第四話 ミッドナイトティーパーティ

ヒグマの試練にキレたフェネックは、一人、博士が肝いりで

整備したという、人工島の中心地を歩いていた。

道が広いわりに、出歩いているているフレンズはいない。


ポケットに手を突っ込んで歩く。


「はぁ・・・」


アライさんには会うなって言われたし、

何もない部屋に閉じ込められるし、

何より、緊急事態とはいえ、能力を得てしまった事を

少し後悔していた。


深夜、街灯が灯る街中を歩いていると・・・


「あれぇ?」


聞き馴染みのある声だ。

顔をふいと上げると...。


「アルパカ...!」






アライさんとキンシコウが僕の所へ戻って来た。

サーバルちゃんはまだ、熱心に修行しているのか話が長引いているのか。


「あれ、フェネックはいないのだ?」


僕は"あっ"と心で声が出た。


フェネックはヒグマさんとケンカかなんかして、一人で外に・・・


「どうしたんですか?」


キンシコウが声を掛ける。


「えーっと...」


なんて説明したらいいのか。

目を泳がせる。


「かばんさん...?」


アライさんが怪しむ様に見つめる。


「一体何があったんですか」


「そ、それは・・・」






「ハカセに頼んでにぇー、オシャレなお店を貰えたんだぁ~」


嬉しそうに彼女は語った。

まあ、私はその店で、紅茶を貰ったわけだが。


「フェネックちゃんが来てるってことは、

かばんちゃん達も来てるんだねぇ」


「そうだね...」


紅茶の味は以前と一切変わらなかった。

しかし、博士が悪い奴みたいな話をヒグマから聞かされたが、

実際そうなのだろうかと疑ってしまう。

アルパカにこんなオシャレなカフェを提供するとは。


「・・・意外と博士って優しいんだね」


「そりゃぁもちろんだよお。

博士はなんでも願いを叶えてくれるよお。

それなのに、なんで一部のフレンズが博士の事を

恨むんだろにぇ...?」


「それは・・・」


答えようとしたとき、言葉が詰まった。

ヒグマの会話を思い出したからだ。


(フレンズ・・・、優遇・・・)


でも、今はそんなこと、考えたい気分ではなかった。

急いで話題を変えようと、即座に思いついたことを発言した。


「そういえば、トキとは仲良いの?」


そう尋ねると、アルパカの顔が一瞬ひきつった。


「・・・トキちゃんねぇ」


ふぅ、と軽い息を吐く。


「トキちゃんとはしばらく会ってないなぁー...」


「・・・会ってない?」


「喧嘩しちゃったんだよねぇ。あたしはねぇ...

トキちゃんのために仲間を増やそうって、博士にお願いしようと

思ったのに・・・。トキちゃんはそのチャンスを棒に振ったんだよ」


すると、アルパカはカウンターに身を乗り出した。

唐突の行動にフェネックは少し引いた。


「博士は神様にお願いできる力を持とうとしてるんだよぉ...

あたしはそれを信じてるんだぁ...。

フェネックちゃんも信じてくれないかなぁ?

きっと博士の進めてる"神の島計画"に協力すれば、お願い叶えてもらえるよお!」


「・・・」


「それとも、フェネックちゃんは博士に歯向かうのかなぁ?」


片目でフェネックをまじまじと見つめる。


「アルパカ...、能力者なの?」


彼女はフフッと、笑った。怪しい雰囲気を醸し出す。


「まぁにぇー・・・」


「どんな能力なの?」


「...、もう始まってるよぉ」


そのセリフに背筋が凍りついた。

咄嗟に自身の体の異常を確認する。


「...!!」


胴体が何かで固められた様に茶色くなっている。


「いつから...」


「フェネックちゃんが紅茶を飲んでる時だよぉ。

大丈夫大丈夫ー。別に約束さえ守ってくれれば危害は加えないからぁ」


「や、約束・・・?」


「博士の味方になってくれなぁい?」






一方、キンシコウとアライさんはかばんの話を聞き、

市街地の方へ走っていた。


「ヒグマさん・・・、不愛想だからっ・・・」


「フェネックは大丈夫なのだ!?」


アライさんが不安そうに述べる。


「大丈夫だ...って、断言したいですが、

ここは敵の庭、能力持ちのフレンズしかいない...。

とにかく急いで、フェネックさんを見つけないと...!」


「でも、この島広そうなのだ・・・」


アライさんの言葉にキンシコウはほほ笑んだ。


「その為の私の、能力です」


走る最中、棒を地面で突く。

追尾するように、金魚が現れる。


「フェネックさんを見つけたら教えてください...」


そう指示すると、四方八方に散らばる。


「凄い便利なのだ...!」


「これである程度効率化できたはずです。

BGFに見つかってないと良いんですがね...」






「なにこれ...」


フェネックの胴体部分を茶色の物がコーティングしていた。


「チョコレートだよぉ」


アルパカは愉快に言った。


「チョ、チョコ?」


「カカオ豆っていうものから出来る甘いお菓子だよぉ...

紅茶にピッタリなんだぁ...」


睨み付ける様にアルパカを見る。


「私をチョコレートにするつもり?」


「さぁー・・・。それは返答次第だにぇ・・・」


チョコになりたくなければ、博士の仲間になれということか。

自分自身としては、どっちにも関わりたくない。

しかし、逃げる道はない。

自身の能力で爆発させようとすれば、自分の体まで爆発で吹っ飛んでしまう

という想像くらい、容易くできた。


「私は・・・」







「キンシコウ!」


アライさんが大きな声で呼び止める。

急停止して、後ろを振り返った。


「フェネックはあっちにいるのだ!

確証はないけど・・・、絶対いるのだ!」


と、指をさしながら力説した。

キンシコウも一時の迷いもあったが、

ここはフェネックと強い絆で結ばれている彼女の勘を信じることにした。


力強く頷き、アライさんの後に付いて行った。





「ふうん...、そういう結論なんでにぇ...。

あたしは戦うのそんなに好きじゃないけどぉ...。

まあ、やるだけやってみなよぉ」


アルパカなりの慈悲なのか、それとも舐められているのか。

足や腕は、拘束されていない。


しかし、あることに気付く。

爆発させる物がない。


周りのビルを壊しても、目立ちすぎる。

返って応援を呼ぶかもしれない。


この状況でフェネックがやるべきことは・・・。


「もっと、あなたの能力を見せてよ...」


「んー?」


「あなたの本当の能力がどれほどの物か。

私の能力より弱かったら、フェアじゃないじゃん」


煽ることであった。


「...フフッ、ケガしても文句言わないでにぇ?」


右腕から、アルパカが作り出したのは、丸く肌色の物。


地を這うノコギリの様にフェネックに向かう。

左手を差し出し、爆破能力を発動する。


が。


「...えっ」


爆発しない。

そのまま眼の前に迫る。


慌てて、横に避けたが、さらに違和感があった。


(体が重いっ...!?)


ドスンと重い音がした。



「アレを爆発か何かさせる気だったのかなぁ?

でも、出来ないんだよにぇー。

だって、あのクッキーは、"生物なまもの"だからねぇ」


「...はぁ?」


倒れた地面からアルパカを見上げる。


「あたしの能力はぁ、"スイーツパーティ"って博士が名付けてくれたんだぁ。

あたしが生み出すお菓子は全部、生物扱い...。無機物じゃないんだよぉ。残念だにぇー。

フェネックちゃんは友達だと思ってるから、楽にチョコレートにしてあげるよぉ」


左手を振り上げようとした時だった。


別の爆破音が轟いた。

アルパカは、目を細め、煙幕の向こう側を見ようとする。


「こ、これは...」


「フェネック!!」


聞き覚えのある声だ。


「アライさん...!!」




「まさか温厚そうなアナタが、片棒を担いでいるとは。

正直言って、残念です」


「キンシコウちゃんかぁ・・・」


煙が晴れ、アルパカに棒を向ける。



「情報にはありませんでした」


「...、そっちの情報筋の連絡不行き届きだったんじゃないのかなぁ?」


「フレンズに危害を加えたイレギュラーと判断し、

ハンター権限であなたを駆除しますよ」


真面目な顔を、アルパカに向け、強い口調で迫る。


「ひどい話だにぇー・・・。

でも、流石のハンターさんでも、あたしにゃ勝てないよぉ」


「随分自信があるようですね」


棒を叩き、金魚を出す。


「その自信の根拠を、明確に証明してください」


そして、アルパカに棒を向けた。

同時に、ミサイルの如く垂直に発射する。


「フフッ!」


だが、動揺するわけではなく、笑顔を見せる。

ものすごい速さで突っ込み爆発した魚達。


避けるわけではなく、すべて自身の身で受け止めたのだ。


「あ、あんな爆発じゃさすがの、アルパカも...」


アライさんが煙を見ながら言った。


「・・・、いや。彼女は・・・」


煙が晴れ、彼女の姿が露わになる。



「無駄なんだよにぇー・・・。

フェネックちゃんに言ったけど、"スイーツパーティ"

の能力は・・・、無敵だよぉ」


攻撃を受けたと思われる箇所が、生クリームの様な

ドロドロの液体と化している。


そして、体が元通りに復元したのだ。


「な、何なのだ!?」


「あたしの体ぁ、ダメージを受けたところをクリーム化して、

避けたまでだってぇ!安心してよぉー!」


あははと笑いながら、説明した。


「確かに厄介ですね...。見縊ってました」


「そりゃあ、一応あたし博士のお気に入りだからにぇ。

キンシコウちゃんみたいな子に倒されてたらぁ、博士に申し訳ないよぉ」


「ならば...」


再度地面を付いて、魚を出す。

今度は直接向かうのではなく、大きく迂回する形で飛ぶ。


(先ほどと同じく彼女は爆発した瞬間受け止めるつもり...

予期していない箇所への攻撃は通用しないっ...!)


勢いよくアルパカに突っ込む魚達。

爆発とともに巻き起こる煙幕の中にキンシコウは突入した。



飛んだキンシコウは棒を思い切り煙幕の中のアルパカに向かい振り下ろした。



ガツンという何か、固いものに当たった感覚がした。


「・・・!!」


「避けれなければ、守ればいいんだよぉ...」


ウエハースの盾を出現させ、キンシコウの攻撃を防いだのだ。


「だから言ったでしょぉ?勝てないってさぁ・・・」


刹那、黒色の物体を3つキンシコウを囲むように出現させる。

そして...。


「ああっ...!!!」



「キ、キンシコウっ!!」


アライさんとフェネックの目の前で、白い光が発生する。


「"エクレア"の語源は雷って意味なんだよぉ...」


「ぐっ...、ハァ...、つまり...

強い電撃を私に打ち込んだということですね...」


片膝を地に付きながら言った。


「正解だよお!すごいねぇ!!」


舐めたような口調だった。


「だけど...、このくらいでッ...」


立ち上がろうとした時だった。


「なにっ...!?」


体に何かネバネバしたものがくっつき、立ち上がれない。


「いい~?それは水飴だよぉ...。固まって動けなくなるにぇ・・・」




「危ないっ...、キンシコウが...」


「・・・、アライさんに任せるのだ」


その発言にフェネックは驚いた。


「えっ?」




アルパカは二枚のクッキーを出現させる。フェネックの時と同じようにするつもりだ。


「さよならだにぇー。キンシコウちゃん...」




(こんなことで...っ!)


思わず、目を閉じる。




バリンッ!!


何かが砕ける音がした。



「...にぇ」


「・・・これはっ!」


キンシコウの目の前に立っていたのは、アライさんの姿だった。


「アライさんが、パークの危機を守るのだっ!」


あたりを見回わすと、透明な膜、球体の膜の中にいることに気が付いた。


「泡のシールド...、粋な事するにぇ...」


「アライさん...、キセキセキの能力を...」



アルパカは片目で泡の内側に立つアライさんを見つめた。



「・・・、もうそろそろいいかにぇ」


「何のことなのだ?」


「あなた達に構ってる場合じゃないんだよぉ」


そう言うと、服からスマホを取り出す。


「キンシコウちゃん、これを見てみ」


彼女に近づいて、動画を再生した。




「...!リカオン...!」


リカオンが力なく、地面に座り込んでいる映像だった。


『先輩...』


力ない声で呟く。


『アンタ、NGFのスパイみたいじゃない。

よくも私たちの作戦を邪魔し続けてくれたわね』


黒いブーツで、頭を強く蹴られる。

リカオンを蹴ったフレンズに、アライさんとフェネックは心当たりがあった。


(ギンギツネ...!)


『動画の向こうのアナタ達...。お帰りなさい』


やはり、ギンギツネだった。


『この市街地には防犯カメラが幾つもあるのよ?

あんだけ騒ぎを起こせば見られても当然...。

とにかく、用があるのはキンシコウ』


名指しされたキンシコウはドキッとした。

自然と固唾を飲む。


『プリンセス、コウテイ、オオアルマジロを

早くこちらに渡してちょうだい?

そうすれば、アナタも無駄な殺生をしなくて済む』


「何故その3人を...」


『理由はどうだっていいじゃない。

そのことをヒグマに伝えておきなさい。あと...』


すると、ギンギツネは長い剣のようなツララを手に持つ。


『アンタたちの無駄な抵抗のせいで、尊い命が犠牲になったってね』


『キンシコウせんぱっ』


リカオンが助けを求めるかのように、叫んだ瞬間、

氷柱の剣が、リカオンに突き刺さった。


「リ、リカオンッ!!!」


「・・・・」


『早くしてよね?死なせたくないんでしょ?ハンターさん』



アルパカはそこで、見せるのをやめた。


「酷いのだ...、フレンズをっ...!!」


「落ち着きなってぇ~、あたしたちもぉ、こんなことしたいわけじゃないんだよぉ」


「黙るのだっ...!!」


アライさんは語気を強めて、アルパカに言った。


「みんな...、みんな、間違ってるのだ...!

仲が良かったのに...、神様とかなんだか、知らないけど...。

こんなの絶対、間違ってるのだ...!」


「勝手に言ってなよぉ。あたしには関係ない。それは個人の意見でしょお?

これ以上戦ってもしょうがないからぁ、じゃあねぇ」


最後にアルパカは指を鳴らした。

キンシコウとフェネックに掛かっていた能力が解けた。


しかし、一息つけるものではなかった。


キンシコウは両手を地に付き、俯いた。


「キンシコウ...」


アライさんも、彼女の気持ちを察することは出来た。

目の前で、親友が惨殺されたのだ。


これ以上に心に深く傷を付けるものはない。


「...どうして」


いつも冷静な彼女が、悔し涙で地面を濡らした瞬間だった。


「...ッ!!」


拳を握り強く固い地面を叩いた。


「アライさんも、許せないのだ...。

あんなことするなんて...。セルリアンより、凶悪なのだ...」


フェネックの揺れ動いていた選択は、強固になった。


「・・・アライさん」


強い絆で結ばれた相棒の顔を見た。




「こんなくだらない計画...、ぶっ壊してやろう」

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