「公園後奏曲(2)」
『んー、春休みくらいかなあ。
気がついたら公園にあった感じ?
場所もバラバラだし。駅向こうの公園とか、あっちの公園とか、
別の小学校の校区でも置いてあったって聞くよ。』
マンションの部屋。
僕はベッドに横になりながら、
少女の話を思い出す。
見つけたスマホは紛失物として警察に届けているので
何かあった場合は僕の方に連絡が行くはずだ。
だが、今思えば、あのスマホの裏についていたものは
何か飲み物をこぼした時にできたシミの気もする。
詳しいことは警察が調べてくれるだろうし、
僕に連絡がないということは事件性もない
ということなのだろう。
時刻は夜の8時過ぎ。
僕は立ち上がるとベッドの傍らに置いていた
自分のスマホを立ち上げ、街の地図情報を
読み込んでルートチェックを入れていく。
ともかく、調査のために噂の検証は必要だ。
公園にバラバラにスマホが置かれているのなら
それを確かめて見に行く必要がある。
見つけるだけならそれほど時間もかからないだろうし
明日はバイトも休みなので僕は自転車を使って公園を
回ることにした。
そして、翌日の早朝。
なんだかあっさりと僕は一つ目の公園の
ベンチ下でスマホを見つけていた。
スマホは着信していて、
途切れ途切れのメロディを流しつつ
青い光を放ちながら振動している。
青いラバーケースの、どこにでもあるスマホ。
画面を見れば『チカちゃん』と
表示され、電話のマークが浮いている。
僕は画面をタップし、耳に当ててみた。
『もしもし?私、チカちゃん。
なんのご相談かな?』
…それは、幼い少女の声。
年の頃で言えば10代くらいの女の子の声だ。
僕は少し息を吸うと、彼女に…『チカちゃん』に、
どうしてこんなことをするのか聞いてみた。
すると、電話口の彼女はくすくすと笑い、
『え〜とね〜、じゃあ、隣の公園に行って。』と
ふざけたように言った後、唐突に通話を切った。
僕は真っ暗になったスマホを持ち、
その電話の電源がすでに切れていることを確認する。
見れば、スマホの端、画面とカバーの隙間には
何か黒い塊が挟まっていた。
グニュグニュとした、
赤黒い肉とも黒い糸ともつかぬ塊。
僕はそれを詳しく確認することを拒み、
持ってきたビニール袋にスマホを入れると
次の公園へと自転車をこぐ。
そうして彼女の指定する公園に行ってみれば、
今度はブランコの下にスマホが落ちていた。
途切れたメロディを流し、
わずかに地面の上で振動するスマホ。
その端には今年の深夜放送でチラリと見た
アニメのキャラクターのストラップが付いている。
僕はスマホを手に取り、画面をタップした。
『…さっきのお兄ちゃんかな?取ってくれてありがとう。
じゃあ、三つ目の信号を渡った先の公園に行ってみてよ。』
そうして、電話はブチリと切れる。
僕はスマホの裏を見て…
すぐにビニール袋の中に入れた。
スマホのカバー裏。
そこには深夜アニメの女の子が描かれていた。
しかし、その顔が奇妙にゆがんでいた。
熱を持ったものに当てられたのか、
ラバーの表面が溶け、キャラクターの顔がグニュリとゆがんでいる。
このスマホの持ち主に何があったのか。
なぜ『チカちゃん』はスマホに電話をかけてくるのか。
僕はいつしか、調査よりもこの現象の原因を
突き止めるために自転車を走らせていた。
チカちゃんのスマホはいく先々の公園に必ずあった。
『その次の公園、』
『線路を渡ったところ』
『次の場所だよ』
…一体、スマホは一体いくつあるのか。
息を切らせ、公園へ行き、スマホを見つけ、
次の指定された公園へと行く。
僕はチカちゃんに弄ばれていることを感じつつも
この作業を止められず、ただ機械のように街を走る。
カバンの中に入れていたスマホはすでに十台に近くなり
袋はますます重みを増していく。
『…お兄ちゃん、頑張ったね。次で最後だよ。』
そうして、最後に指定された場所。
その公園へと行くと…僕は唖然とした。
そこは、僕が一日前に訪れていた公園。
最初に調査をしていた公園だった。
その、公園の遊具。
バネで左右に動く馬の形をした
遊具の下に振動するスマホがある。
だが、スマホを手に取った瞬間、
僕は思わずそれを地面に落とした。
…スマホが、生暖かった。
紺か。モスグリーンか。
そんな色さえ判別できないほどにスマホには
べったりと赤黒い液体が付着し、大量の砂利を貼り付けている。
…そこから匂いがした。
生臭い金気のある匂い。
例えるなら、そう、血の匂い。
周囲に人の気配はない。
日曜のためか、ゴミ出しの主婦や
通勤する人もやってこない。
僕はスマホを手に取るべきか逡巡する。
これを、今すぐにでも警察に届けるべきか。
それとも、この場所に他のスマホも捨てて
何も見なかったふりをするか…
僕は迷い、そして…
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