第二話 現状報告

「えへぇー・・・、相変わらずお美しい太もも...」



ガチャッ

乱暴に扉が開く音がした。


「マーゲイ...、いい加減フルルの足に見惚れるのはやめなさい。

彼女だって嫌そうな顔してるじゃない...」


腕を組んで呆れたようにジェーンは言った。


「しょうがないじゃないですかっ!!

美しいものは誰だって見たくなるでしょお...!!」


「ハァー...」


巧妙でもない言い訳に溜息が出た。


「ところで、イワビーさんは?」


「お説教よ、お説教」


「ひぃー、怖いですね...」


マーゲイは寒さを凌ぐように両腕を摩った。


「あなたも真面目にフルルの警護をしなさいよね。能力を持ってないんだから・・・」


「お腹すいた」


唐突に真顔でフルルはそう呟いた。


「ハイハイ...、ケーキとお茶をお持ちしますよ。ジェーンさん少しお願いしますね」


マーゲイは部屋を出て行った。


「・・・何があったの」


フルルは一人残されたジェーンに尋ねた。


英雄ヒーローの帰還...、とでも言っておこうかしらね」






森の奥深く、きょうしゅうで旅した時には見つけられなかった

古い建物の地下。


ヒグマに案内されたのは、そこだった。


扉の前に立つと、口の前に人差し指を当て、静かにするようにと、ジェスチャーをした。



ノックを3回すると...


「神は?」


扉の向こうから微かに声が聞こえた。


「ノット、ノット、ノット...」


3回呪文のようにヒグマは呟いた。

すると、扉が勝手に動いた。


その先の空間にいたのは、

僕たちの姿を見て少し、驚いたような表情をしたキンシコウだった。



僕たちは招かれ、古びたソファーに座るように言われた。


向かい合う形で、ヒグマ、キンシコウも座った。


「まあ、ともかく、君達とまたこうして再会できて嬉しく思うよ」


「私も驚きました...」


「僕達もヒグマさん達に出会えてうれしいですけど...」


かばんは言葉を詰まらせる。


ヒグマの口から大きな溜息が出たのがハッキリと聞こえた。

キンシコウは、頭を掻いた。


「ねぇ、この島でなにが起こったのさ」


一番冷静なフェネックが尋ねた。


「・・・」


ヒグマは一度天を仰ぎ、それから口を開いた。


「あれは...、かばんがごこくに向かって少し経った頃かな...


私が"アレ"を知ったのは、何時もの様に図書館へ料理を

作りに行った時の事だった。


その日はやけに博士達のご機嫌が良い日でね。

何か良い事でもあったのか?って聞いたら、

堂々とそれを見せつけて来たんだ。

虹の色をしたとても綺麗な宝石をね。


博士達はそれを、『七色のキセキセキ』と呼んだ」


「キセキセキというのは、りうきうと呼ばれるエリアで発見されることが多い希少な石です」


キンシコウが横から補足を入れた。


「七色のキセキセキが、きょうしゅうで見つかったと博士はそう説明していた。これから研究をするって...。

それから少し時間が経って、あの恐るべき計画が、始動したんだ」


「"神の島計画"...」


二人は真剣そうな目を僕達に向けた。






「博士、聞きましたか?彼女らが帰って来たと...」


「今更帰ってきて何ですか」


「イワトビの奴が能力を目覚めさせたそうです」


博士は窓の外を見ながら、舌打ちをした。


「私が説教しておきましたが...」


「きょうしゅうは、"神の島"です。あの計画だけは

絶対に、遂行しなければいけないのです。

カレーを食べれないのは、後ろ髪を引かれますが、致し方ないことです」






「神の島計画って何なのだ...」


「私たちを殺すとか言ってたけど...」


アライさんとサーバルは顔を見合わせ、お互いに

質問しあうように呟いた。


「神の島計画、それは優秀なフレンズのみを優遇し、きょうしゅうを神の島にする...という内容です」


「"表向きは"、だがな」



「表向き...?どういうことなんですか?ヒグマさん」


かばんは少し前のめりになって、尋ねた。


「実は、私もよくわからないんだ」


彼女の回答に顔を顰めた。


「わ、わからない?」


「博士は研究の末、七色のキセキセキに、フレンズの野生解放が失われる代わりに、

特殊な能力を得ることがわかったんだ。

私も実験に付き合えと言われ、今の能力を授かった。

次第に噂を聞きつけ自分から能力を得たいと言うフレンズ、博士が気に入ったフレンズなど、この島に能力を持つフレンズが増えて行った」


「神の島計画の言い分は優秀なフレンズ...、つまり、能力を持ったフレンズを優遇するという解釈で間違いはないと私は思っています。何故なら...、能力を持つフレンズによって、能力保持者ではないコツメカワウソが

殺されたからです」


キンシコウは俯いて言った。


「えっ...、カワウソが!?」


サーバルは驚きのあまり両手で口を隠す。

僕は愕然とした。



「この事件が島のフレンズを二つに分けたんだ。PPP解散の原因でもある。

神の島計画に賛成するフレンズと反対するフレンズに分かれた」


「ちょっと待って。神の島計画の真の目的がわからないとか言ってなかったっけ?」


フェネックが思い出したかのように発言した。


「それと大きく関係してる。神の島計画は優秀な能力を保持したフレンズを優遇するはずだろう。だけど、一人、それに反している人物が神の島計画に賛同している」


「元PPPのフルルさんです。彼女は能力を保持していないのに、神の島計画に賛同している。もちろん、能力を持っているけど、この計画がおかしいと思ったフレンズは私たちの仲間になっている」


「それは矛盾してますね...。

能力者のフレンズを集めるのに、何故能力者じゃないフレンズが...?」


かばんは首を傾げた。


「私は、先ほど言った神の島計画の言い分はカモフラージュで、本当はデカイ何か別の目的を隠し持っているのではないか。

そう考えたんだ。だから、私たちは情報収集、そして、無能力のフレンズを

守るために、NotGodFriends、NGFを立ち上げた」


「それと対になる博士達は、BelieveGodFriends、BGFと呼んでいます」




「二人の話を聞いて、大体の内容はわかりました。つまり、博士さん達は"神の島計画"の名の下、能力をフレンズに与えて、何か大きいことをしようと企んでいるというわけですね」


「ザックリ言うとそういうことだ。かばん」


ヒグマと目線が合った。


一同が、沈黙する。しかし、計画の大まかな内容が分かったところで、

何かをしようとする気は、4人には起きなかった。

友人達と拳を交えることなど、"ありえない世界"だったからだ。



「ところで、リカオンさんは...?」


かばんが気になっていたことを尋ねた。


「スパイとして、BGF側に潜入している。その情報共有をしやすくするためにこの島に支部みたいなのを作ったんだ」


「この島は、博士が肝いりで能力持ちのフレンズに整備させた人工島なの。ここの裏側があなたたちが出発した日の出港よ」


「秘密の通路をプレーリーに作らせた...。

だが、彼女も七色のキセキセキ強奪作戦で命を落してしまった」


酷く落胆した様子を見せた。

ハンターの立場からして、彼女らも命を救えないことを酷く悔やんでいるのだろうと、

心中を察した。


「・・・僕たちは、これからどうすれば良いのでしょうか」


「こんなこと、早く止めさせないと!」


サーバルが沈黙を破り、大きな声を出した。


「友達が居なくなるのは...、嫌だ」


サーバルの脳内に、かつての黒セルリアンの事件が脳裏を横切った。

絶望の淵に立たされた彼女だからこそ、強い正義感というものが芽生えたのかもしれない。


「博士達を止めるのだ...」


フェネックも小さく頷いた。


フレンズ3人の意志は固いようだ。


「だが...、戦うと言うことは、博士に従順するフレンズ達を最悪殺めなければいけない。本当にマズい時はな」


「相当の覚悟と、戦闘力が無ければ、この島では...」




「かばん...?」


唐突に声がしたので目線を上げると、そこに立っていたのは

ジャガーだった。


「ジャガーさん...」


あっ、と気が付く。

彼女は一番の親友であるカワウソをBGFに殺されたということを。




「あはは、久しぶりだね。

トレーニングで集中してたから、全く気が付かなかったよ」


何時もと変わらぬ表情を見せた。


「大方、ヒグマから話を聞いただろう?」


「ああ、ええ...」


僕は頷いて見せた。


「ジャガーは能力を持っていない。

その代わりに基礎体力を向上させたんだ」


ヒグマが言った。


「自分が能力者になることだけは嫌でね。

自分の実力だけで、なんとかって感じかな」


「取りあえず、どうするかは4人で話し合って決めさせてください。

それまで、ここにいてもいいですか?」


かばんはそう結論を出した。


「ラッキーさんも...」


イワビーの攻撃によって、ラッキービーストが破壊されてしまった。

彼には何の罪もないが、心苦しかった。



「サーバル、フェネック、話があるから、私と一緒に来てくれ」


ヒグマはそう言って立ち上がった。


「アライさんは...」


「私と一緒に来てくれますか?」


アライさんはキンシコウと共に別の部屋に行くことになった。


見た目のわりには、地下空間が広く作られているのだろう。

能力に否定的な者達も、少なからず能力の恩恵を受けていることがうかがい知れた。


ジャガーはソファーに腰かけ、僕と向かい合わせになる。


「ボスは、BGFの中にいるフレンズが直せるかもしれない。

ただ、どこの誰かと言えないけど...ね」


「あの、僕は...、フレンズさんを傷つけたくないんです。

皆、仲良く昔の様に、してほしい...」


重苦しい息をジャガーが吐いた。


「気持ちは分かる。大体、力なんて無ければ、カワウソは...

死ぬことなんて無かったんだ。

けど、フレンズになる前は、弱肉強食の世界に身を置いていたわけだから、

いわゆる、平和ボケって奴かな。

セルリアンに気を取られ、身内同士が敵だなんていう認識が薄れていたんだよ」


「じゃあ、ジャガーさんは、これが本来あるべき姿だと?」


「・・・、そうとも言い切れない。

私たちは、人であり動物。皆はフレンズという中間的な立場を取って来たけど、

ここに来て、人の野心と動物的闘争心がごちゃ混ぜになり始めた。

戦いの中で知識を蓄え、知恵を振り絞って、対策を行う。

もともとからある姿というよりかは、環境が変化した、と言った方が適切かもしれないね」


僕はポケットに入れた、七色のキセキセキを見た。


「あの黒セルリアンに食べられた後、僕はヒトになったんです。

この石は野生解放と引き換えに力を得ると言ってましたが、僕はフレンズじゃないので

野生解放できません。これから博士さん達を止めるにしても、

僕なんか足手まといじゃ...」


「あの三人は君を守ってくれるだろう。目を見てそう思ったよ。

君らは固い絆で結ばれている。仮に、君が能力を得られなくても...

全力で守ってくれると思うよ」


「・・・」


「結局、一番いいのは君が何を最善だと考えるかだって、私は思うな」





ヒグマと共に別の部屋に移動した二人は...。


「改めて聞くが...、NGFに協力するということは、

フレンズを倒さなければいけない。自分の身を守るためにな

それは、覚悟できるな?」


「うん...」


「もちろん...」



「私があそこに駆け付けた時、あの二人は随分体力が削られていたようだ。

君達は鍛えれば、私に匹敵するくらいの力の持ち主になれる。

そこでだ、サーバル。君は、あるプログラムをやってもらう」


「プログラム...?」


「フェネック。君は一度、上に戻っていてくれ。後で指示を出す」


「はいよ...」


フェネックは頷いて、一旦部屋を出た。


「ついて来い」


サーバルを連れヒグマは更に下の階に降りた。

そして、ある部屋に辿り着いた。


「ここで何するの?」


「君のよく知るフレンズが残した物を基にリカオンが構築したプログラムだ」


黒い箱のスイッチを入れ、機械を起動させた。


平らなステージのような場所。そこが青く光る。

ファンの音と共に、そのステージに映像が映し出された。

俗に言う、立体映像。


「えっ...」


サーバルの目の前に現れたのは...。


『アナタがこの映像を見ているということは、帰って来たのね。お帰りなさい』


「カ...、カバ!!」


「・・・・」


『直接言えなくて、ごめんなさい。先に謝まらせて。

アナタがこの映像を見る頃、私はこの世に居ないと思うわ。

博士達の神の島計画の全容を暴く為の、侵攻作戦のリーダーを任された。

それで...、もし、私が帰ってこなかったらこのプログラムを作るようにリカオンに

命じたわ。アナタが帰って来たとき、役に立つと思って...』


「そんな...」


早起きしたからか、涙が彼女の目に浮かんでいた。


『サーバルは、本当は能天気で、何もできないと思ってた。

けど、黒セルリアンとの闘いで見直したわ。

アナタは、かばんとの旅で強くなっている。

その強さを、私に見せてちょうだい。やるかやらないかは、アナタに任せるわ』


ヒグマはタイミングを見て、静かに部屋を出た。

ここからは、サーバル自身の問題だからだ。



「カバ...、私...、かばんちゃんを守りたい...」


ホログラムの彼女が微笑んだ。


『昔から、正義感だけは強いものね。誰がやめろと言っても、

アナタは貫き通した。この訓練も、貫き通して見せなさい』


涙を拭い、拳に力を込めた。






上に戻って来たヒグマは、フェネックに声を掛けた。


「フェネック、君はここの部屋に入ってくれ」


扉を指さした。


「で、何するのさ」


「私が呼びに来るまでそこに居ろ」


「え?」


指示の内容に困惑した。


「じゃぱりまんは置いてある。

そこから出たらダメだ。アライさんに会うのも禁止だ」


彼女はフェネックの背中を押し、その部屋に入れた。


「ちょっと、なにそれ」


「いいか、絶対に出るな」


バタンと扉を閉め、鍵をかけた。






「やっぱりダメなのだ・・・、全然反応しないのだ!」


七色のキセキセキが反応しないことに、アライさんは少々

苛立っていた。


「慌てなくても大丈夫だから。

持っていれば、あなたの気持ちに答えてくれる」


キンシコウはそう言い聞かせた。


「キンシコウも能力者なのだ?」


「ええ...、と言ってもヒグマさんの様に派手ではありませんけどね」


謙遜した様子で、静かに笑って見せる。


「出来れば、見てみたいのだ」


「...いいですよ」


彼女は立ち上がると、何時も携帯している棒を縦に持ち替え、

トンと地面を叩いた。


地面からひょいとオレンジ色っぽい魚が数匹現れる。


「これは...、何なのだ?」


「金魚です。私の能力。

ヒグマさんが"フィッシュソルジャー"と名付けて呼んでます。

この子たちは私の命令に従うんです、攻撃も、防御もしてくれます」


「ぷかぷか浮いててかわいいのだ」


率直な感想を述べた。


「能力はフレンズそれぞれ異なる。

ヒグマさんみたいに元から得意だったものが能力になったり、

私みたいによくわからないのが能力になったり...。

アライさんも、そのうち目覚めますから」


「アライさんは、強くなりたいのだ。

フェネックに頼りっぱなしは、ちょっと申し訳ないと思ってるのだ」


「...その気持ちを忘れないでね」


キンシコウはそう、アドバイスした。

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