第50話 追跡、そして唐突な決着

「マコト、道しるべはどれだ?」


マコトの知らせに急遽合流した二人はマコトに尋ねる。マコトが指を指した先に数メートルごとに小さな光るキノコが生えていた。


「あれだ。ツキヨノタケは毒キノコだから野生動物や野犬には食われない。だから残っている」


「無意識のうちに出す植物を選んでいたとしたら大したものだ」


アレクが変なところで感心している。部下の命に危機が迫っているのに妙に冷静なのは救出できる自信があるのか、それとも天然なのか。ブルーノがキノコを回収しながらマコト達に告げる。


「とにかく、このキノコの跡を付けていこう。恐らく異世界から戻ってきたリィヤンミンと鉢合わせでもしたのだろう。少なくともこれが出ているのなら、チヒロはまだ無事なはずだ」


「ああ、急ごう」


キノコを回収しつつ、夜道を歩いていくとさらに奥まった路地に繋がっていく。


「アジトとは違うルートだな」


「カウルーンの第二の拠点か、リィヤンミンの隠れ家かもしれぬな」


「と、キノコはこの家の前で終わってる。チヒロは多分この中だ」


とある古びた家の前でキノコが途切れていた。人の気配はあるようだが、よくわからない。


「この中に魔力反応があるから、マコトの見立て通りチヒロがいる可能性は高いだろう。突入するぞ」


「解錠魔法の使い手はいないから、武力行使だな」


そういうや否や、マコトはドアを蹴破った。


「召喚管理局だ! 違法召喚及び略取疑いでリー・リィヤンミン! お前を逮捕する!」


叫びながら奥へと突入する。


「おや? 意外と迎えにくるのが早かったねえ?」


部屋の一角でリィヤンミンは銃を構えてヘラヘラと笑っている。チヒロは縛られて魔方陣の描かれた中央にいた。


「チヒロ!」


「むがー!」


魔法の詠唱をされないためか、ガムテープが貼られているが、とりあえず無事そうだ。


「おおっと、それ以上近づくと人質ちゃんの体に穴が開くよ?」


銃口をチヒロに向けて相変わらずヘラヘラとリィヤンミンは不敵な笑みを浮かべる。


「何が望みだ」


ブルーノが交渉しようと問いかける。


「そうさねえ、このまま見逃してくれない?

ここでの取引がうまくいったらさあ、異世界で豪遊できるほどの謝礼がもらえるんだよね?」


「隣国アルコンと通じてるのは本当だったのか」


「依頼主は誰かなんて話せないねえ。ま、俺にはどの国がどうなろうが、知ったこっちゃない」


「お前が智樹を……」


「あ? お前も異世界人か? 智樹? 誰だそれ?」


「とぼけるな。俺の世界でお前が撃ち殺した入管職員の名前だ」


「あー、そういう名前だったの? 俺らの周りをチョロチョロしてるからこいつで黙らせたんだっけ、そっか、死んだの。へえ」


あっけらかんとリィヤンミンはヘラヘラしながら話す。そこには善悪の判断など最初から無い。


「貴様……!」


「よせ! 下手に動くとチヒロの命が危ない!」


「くっ!」


「そういうこと。ま、俺にしてみればここで全員撃ち殺してもいいけどね」


完全に膠着状態となってしまった。奇妙なにらみ合いが続く。


ふとチヒロを見ると、床に顔を擦り付けている。口のガムテープをなんとか剥がそうとしているのか。しかし、リィヤンミンにバレたら撃たれてしまう。


(チヒロ、余計なことはするな)


しかし、半分ほど剥がせて声が出せるようになったチヒロは呪文を唱え始めた。


「大地の女神よ、その力を我に貸したまえ」


その瞬間、マコトの持っていた杖が光り、部屋中から植物のツルが伸びてきてリィヤンミンを拘束しようとする。


「くっ! 小娘が!」


咄嗟にリィヤンミンがチヒロを撃つ。


「ぐうっ!」


腹の辺りから血を流して再び崩折れてしまった。


「チヒロ!」


「てめえ!リィヤンミン!悪い、チヒロ、杖借りる!」


彼の前に躍り出て杖を構えた。


「貴様がチート封じのマコトか。しかし、魔法は使えないと聞いたぞ。はったりはやめるのだな」


「誰が魔法に使うと言った?」


杖を両手に持ち、高く掲げる。


「な?! ケンドーでもそんな構えは見たことないぞ」


リィヤンミンはマコトを撃つが、平気な顔をして杖を振り下ろした。次の瞬間、杖の先の魔石とリィヤンミンの右手の石が強くぶつかり、石が砕けた。


「小手ぇ!」


マコトは続けて中段の位置に構え、素早く足を狙う。


「脛ぇ!」


「ぐはっ!」


脛を打たれてバランスを崩したところをマコトはさらに目にも止まらぬ速さで再び杖を中段に構え、頭を打った。


「面!」


当たりどころが良かったのか、そのままリィヤンミンは気絶する。


「咄嗟にタブレットを胸に仕込んで助かったぜ。ちくしょう。高かったのに。いや、それよりブルーノ! 早くヒール魔法で止血しろ!

アレク! 今のうちに俺達の異世界移送準備だ!」


「ま、マコト……あんた剣道やってたの?」


チヒロが息も絶え絶えにしゃべる。


「ばあちゃんから薙刀を仕込まれてたんだ。って喋るな! ブルーノ!急げ!」


「言われなくてもかけている! あとは本人の気力と体力の問題だ!」


「なんで黙ってたの?」


「だから喋るな、チヒロ。……薙刀は俺の世界では女性が嗜む武道という位置なんだ。男性の競技人口は少ないし、公式戦もないから履歴書にも書けない。それに薙刀をやっているというのは恥ずかしかったんだ。あ、悪い。杖の魔石を壊しちまった。弁償する暇無いなすまん」


「だから、見たことない構えだったんだ……」


「ああ。すまん、別れを告げる時間がない。チヒロ、絶対に生きのびろよ! それしか言えないけど、頑張れ!」


「うん……カフェであんたとバカ話してご飯してたの楽しかったよ……」


「バカ! 死亡フラグ立てんじゃねえ!」


そう言いながら、マコトはリィヤンミンを拘束し、手錠のように互いの手を捕縛ツタで固定する。


「アレク、俺の世界へ送還を頼む。場所が指定できるなら俺の職場へ放り込んでくれ」


「ああ、わかった」


「皆、世話になった。ばあちゃんのこと、本当に頼む」


「女神フロルディアの名に置いて元あるべき所へ戻れ」


マコトとリィヤンミンの体が光り、そして消えていった。


「やった……!」


「マコトを信じよう。あとは残党を叩くのみだ」


「マコトなら大丈夫ですよ……」


「おい、チヒロ。しっかりするんだ!」


通報を受けた衛兵達が到着したのはその直後であった。

















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