ゲームバランス調整委員会

プル・メープル

第1話 初めてのアルバイト

今日は初めてのバイト。

何をする仕事かはよく知らないけど、あの一流企業のアルバイトなら、そこそこいい仕事なのではないだろうか。

高校一年生の浜野ひんの しずくはそんなことを思いながら大きなビルの前に立った。

まさか、適当に受けたアルバイトの面接で合格になるなんて思ってなかったし、どきどきするのと同時に、働きたくないなという気持ちも少しある。

でも、これから入るのはFDホールディングス、フルダイブゲーム専門の会社だ。

そこで働くということはつまりだ、フルダイブに関することに少なからず関われるということ。

昔から大好きだったゲームの開発に携われると思うと、胸が踊るようだった。


「うちの会社に、何か用かえ?」

突然後ろから話しかけられて雫は背筋が伸びた。

「もしかして…新人さんかえ?」

振り返るとそこには雫の胸のあたりまでの身長の小さな女の子がいた。

金色の髪を頭の上でお団子にしていて、きっちりとスーツを着ている。

「そ、そうです!今日からアルバイトで働かせてもらう……」

「浜野 雫くんやね」

「は、はい!」

雫が戸惑いつつ元気に返事をすると、女の子は手をこまねく。

「ん…?」

「しゃがんで」

「は、はい…」

言われるがままに腰を低くすると女の子の手が雫の頭を撫でた。

「行儀良くて、ええ子やね。よしよし」

そう言いながら女の子は雫の頭を撫で続ける。

(は、恥ずかしいけど……悪い気はしない……)

むしろ幸せな時間かもしれない。

だが、幸せは永遠ではない。

「社長!」

それとほぼ同時にビルの自動ドアが開き、中から背の高い女の人が出てきた。

彼女は雫の頭を撫でる少女の目の前まで走ってきた。

眼鏡をかけていて、片手にはタブレット型の手帳を持っている。

いかにも仕事ができそうだ。

いや、今はそれより気にすべきところがあったはずだ。

「しゃ、社長!?」

雫がそう叫ぶと、少女は驚いたように雫の頭から手を離した。

「し、雫くん、どうかしたんかえ?」

「あ、いや、その…」

社長と呼ばれた少女はクスクスっと笑ってまた雫の頭を撫で始めた。

「社長に見えないって言われるのはもう慣れたから気にせんでええんよ?貫禄ってのがねぇけんなぁ…」

「いや、貫禄って、問題はそこではないと思うんですけど……」

「何か言ったかえ?」

「いえ、なんでもないです…」

しかしまぁ、どこからどう見ても小学生な社長はロリコンにとっては大好物なのではないだろうか。

そんなふうに思いながら社長を眺めていると、突然社長は顔を赤らめて、

「し、雫くん、そんなに見んでくれんかえ?は、恥ずかしいのじゃ……」

雫は目覚めそうになったロリータコンプレックス魔人をなんとか引っ込める。

「社長はこう見えて50代なのですよ?」

「えぇ!?」

どう見ても小学生な社長が五十路だと……、ありえない……。

「と、言ったら信じますか?」

「信じれない!!」

雫がそう答えると背の高い女の人は上品に笑い、「嘘じゃないんですけどね」と付け足した。

「もぉ、春!私の年齢はバラしちゃダメだって言ったでしょー?」

「す、すみません」

貼ると呼ばれた女の人はどうやら社長秘書のようだ。

彼女は頬を膨らました社長からぽこぽこと叩かれている。

年齢をばらした罰だろうか、可愛らしい罰だ。


「見苦しいところを見せてしまって申し訳ない…」

「いえいえ」

社長はことが済んだ後、雫を会社の中に誘導した。

いろいろな部屋を回り、いろんな説明をしてもらった。

ゲームを作っている場所や、システム管理室などもだ。

そして、一番最後にやってきたのが、

「ここが今日から君に働いてもらう場所やえ、場所、しっかりおぼえときぃ」

雫と社長は『ゲームバランス課』と書かれた看板を下げる部屋の前に立っていた。

「ゲームバランス……?」

「ゲームバランスってのは分かるかえ?」

ゲームバランスというのは主人公の強さや敵の強さが丁度いいあんばいのバランスの事だ。

小さい時からゲームをやってきた雫はそこの所はよく理解していた。

雫は小さくうなづいた。

「なら、すぐ仕事にもなれると思うえ?仕事内容は先輩に聞いたりして、楽しく仕事してくれることを願っているよ」

社長はそのままふるりと反転してどこかへ行ってしまった。

そういえば社長、なんか、いろんな時代の言葉が混ざって話していたような……。

けど、今はそっちを気にしている場合ではない。

雫はドアノブに手をかけた。

まずは元気な挨拶からだ!

雫は扉を開きながら大きな声で言った。

「失礼します!はじめまして!」


ここから雫のお仕事ライフが始まった。

不安もあるが、とても楽しみだ。

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