た目は若干幼さが残るが油断してはいけない。

能力者に油断は禁物だと、厳しく言われた。頭部を狙う。


「わわわ...!」


マイルカが情けない声を出す。


「情に訴えても無駄よ!」


ドスンと重い音がした。


「...!」


プリンセスが叩いたのは硬い地面だった。

(いや...、確かに殴った...)


「な、なにこれ!!」


周辺に青いスライム状の物体が

飛び散っている。


「ゼリー化の能力じゃなければ...

アイタタでした...」


後ろを振り向くとドロドロとした液体が人の形を作って行く。


それはマイルカだった。


「...あんたスライムだった訳ね」


「そんなアナタこそ、腕が...

まるで銅像みたいでした」


「...」


彼女は博士に、無理矢理能力を与えられた。つまり、“七色のキセキセキ”の解放を迫られた。そして、能力を得たのだ。

だが、博士のやってることに違和感を感じた彼女は、メンバーに相談したが仲間割れを起こしコウテイと共に逃げ出したのだ。


...その時得た能力は、彼女のコンプレックスでもあった。


身体を金属に変える能力


「でも、トロそうで良かったです!」


明るい声とともに、驚く声が聞こえた。


「きゃっ!!」


「ああっ...!」


青色の...、セルリアンの触手を彷彿とさせる触手が地中から出てきてアルマジロとシロクジャクに巻きついたのだ。


「離しなさいっ...!」


「えー...、いやです」


マイルカはゼリー状の物体を飛ばす。


(あれに当たれば動きを封じられる...どうすれば...)


先程、彼女に殴った時のことを思い出す。


「...もしかして」


急に止まり、全身を金属化させる。


「....」


マイルカの放ったゼリー状の物体はやはり飛び散って行った。


「まあ、そうなんですよ。

私の攻撃は無機質には反応しない」


金属化を解き、マイルカを見る。


「でも、それって裏を返せばあなたの攻撃を私が一切受けないということです」


彼女は笑った。


「...袋のネズミさんですね。

自分だけ助かってもいいんですよ。

ただ、お仲間が...」


ゼリー状の物体に2人が取り込まれて行く。


「...っ」


完全にプリンセスは、詰んでしまった。


生身の攻撃でも、能力の攻撃でも、

あのスライムイルカに通用しない。

かくなる上は...


「こちらプリンセス...!

コードBSR!」


通信機を取り出し叫んだのと同時に、

ゼリー状の物体に包まれた。


「応援なんて...、無駄なことしますね。私のゼリーに包まれたモノは意識を失うと共に、液体化して私の意思で私の好きな場所に移動できます。つまり、この場所に証拠は残らない。さてと...、

博士さんに見せに行こっと!」


マイルカは自身の身体をゼリー化させ、

地中にどんどん染み込んで行った。


捕らえられた4人も、同時に...。






「はーかせ!」


マイルカが部屋に入ってくる。

名を呼ばれた博士はビクッとした反応を見せた。


「なんですか!ノック出来るやつがいないのですか!?ゼリー化して出てこないでくださいよ、全く...」


「ごめんね...!でも、見て見て!」


「これは...!」


「3人捕まえた!1人オマケが付いてきちゃったけど...」


嬉しそうに報告した。


「でかしたのです...、マイルカ。

お前の故郷の海をキレイにしてあげるのです」


「ありがとう博士!」


(さて...、これで、奴らは大パニックでしょうね...)


心の中でクスクス笑った。












「ハァッ...、Youはタフですネ...」


片膝を付いたハクトウワシ。


「はぁ...はぁ...っ...」


オリックスは想像以上に疲労が溜まった。

わかりやすく言えば、力が出過ぎて、制御できない。無駄な動きに力を使ってしまった。


「でも、mysteryですネ。

Whereから、そのpowerをgetしたのか...」


オリックスは立ち上がり、短刀を構えた。


「あなたも随分ヘロヘロじゃないですか...。ケリをつけさせてもらいます」


最後の力を振り絞り、短刀を振る。

短刀の周囲で渦をまいている。

そのまま走り、片膝をつくハクトウワシに

向かった。


「...フッフフ!」


ハクトウワシはその直前で飛び上がった。

巨大になった砂嵐を上空で避けた。


「私の目的は、アナタを倒す事じゃないデース!」


「なにっ...!?」


「時間稼ぎ...。ミッションは今頃コンプリートした...。これ以上戦っても無意味デース!それじゃ、See you next time!」


ハクトウワシはそのまま、逃げ帰って行ってしまった。


「ま、待ちなさい...っ!」


追いかけようとした時だった。



バンッ!



「はぁ...、はっ...、なに...?血が...」


失速する形で前に倒れた。



「“べーこく”は、Gun society。

自分の身は自分で守りマース...」










「クソッ...」


彼女は拳で思い切り机を叩いた。


「コウテイさん...」


後ろで気に掛けるように名を呼んだのは、

ヘラジカの部下、ハシビロコウだった。


「アイツは私に助けを求めた...。

ヒグマたちに大至急連絡するっ!緊急事態だ...!」









今日もサーバルちゃんは一日中地下室に篭もりっきり、アライさんはキンシコウさんに連れられ、フェネックさんは自分を抑え込む訓練。みんな忙しそうだ。

その点僕は何もしていない。


キセキセキは冷たく、何も反応しない。


そのことをずっと考えていた。


僕はフレンズではないから、野生解放が出来ない。キセキセキと引き替えるモノが無い。僕にとってこの七色のキセキセキはただの石ころでしかない。


力もないし、出来ることといえば、料理を作るとか、紙飛行機を虚しく折る事しか出来ない。


「...かばん?」


顔を上げるとジャガーが立っていた。


「あっ...、どうも」


「どうしたんだい?浮かない顔して...」


「あぁ...、いや...その...」


歯切れの悪い返事をする。

彼女はしばらく僕の顔色を伺った。


「...能力の事でしょ?」


そう尋ね口調で僕の横に座る。


「君は君にしか持ってないモノがある。

それを生かせるはずだよ」


「僕にしか出来ないこと...?

でも、僕はジャガーさんみたいに強くないし…」


ポンと、肩に手を置いた。


「戦うことが全てじゃない。

裏で指示を出すことも重要だよ」


「...」


僕は彼女の言葉を聞き、考える。


「自分に出来ることをする。

ただそれだけだ。一見役に立たない様な事でも、誰かの役に立ってる事もあるもんだよ」


(そうかもしれない)


と心の中で思った。

その時である。


慌ただしく、ヘラジカがやって来た。


「おいっ!!ヒグマはいるか!?」


「い、いないけど...」


ジャガーもその気迫で圧倒されるレベルだ。


「どうした、誰か呼んだか…」


頭を抱えながら、ヒグマが地下室から上がってきた。


「ヒグマ!!コードBSRだ!!」


その言葉を聞いた瞬間彼女の目付きが変わった。


「なにっ...!?おい!今すぐ全員呼べっ!!」


慌しい雰囲気に一変した。


「な、何ですか、BSRって...」


ジャガーは雰囲気に流されず、冷静に説明した。


「BSR。ブラックセルリアンの略。

つまり、“非常に危機が迫った緊急事態”

ってところかな」


「えっ...」


数分もしないうちにこの基地にいる全員が集まった。

全員いるのを確認するとヒグマがすぐに説明した。


「緊急事態だ...。

最重要フレンズである、アルマジロ、シロクジャク、プリンセスが誘拐された。

これから、ハンター権限に基づき奪還作戦を執り行う」


「えっ...、今から!?」


サーバルが驚く。


「四神を解放するためのフレンズが3人も奪われたんですよ…。すぐ様行動しなければ…」


キンシコウが言った。


「リカオンが遺した備品を配る」


一人一人に手渡されたのは、腕時計だった。


「これは、連絡手段だ。何かがあった時はこれで取れ。使い方は...、そのうち覚える!」


大雑把な事を言った。


「それで...、まず何をするのさ」


フェネックが尋ねた。


「奪還する前に、消息不明のフレンズの保護が最優先だ。それを行うことと、BGFの主要フレンズを倒す必要がある」


「倒すって...」


フレンズをセルリアン同様に扱う言い方に僕はゾッとした。


「やむを得ない」


短くヘラジカは言った。

するとヒグマは、僕の顔を見た。


「かばん」


「えっ...」


「君に作戦の指示を行って欲しい」


「ええっ!?」


突拍子もないヒグマの要求に驚く。


「黒セルリアンを倒した経験があり、

この中では1番君が指揮官に適合している。これはNGFリーダー命令だ。拒否は出来ない」


半ば、僕に押し付ける形を取った。


「そこでサーバル。君はかばんの警護をしてくれ」


「あ...えっと...わ、わかった!」


うんと、頷いた。


「で、でも、いきなり指揮を取れなんて言われても...」


ラッキーさんは壊れてしまって使えないし、何をどうしていいのか...。


「ん...」


フェネックの耳が動いた。


「どうしたのだ?」


「何この音」


キイイイイイイイという不気味な音がする。


次の瞬間バキッ、バキッと音を立てた。



全員が一斉に口をぽかんと開ける。


夕焼けの空を眺める。

そこには、1人のフレンズの姿があった。



「やはり、ここにありましたか...。

灯台もと暗しとは、まさにこの事。

変なタイミングに帰ってきてしまいましたね。生還で運を使い果たしましたか?

まあそれはどうでもいいとして...、

皆さんには死んでもらいましょうか」


上空に浮かぶ建物の残骸。

僕らの頭上にある。


そう宣言した彼女は、腕を振り下ろした。

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