2、春の陣、夏の陣
こてやんの初顔合わせは4月中旬あたりだったと思う。その時期で正確に間違いないのかと問われたら自信をもってそうだと言えるわけではないが概ねそうだったと思える。
その店ににお邪魔するのは初めてだったしそのせいでいささかのアウェー感があったのは今でも大いに覚えている。
どの席で食べたのかも覚えていない。
なぜその時「こってり中華チャーシュー」を注文したのかその時の思考も遠い記憶の彼方なのだがこの時、体に負った傷痕は目にしなくとも覚えているものだ。
ラーメンを食す思い出を語るのに勝ち負けを引き合いに出すことに違和感を感じる方も多いかもしれない。何言ってんだ?こいつ。バカじゃん。と思う人もいるだろう。
そう バカなんです。てへ。 とでも言えば済むのだろうけど
こてやんに植え付けられた思いは素直なところで「敗北」なんです。
その定義は今現在の自分にもはっきりと理論づけられている訳ではないのだけれど。
初戦、春の陣は完敗したという敗因は秋の陣内で語ろうと思います。
自身の敗北と位置付ける考察と合わせてあとのお楽しみということで。
さしずめ「こってり中華チャーシュー」は物語の黒幕であり主役でもある。
俺はあくまで脇役であり奴に翻弄される死兵に過ぎないわけで
その正体をあとあとまで引っ張るのは物語としては上等な手段ではないかとも思えるのであえてここで、こてやんのことは詳しくは語るまい。
さて話は夏の陣に移ります。これを読んでいる読者諸君はこの夏、5月終わりから9月下旬までの人間殺しに来てるキラー猛暑を思い出せ、という言葉だけを言えばありありと様々な思い出が蘇ることだろうと思うのですが
俺にとってのその一つが「こってり中華チャーシュー夏の陣」であり
春の陣に受けた生傷が見た目には癒えた7月下旬のことでございます。
正確な日にちもそれまた覚えていないことだが時期が合っているのは覚えていまして
というのも食べに行った前日、俺は年甲斐もなく一人で号泣したのだからその原因の元をたどれば時期だけは特定できたのです。(あくまで個人的な精神的高負荷が原因だったので特筆して語るほどのことでもない)
傷心するとラーメンを貪り食いたくなる性癖がある俺は傷を負ったズタズタハートと暑さと前日の猛飲酒により悶えてやせ細った満身創痍の胃をお供に連れてこてやんが待つ門前へ参った所存であります。
がちゃり。一歩店内に踊り入ると脳を溶かす外界とは次元の異なる霊峰富士の洞穴内のような涼しさ。カウンター席が空いていなかったので4人席に一人で座るというピークタイム終わりのはた迷惑な客となりそのせいで今回も望まずながらアウェーとなってしまった。メニュー表を手に取りざっと目を流すと俺の目にはこてやんの宣材写真しか映らなかった。得意げにポーズをとるイケ麺の姿がそこにはあった。
ジュノンだかメンズノンノだかのモデルと並んでも違和感は無いのではないかな。
挑発しているのか食欲をそそる輝きに満ちた麺、彩を添える茹で小松菜と5枚乗った焙られた大ぶりの鶏チャーシュー、食べ応えのありそうな太メンマ3本。
男ならキメろ。そんなお決まりの文句が似合いそうな。
とまぁ過程は話すほどのこともなく夏の陣は散々たるもので善戦したものの手負いの雑兵状態では敵兵せん滅を前にして逃げ出すことしかできなかったという結果だけが残った。俺としたことが完食も出来ず残してしまったのです。
スープとその洋上に浮かぶ罠。目に見える地雷といってもいい程で。
この罠の正体も今は語るまい。
例えるとしたらラーメンの具だけを先に食べきってしまうようなもの、とでも言えばいいだろうか。好きなように食べるのは人の勝手なのだがそれでは味気ないということである。
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