第三話 苦悩と、去りし過去

「来ましたよ...」


「君は既に失敗しているって、気付かないのかい?」


約束された部屋に入るなり、キツイ言葉を浴びせられる。


「...」


ぐうの音も出ない。

常に指定された条件をひとつも満たしていないからだ。


「PPPの奴らは2人裏切って...

ホワイトタイガーは行方不明

クジャクしかこちら側に引き込めていないし、ダブルスフィアも中々捕まらないらしいじゃん。約束果たせないなー」


「...ちゃんと約束は守ります」


「神の力が欲しいんでしょ?

なら、手短に、的確に...。

いつでもアンタを異空間に飛ばせるんだからね?」


「...」






きょうしゅう本土、南エリア。


「きゃあっ!!」


森の中に声が響いた。


「騒がないで...、痛いことはしないよ」


追い詰めたターゲットに対し怪しい笑顔を浮かべながら、距離を詰める。


「美しい羽だね…。

純白の、汚れのない...」


彼女に手を差し伸べた。


「いやっ...、バチバチ...」


「いい表情カオだね...。シロクジャク。私と一緒に楽しい所へ...」


ガサガサッっという音に気が付き咄嗟に後ろを振り向いた。


「...見損なったぞ」


「ッチ...、いい所だったのに...」


「こんな真夜中でナンパなんて...!」


その答えに拍子抜けした。


「あのさぁ...」


後ろ髪を掻きながら呆れたという事を必死にアピールした。


「今ので雰囲気台無しじゃないか...

テイク2行くかい?」


「あ?ナンパじゃなかったのか?」


(本当の天然かよ...)


これにはもうお手上げだった。


「ゴホン、まあいいよ...。

ともかく、察するに君は私を止めに来たんだろう」


「シロクジャクを守れって言われてるからな」


腕を組んで仁王立ちをした。


「君のそのやる気に満ちた表情を...

痺れさせてあげるよ...」


「アンタを斬る事だけは避けたい...」


「....、斬るなら斬りなよ。私は誰も恨まない。恨むとしたら、自分自身だよ」


心の弱さが、あの悲劇を起こしたと言っても、過言ではない。


あれは、神の島計画が本格的に始動した時に遡る。






*

「先生!いい漫画、描けましたか?」


彼女は相変わらず、嬉しそうに尋ねる。


「そんな急かさないでくれよ。

私が四六時中漫画を描いていると思わないでくれよ。自分のペースで書きあげたいんだ」


「もう楽しみで待ちきれないですよ!」


「少しは君も手伝ったらどうだい?」


と、冗談っぽく言った。


「そんなことしたら、先生の作画を壊してしまいますよ!」


あの時の彼女の顔は最高だった。


ファンなのかアシスタントなのかわからない彼女との会話を楽しみながら、

漫画を描くことに生きがいを感じていた。


そんな日常がいつまでも続くと、思っていた。






ある日の事、博士がやって来てこんなお願いをした。


「この、“七色のキセキセキ”の力を得て、私の計画に協力してください」


話を聞くに七色のキセキセキを使うと

野生解放を失う代わりに能力という物を得るらしい。胡散臭いなと思ったと同時に、好奇心も沸いた。


博士はこう話を続けた。


「しかし...、七色のキセキセキには

数があります。20数個しかない。

全部のフレンズに配る訳にはいかない。だから私は神の島計画を進めることにしました。能力者を優遇する。無能力者を完全に制御するのです。

歯向かう者は、殺します」


「こ、殺すって...、冗談がキツすぎるよ」


「我々は本気ですよ?神の力を得るためには...、それくらいしないと」


「悪いけど...、私は...」


そんな殺すだなんて。そんな事する訳ない。あの、博士がそんなことをするなんて...。変な本でも読んだのだろう。

私は殺すという所は冗談だと思って、

その時は注意しなかった。


あの時言っておけば…


「無能力者を狩ります」






「やめてくれっ....!!」



ゲホッ...、ガハッ...



「やめろ...、やめろ...」


せん...、せ...


「やめろおおぉぉぉぉ!!!!!」










「救いが欲しいのならば、力を得るのです」




*




「おい、どうした?頭でも痛いのか」




私は...、自分を恨む。


彼女を止めることも。

彼女を救うことも出来ず、

ただ得体の知れない何かに救いを求め

苦悩した。


その現実から逃避するように、

神の言うことを聞く。




「ヘラジカ...」


右手を突き上げると、バチバチと音がする。


「遠慮は要らないよ」


私は、神を信じる。



「...ふん」







一方、数時間前...


「...」


ヒグマは頬杖を突いていた。

僕は鞄を前に抱えたまま、沈黙している。


その最中唐突に鳴り響いた爆破音は僕を

震撼させた。


ボカーン!!



「な、なにっ!?」


「ハァー...」


ヒグマは立ち上がり、下の階へ降りていった。




「フェネック。言った筈だ。何もするなと」


「こんなの監禁だよ。アライさんにも会わせてくれないし」


「君の問題点はそこだ。

冷静なフリをして、ストレスを溜め込んでいる。それが爆発してみろ。

能力をコントロールする事を失い、

仲間まで傷つけることになるぞ」


厳しい表情でフェネックを咎めた。


「君の課題は、怒りを爆発させないことだ」


「私がキレやすいって言ってるの?」


「ざっくり言えばな」


「この基地ごとぶっ壊すよ」


脅迫するように右手を向ける。


「そこだ。君の悪い所だ。

すぐ、感情的になる」


「感情的じゃない」


「目が怒ってるぞ」


「やってらんない」


フェネックは半ば半ギレになり、ヒグマを押し退けた。


「あっ...、フェネ...」


「ちょっと外の空気を吸ってくるよ、

かばんさん」


淡々とした口調だが、微かに怒りが篭ってるような口振りだった。


「あの、フェネックさんどうしたんですか?外に行っちゃいましたけど...」


「勝手にしろ。すぐキレる奴が悪いんだ。フェネックの弱点は感情が暴走しやすい事にある。特に、アライさんが居ないとな」


「...、外は危ないんじゃ...」


「知るか」


僕の心配を他所に、ヒグマが冷たい態度を曲げることは無かった。






時は戻り、現在。

森の中ではタイリクオオカミとヘラジカが邂逅していた。


「シロクジャク、下がってろ」


ヘラジカの力強い声でハッとしたシロクジャクは、


「は、はい!」


と返事を返した後、木の後ろに隠れた。




「行くぞ」



「どうぞ...」


ヘラジカは刀を抜くと下向きに構えた。


(水龍...)


駆け出して彼女を狙う。


「参の儀、逆波さかなみッ!!」


タイリクに刃が当たる位置で下から上と

刀を振り上げる。それと共に、刀に水が纏わり波の様になった。


「君は本当に...、考える脳がない」


気が付けば彼女は刀を避けていた。


「私の能力を忘れたのかい?」


「...!」


(四の儀、小波さざなみ...)


咄嗟に後ろへくるっと回る。

刀を横にし水平にしながら。


彼女は目の前にいた。

しかも、笑いながら刀を左手で掴んでいる。


「私の能力は...、電気さ...」


バチッという音と共に白いプラズマが見える。


「ぐっ...」


重い衝撃がヘラジカの身体に伝わる。


そして、離す。



刀を地面に突き刺した。


「君の能力はその刀を指揮棒のようにして、水を操るみたいだけど、私の能力と相性が悪いって思わなかったのかい」


「相性が悪いかどうかは...、次でわかる」


「...ん」


「六の儀...、引波ひきなみ


タイリクの足元が水に浸かっている。

水が無いはずなのに。


「...っ」


足が取られて波に引っ張られ、ヘラジカとの距離が遠くなる。

彼女は刀を抜きとり上から下へ縦に振り落とした。


「拾の儀、氷波ひょうなみ


凍った波が押し寄せる。

タイリクは未だ引き波の効果が持続しているせいで、身動きが取れない。

あっという間にその波まで凍り、タイリクの足は完全凍結していた。


「おや...」


「お前...、博士に脅されたんだろ」


ヘラジカは身動きが取れないタイリクに

真面目な顔を見せる。


「ざっくり、アミメキリンを脅しの材料に使われた。お前もこうなりたくなかったら従えって言われたんだろ...」


「君に...、何がわかるんだ」


「....」


「私の気持ちがわかるのか?」


声を荒らげる。

剣幕な空気に包み込まれた。


他人ひとの気持ちも知らないで。

軽率な発言は慎んでもらいたいね」


右手をバチバチと、スパークさせる。

足元の氷をその電気の力で溶かした。


いささか厳しい状況になりヘラジカは

焦りを感じた。

静電気の影響でタイリクの髪の毛が逆立っている。


少し足を動かせるようになり、立ち幅跳びの要領で、氷を飛び抜けた。


そのまま、両手から眩い閃光を放ち

ヘラジカに向かう。


「水は電気に弱い...!

その事を勉強し直してこい...!」


「一発で決める」


刀を鞘にしまった。

オオカミが左手を引く。


「八の儀...」


「...消えろっ!」


刀に手をかけ、タイミングを見計らい、

技を放った。




飛沫波しぶきなみ....」


居合切りの型で放たれた技は苦手な筈の

電気の能力を持つ彼女に命中したのだった。


「あアッ...」


バタンと後ろに倒れた。


ヘラジカは近寄り、彼女を見下ろした。


「...大丈夫か」


「...何が大丈夫だよ...。

くだらない過去で苦悩し続けるは嫌なんだ...。その刃で...、心臓でも刺したらどうだい...」


「アンタを殺しても、何の得にもならない。第一、私は血が嫌いだ」


その眼差しに、タイリクは何かを感じた。


「君に考える時間を与える...。

良く、考えるんだ。

私は、君の力があればバラバラになったフレンズを元に戻せると思う」


ヘラジカは希望を直接伝えた。


「...」




「シロクジャク、私は君を保護したい」


木の後ろに隠れていたシロクジャクに

そう声を掛けた。


「ほ、保護ですか...?」


困惑した顔を浮かべる。


「ああ。詳しい話は後で話す」


「わ、わかりました」


シロクジャクはヘラジカに従う事にした。


上体を起こしたタイリクに向かい、

ヘラジカは最後に一言、


「お前が正しい選択をする事を祈ってるよ」


と、言い残し、シロクジャクを連れ森を去って行った。

タイリクは、黙って後ろ姿を見つめ続けた。


そんな事をしていたら、複雑な気持ちに襲われた。


森の地面に座り込んだまま、顔を俯かせる。


彼女の頬を涙が伝った。

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