第五話 NGF緊急招集

キンシコウとアライさんがフェネックを

探しに出た頃、ヒグマはサーバルの様子を伺いに下へと降りた。


ガラスの窓から伺おうとしたが、

白くなっており、中の様子が全く伺えない。


(どうなってるんだ...?)


中へと入る唯一の扉を開けた。

と同時に、蒸された空気が彼女を覆った。


「なんだ...、この湿気は...」


思わず口に出してしまう程だ。

そんな空間の中でサーバルは、汗を垂らしながら、軽い身のこなしでホログラムのセルリアンの大群の相手をしていた。


ヒグマは彼女のフォームに、既視感があった。それは紛れも無い、空手を極めたジャガーに酷似していたからである。

しかし、完全に一致とは言えない。

ジャガーとサーバル、大きく異なる点

それは、能力と飛び跳ねて蹴る動作が多いということ。


サーバルの能力は“発熱”


触れたものの温度を著しく上昇させるというもの。使い様によっては自身の体温を向上させ、熱せられた拳で敵を打ち砕く事が出来るという事だ。


「みゃあっ!!」


最後のセルリアンに攻撃を当てた。


「サーバル、これで試練はクリアよ」


カバがそう伝えた。

サーバルはふぅ、と片腕で額の汗を拭う。しかし、手袋も蒸れて少し気持ち悪い。


「あなたの基礎体力を見積もって今回のレベルにしたけど、さらに向上出来ると思うわ。キツいと思うかもしれないけど…、かばんを守れるのはあなたしかいないわ。サーバル、頑張ってちょうだい」


「...もちろんだよ」


サーバルは言い返さないカバに向かいそう述べた。


「サーバル」


ヒグマはタイミングを見計らい、声を掛けた。


「あっ...ヒグマ...」


「随分と熱心にやったみたいだな。

水を飲んでから上に来い...」


そう述べただけで、立ち去って行った。


(私は...、かばんちゃんを守る...)


再度、自分の掌を見た。






サーバルが上に戻った時、フェネック達は常に戻ってきていたが、何やらとても深刻そうな様子だった。


「あ、サーバルちゃん...」


「かばんちゃん...、一体何が...?」


「ヒグマさんが今緊急招集を...」


「えっ、なにそれ?」


酷く疲労困憊した様子で、猫背で座るキンシコウを気遣う様に、フェネックとアライさんは彼女を挟む形で座っていた。


ジャガーは口を固く結び、腕を組んでいた。


キイイイッ


唐突に音がしたので振り向くと、本棚が開き、その後の通路からヒグマが出てきた。


「今から緊急の会議を行う」


そうヒグマが言うと、ジャガーが座るソファーの真ん中にドンと座った。





何が起こってるかわからないサーバル。

すると、唐突に視界が暗くなった。


「みゃっ...」


「だーれだ?」


「その声は...、ヘラジカ?」


「アハハ、ご名答!」


厳かな雰囲気の場が少しだけ緩んだ。


ヘラジカは、ソファーには座らずにヒグマの後ろに立った。


「さて、3人のNGF主要リーダーが

揃った所で、会議をしようか」


ヒグマが淡々と語った。


「まず、第一にリカオンが殺された」


全員沈黙する。

僕はこの時、フェネック達とキンシコウの様子がああだった理由を悟った。


「BGFのギンギツネがやったそうだな」


「...はい」


小さい声でキンシコウが呟いた。


「戦いを終わらせたければ、コウテイとプリンセスとオオアルマジロを渡せと言ってきたのだ」


少しキレ気味の声でアライさんが言った。

ヘラジカはそれを聞き首を傾げたが、

何も言わない。


「プリンセス、コウテイ、オオアルマジロは私達NGFの仲間だ。今この場所にいないが、きょうしゅう本島の支部にいる。オオアルマジロに関してはヘラジカが面倒を見てるだろ」


と、ヘラジカの方を見た。


「やはり...、

博士達の狙いは“アレ”か」


「アレって...、なんの事だい?」


ジャガーが尋ねる。


「単刀直入に言うと、四神だ」


「四神...、だと?」


ヒグマの目付きが変わる。


「四神って言うと...、黒セルリアンが出た時、僕たちが山に登って...」


「ああ、その四神だ」


うんうんと頷いた。


「実は...、こちらもスパイを送り込んだんだよ。カメレオンを。定期的に報告もしてもらっていた」


「何!?何故それを言わなかった!?

情報は共有すべきだろ!」


ヒグマは立ち上がりヘラジカに怒鳴った


「こっちは本島の件で忙しかったんだ。

仕方ないだろう」


「早く話の続きを聞かせてよ」


ジャガーが言った。


「...で、カメレオンの報告によると

博士は四神を呼び出そうとしている。

その儀式に必要なのが、PPPの5人、

アルマジロ、センザンコウ、クジャク、シロクジャク、ホワイトタイガーの10人のフレンズだ。私は真っ先にプリンセス達と共に、このフレンズの保護を協力して行っていた。だから、最前線にいるヒグマ達に報告ができなかったんだ」


「待ってください...、もしかして、

“神の島計画”って、四神を呼び出すためのフレンズを集める計画って事ですか?」


「おそらく」


ヘラジカが低い声で言った。


「推測するに、博士の魂胆としては、

能力を駆使して、そのフレンズ全員を捕まえたかったんじゃないかな。

しかし、BGFとNGFに仲間割れした。

PPPの3人はBGF、2人はNGFと言う様に...」


ジャガーが腕を組んだまま、考えを伝えた。


「博士の事だから、能力を餌にして

ひっかかるのを待とうと思ったのかもな」


と、ヒグマは言った。


「つまり、私達のやるべき事は、

博士達が狙うフレンズを守り切る事だ。

しかし...」


一旦言葉を区切り、短く息を吐いた。


「クジャクが向う側に捕まり、ホワイトタイガーとセンザンコウの行方がわからない」


「なるほど。

BGFの奴らは脅迫してきたんだ。

リカオンを殺して、これ以上死人を見たく無ければ、大人しく引き渡せって…」


ジャガーの言う通りだと、僕は思った。

卑劣なやり方だ。

逆らう者は虐殺し、従順する者は優遇する。けものはいてものけものはいないというこの島の文化的な掟が崩壊している。驚愕と言うよりかは、落胆した。


「解決手段で手っ取り早いのは、

博士と直接対決しかない」


ヒグマは真面目な顔を向ける。


「こっちは大切な親友を亡くしたんだ」


とても、重い一言だった。


「カワウソの為にも...、元の平和な世界にしてあげないと。

過去は変えれなくても、未来は変えられる...」


ジャガーは自分に言い聞かせる様に言った。


「ライオンも、BGFの仲間になってしまったと聞いている。残念だが、やる時は腹を括らなければいけない」


「ヘラジカ...」


サーバルは少し心配になった。


「これから、行方不明のフレンズの捜索班と、博士達と戦うための作戦を考える必要がある。今日は1日休んでくれ...

以上だ」


ヒグマはそう言うと、立ち上がった。

気が付けばもう、明け方。

人生でとても長い一日だったと、僕は思った。






「はぁ...」


タイリクは森の中を彷徨っていた。


(シロクジャクがあっちに取られたことを知ったら、博士は私を殺すかもしれない...)


死にたいけど、死にたくはない。

心の中で何度も葛藤を繰り返していた。


そのせいか、余計に疲れてしまった。

岩に腰かけ、大きな溜息を吐いた。


「どうすればいいんだよ...」


星空に向かい1人呟いた。








「...さん...、オオカミさん...!」


その声でそっと目を開けた。

純白の空間よりも真っ先に、彼女の姿で

驚いた。


「ア...、アミメ...」


彼女の名を目の前で呟くと、熱いものが込み上げた。


「何時からそんな泣き虫になったんですか...」


呆れた様に彼女は言う。


「...ごめん...、私の心が...、弱いばかりに...、君をっ...」


涙ながらに、謝罪の言葉を述べる。


「アリツカゲラも...、仲間になって...私は彼女も...」


「自分ばかり責めないでくださいよ。

らしくないです」


「...」


「オオカミさん、さばくちほーに向かってください」


「...え?」


「それが私の、お願い事です。

引き受けてくれますか…?」


「も、もちろん!」


迷うことなく、快諾した。

彼女の頼みを断るなど、ありえない。


「なら、よかった...

先生には平和な世界を作ってもらいたいんです」


優しい笑顔を浮かべて見せた。


「私はそばで先生のこと応援してますよ!」


そう言うと、駆け足でタイリクに飛びついた。


久々の抱擁。


これが夢であり、永遠に続かぬ時間である事は十分に理解している。

それでも、心の中の不安を払拭できた

気がした。




目が覚めると、朝陽が清々しく、

とても眩しく感じた。

決意を固めタイリクは、さばくちほーへ向かい走り出した。

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