第六話 ターゲットA



「我々には時間が無いのです」


暗い部屋に若々しい声が響く。

妙に落ち着きがない。


「手短に四神を復活させる鍵を集める必要があるのに...」


その口調には、焦りが見られる。


「残りはNGFの保護下に置かれてますからね...。ですが、我々の戦力では

勝てるかどうか...」


助手は弱気な発言をする。

そのまま言葉を続けた。


「恐るべきは、火炎使いのヒグマ...

水と刀を操るヘラジカ...、無能力のクセに我々を幾度となく追い詰めたジャガー...。おまけに、仲良し4人組もこちらに戻り能力を有しています。」


「我々に良い風が吹いていないのは確かです。ですが、この“奇跡の力”をもってすれば、不可能を可能に出来ます」


ガチャッと勢い良く扉が開いた。


「...ノックをしてください。心臓に悪いです」


「oh...ソーリー...」


やけにネイティブな発音だった。


「これが“べーこく”のculture…

ジャパニーズは厳しいですネ」


「べーこくでもノックはします...

ホラを吹かないでくださいよ...」


小声で助手が呟いた。


「ともかく...。

あなたに例の作戦を任せます」


「オーケイ!」


明るく返事をする。


「targetAですネ!アナタにveryhappyなニュースをとどけます!」


「...期待してるですよ」


背中を向けてそう言った。


「レーッツ、ジャスティス!!」


軽快にスキップしながら、退出した。






「あのテンションはついて行けないのです」


「同感です...」




そのやり取りが行われた数時間後。

一夜明けた昼間。


本島 へいげんにて




「それでここが、私達の支部よ」


「はい...、わかりました」


シロクジャクに基地を一通り案内したのはNGFメンバーのロイヤルペンギンのプリンセスだ。ここの基地警備を自ら買って出た。


支部と言ってもヘラジカの屋敷だ。

ヘラジカの部下、シロサイ、パンサー、

ハシビロコウ、ヤマアラシはスパイや情報員として活躍している。


一方、アルマジロは狙われている身であるので、常に警備のアラビアオリックスが片時も離れず付いている。

ライオン側にいるべき彼女だが、込み入った事情で、こういう状況になっている。


もうひとつ支部があり、そこでコウテイは活躍している。


「あの...、私は何をしてれば...?」


「特にこれといって制限は無いけど...あまり、外に出ない方がいいわね」


シロクジャクは少し俯く。


「あの...、私は一体どうして狙われるんですか?」


その質問にプリンセスの顔が引き攣る。


「それは...」


大方の説明はヘラジカから聞いてる。

自分が神を解放するのに重要なフレンズだからと説明しても、かえって混乱するだけだ。それに、自身がそうだと聞かされた時の経験もあり、隠すことにした。


「私も...、よく知らないっていうか

あまり詳しい情報は教えるなって言われてるの。ごめんなさい...」


言葉を濁すしかなかった。

シロクジャクの悲しそうな顔が、心に突き刺さった。






「オーケイ...、ココがきょーしゅーへーげんね...」


上空から草原を見渡した。

すると。


「...誰よ!」


「What!?」


物凄い速さで自分にぶつかって来た。


「見かけない顔...、BGFの者?」


「I don't know Japanese…

Sorry,Can you speak English?」


「は...?」


聞いたことも無い言語に困惑する。


「とにかく...、ここは許可なく通る事が出来ないの。引き返してくれるかしら」


目を細くして言った。


「NGFのトキさんですネ?」


「...」


トキは名前を呼ばれた時点で、身構えた。本能的に、危険を感じた。


「このきょうしゅうの空を守ることを任されてるの...」


「Oh…、アッハハハハ!

It great!そーですね!とてもグッドなミッションだと思いまス!

But…、そのミッション、インポッシブル...」


「...」


不敵な笑みを浮かべる彼女。

益々気味悪くなった。


「マイネームイズ...、ハクトウワシ。

好きなワードは“Amerika first!!”」


「...!!」


トキは目を疑った。

目の前で彼女が“2人”になり、拳が飛んできた。


「くっ...!」


両腕を前にし、2人の拳を防ぐ。

基礎体力を上げてはいるが、能力無しで

この攻撃を防ぐのはキツイ。


2人のハクトウワシが口を揃えて言った。


「分裂の能力は実にExcellent!!

No 能力のアナタは...!」


力が強い。2倍の攻撃に耐えきれず、

地面に向かい突き放された。


「あっ...!」



森の中でドカンという音がした。




「Yes we can!!」


そう呟き小さくガッツポーズをした。


「待ってて!ターゲットA!」




地上のトキは睨むように空を見上げた。

(このままじゃ...、まずい...)






「大変ですっ!!」


屋敷にそう駆け込んで来たのは周辺警備が担当のヤマアラシだった。


たまたま外にいたオリックスが声を掛けた。


「どうしたんですか」


「上空に知らないフレンズが...、

BGFかもしれないです...」


顔つきを変え槍を持つ。


「プリンセスさんに2人を守るように伝えてください。状況によっては、通路を使って移動を」


冷静に指示を与えた。

ヤマアラシは頷き屋敷に入って行った。


広い草原の方に駆け足で向かう。


嘗ては、“オーロックス”と“ツキノワグマ”という頼れる存在がいたが、BGF側についてしまった。


孤独な戦い。




何故、ライオンは博士の側についたのか。元々彼女は争いが好きでは無かったはずだった。

神の島計画が持ち上がると、七色のキセキセキの被験者として何人かのフレンズが指名された。その1人がライオンだった。中には、ヒグマやヘラジカなどもいた。


彼女は当初能力に関して何も興味を示していなかったが、能力の本当の力を知るにつれて、性格が豹変してしまった。


彼女を慕ってきた3人はどうするべきか

選択を迫られていた。博士の非道な行いを知った上での事だった。


オーロックスは、「ライオン様はライオン様だ」と言い、彼女の傍につくことを決意した。


ツキノワグマは非常に悩んでいたが、

「拾ってくれた恩がある」とやはり、ライオンにつくことにした。


オリックスはと言うと、ライオンと決別する覚悟を決めた。相当思い悩んだ末に自分が出した結論だった。

やはり、博士のしていることは間違っている。正義を貫き通すことにした。


その旨をライオンに伝えると、

「そう」と無関心そうに言われた。

それだけで、感情を顕にすることはなかった。だが、別れ際...


「もし戦うんなら、本気でやりな」


という言葉と共に、金色の石をくれた。

今でも大切に身に付けているが、この

石がなんの石であるのか、一切わからなかった。


何故ライオンがアレをくれたのか。

どう言った経緯でアレを入手したのか。

オリックスの中では永遠の謎だ。


かつての事を思い出していると、平原の公園にたどり着いた。

上空を見上げると、何やら大きな鳥のフレンズが旋回してる。

オリックスが槍を構えてみせると、

徐々に高度が下がり、地面に足を着かせた。




「何者...!」


矛先を向け、尋ねる。


「ハクトウワシ...

BGFのExecutive!!」


「アルマジロ達は...、私が守ります」


そう宣言すると、彼女は笑った。


「1人でWhat can you do?」


「...!」


ハクトウワシは分裂し、オリックスの周りを囲む。


「あなたの能力...、気味が悪い」


「さっさとケリを付けます!

レーッツ、ジャスティス!!!」


全方位からバラバラに素早い動きで

殴りかかってくる。


(この中に本体が居るはず...)


槍で向かってくるハクトウワシを突き刺す。


突き刺さったニセモノは消えていくが、キリがない。


「この速さを...、封じ込めないと!」


槍を回し、地に突き刺す。


槍から巨大な砂嵐が巻き起こり、ハクトウワシの大軍を飲み込んでいく。


「アハ!まるでTexasみたいですネ!」


「...そこ!!」


前方を砂嵐で処理している間に後ろから狙ってきた本物のハクトウワシの攻撃を防いだ。


「実に...、niceデース...」


「おちょくるのもいい加減にして」


その瞬間、彼女はニヤリと笑った。


「まさかっ...!」


気付いた時には遅く、前方から強烈な拳が飛んできた。

もう1人のハクトウワシが猪突猛進で突っ込んできたのだ。


オリックスは飛ばされた。


「うっ...」


「こっちは何人も増殖できマース!

1人のアナタは何も出来ない...」


「なら...、本気で行きますよ」


「What?」


槍を横に持ち、真っ直ぐに突き進む。


(こんな技、余裕ですネ。2人に分裂すれば...)


しかし、事態はハクトウワシが思っていた方向とは逆の展開になる。


「...!」


向かってきたハズのオリックスの姿が

一瞬にして消えた。


「Why!?」


気配が感じられない。


「まさかッ!」


彼女が現れたのは地中からだった。

その槍で本物のハクトウワシを突き上げる。


「私は大地と同化出来る!」


大きく弧を描く様にハクトウワシは地面に落下した。


バタッという音が響く。


大技を決めたオリックスは彼女に近付いた。


「...」


「It’s great…。grandの能力...、スバラシイ」


片言で彼女を褒め称える。

オリックスは顔色を一切変えず、槍を喉元に向けた。


「あなたの生命、頂きますよ。

弱肉強食、ご存知ですよね」


「アハハハ...、オッケー...。

ソーリー、アナタに謝る。ゴメンなさい」


命乞いをするハクトウワシをまじまじと見つめる。


「私だって殺したくない。

あなたがもう一度襲わないと約束するんだったら」


「オーケー...。I promise you…。

No wars。Love and peace…。

もう戦わない。平和、イチバン...」


そう言ったので、槍を喉元から逸らした。




刹那


「んぐっ!?」


首を後ろから誰かに締められる。


「アハハハ...!」


「まさかっ...!!」


「でも、分裂の能力の方がvery very Excellent!!」


ハクトウワシは油断をさせておき自分の分身を背後につかせオリックスの首を両腕でガッシリと締め付けたのだった。


「I will break my promise.

I have to kill you.

That is God's announcement.」


「ぐあっ...」


締め付けが強くなる。


(このままでは...、死ぬ...)





“もし戦うんなら、本気でやりな”



(ライオン...様っ...!)




「ん...!」



その時、地中から唐突に砂嵐が巻き起こった。

寸前の所でハクトウワシは避ける。


「オーマイガー...」


その砂嵐の凄まじさに言葉を失った。

中に目を向けると、何かが光り輝いている。


そして、砂嵐が弾け飛び、キラキラと降り注いだ。


中から姿を現したのは...。


金色の丈の長い薄い布を全身に身にまとい、同様の布で頭を覆い、口元をスカーフで隠す。首元には装飾品。そして、手には曲がった独特の形をした短刀。


アラビアン衣装のアラビアオリックスがそこにはいた。


「Why Japanese people!?」


ハクトウワシも驚きを隠せない。


(何だか...力が漲る...。野生解放に

似た感じの...。これなら...行けるかもしれない!)







アルマジロとシロクジャクを導き、

秘密の通路を通り移動していた4人。


突然の出来事に全員、終始困惑せざるおえなかった。


(まさか直接狙ってくるとはね...、白昼堂々...)


思ってもいない大胆な襲撃だ。


この通路は元々プレーリーが掘った穴をフレンズ達が協力して、人が通れる大きさにしたものだ 。

先頭を移動していたヤマアラシが曲がり角に差し掛かった時動きを止めた。


「ど、どうしたの...?」


その後ろを歩いていたプリンセスが尋ねた。


「...シッ!」


後ろを振り向き人差し指を口にあてた。

慎重に覗き込む。


「まさか...」


プリンセスは嫌な予感がした。


「きゃっ!」


地下通路にヤマアラシの声が響く。


「なに!?」


彼女は何かに引っ張られるようにズルズルと立ったまま引かれる。


プリンセスもその角の先を見た。


「あ...、あなたは!!」


通路の真ん中にいたのは、ワンピースを

着た少女だった。


「やっぱり...!ハクトウさんの言う通り...!3匹も!」


「あうっ...」


いつの間にか、ヤマアラシはゼリー状の物体に取り込まれている。


「マイルカ!どういうつもりなの!」


プリンセスの怒号が飛ぶ。


「博士さんは私達の海が汚染されてると言ってました。汚染された海にいたら病気が起こるって。海を綺麗にするために博士さんが手を尽くす代わりに言うことを聞いて欲しいって...、それがハクトウさんの命令を聞くことでした」


「あんたねぇ...、少しおかしいと思わないの...!?」


「おかしいって何がおかしいんですか?

博士さんは能力もくれたし、おかしいことはひとつもないですよ」


ダメだな、と悟った。

対話じゃ埒が明かない。


「わたしはあなた方を捕まえます!」


「二人ともっ、後ろにいなさい!」


アルマジロとシロクジャクに命令した。

小さく頷いて見せる。


「あなたの好きにはさせない...!」


プリンセスは2人を守る為に、戦う事を決意したのだった...。



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