第49話 決起集会、そして……

「カウルーンの拠点がわかった」


 その日の朝の定例会議。アレクが開口一番に告げた。


「ここより北の地区の『プワソン』の地下にあるようだ。表向きはバーだが、実態は闇取引を行っている」


「いよいよか……!」


「ああ、捜査としては騎士団と提携して行う。日程は次の満月の翌日、つまり十六夜いざよいだな。まずは客としてマコト、お前が潜入しろ。頃合いを見て他の衛兵も潜入して摘発を行う」


「なぜ十六夜に?」


「調査の結果、リィヤンミンは次の満月の夜にいけにえを使って異世界から帰ってくることがわかった。つまり召喚石の力が落ちている。すぐにいけにえは用意できないはずだから、異世界への逃亡の恐れがなく、いけにえを使われる危険も無い日だ」


「あの……魂を抜かれない防御魔法は施されるのですか?」


 チヒロがおずおずと尋ねる。やはり、怖いのだろう。


「ああ、この護符タリスマンを作ったから全員に配布する。それを身に付ければ魂が固定して簡単には抜けなくなる。今回限りの特例だから終わったら返却するように」



 そう言うとアレクは何やら紋章の入った護符を全員に配った。続けるようにブルーノが告げる。


「それから、もうひとつ。数々の証言からリィヤンミンの似顔絵が作成された。写し出すから覚えておいてほしい」


 そう言って、ブルーノが書類に呪文を唱えていくと、立体画像が浮かび上がってきた。

 背は高め、黒い髪の毛をオールバックのようになでつけている。眉と唇は薄く、それが狡猾さを醸し出している。


「これが……良民リィヤンミン!」


「うわ、悪人って顔だわ。それで、右手の甲に石が嵌まっていますね?」


「ああ、目立つところとは聞いていたがな。小さいが、見た感じはかなり純度が高い……つまり魔力の高い石を同化させたようだ」


「どうやって封じるか、あるいは破壊するか、だな」


「召喚石は元はというと水晶だから強い打撃でヒビは入る。しかし、同化しているからその固さは未知数だ。それに手の甲にあるから庇われるかもしれぬな」


 アレクが難しい顔をする。


「現実的なのはなんらかの攻撃で気絶させる。しかし、摘発中に彼だけ気絶させられるのは難しいですね。そうなると、魔法で眠らせるか」


「そうするとブルーノ様、先に潜入した衛兵も眠ってしまうからカオスになりません?」


「ううむ、やはり難しいな。摘発現場ではなく、拘束した後に石を破壊して送還が良いのだろう」


「やはり、それしかないか。最悪のパターンも考えないとならないな」


「マコト、それだけではない。銃弾からも身を守らないとならないだろ? 鎧を付けないとならないから重さに慣れておけ」


「ああ」





「いよいよだな」


 満月の夜のカフェ・ジェラニウム。摘発前夜に気合いを入れて決起集会……と言ってもタマキ達に心配かけたくないのでマコトとチヒロの二人のみ、メニューもいつもよりちょっと奮発してペガサスハンバーグセットにワイン付きというものであるが……開いていた。


「タマキ様に言わなくていいの?」


「別れを言うガラじゃないよ。フィルじいさんにはばあちゃんをよろしく頼むと言ったけどさ。それより、お前も大丈夫なのか? これまでより危険だし、ブルーノに告白しなくていいのか?」


「いいの、あちらはあちらでブランシュ様と過ごしているわ。最初から敵うわけないじゃない……」


「そっか……やはり命懸けだから万一に備えて会っているのだな」


「アレク様も奥様達と一緒だし、みんな危険だとわかっているから家族と過ごしているのよ」


「で、お前は俺と飯を食ってていいのか?」


「今さら変わったことしてもなんだし、カフェ《ここ》にはおじいちゃんはいるし、ある意味私も家族と過ごしているよ」


「そっか……」


「それより、マコト。リィヤンミンを確実にあちらの警察に引き渡してね、お願いよ」


「ああ」


「じゃ、明日の成功を祈願して乾杯!」




「うう……酔ってしまったぁ」


「チヒロ、お前は酒に弱い癖に飲むから」


「グラスワイン一杯なら平気と思ったのよぉ……。ちょっと酔いざましに散歩してくる」


「おい、大丈夫か」


「満月だから外は明るいし、へーきへーき」


 マコトが止める前にフラフラとチヒロは表に出てしまった。


「マコト、あれはちょっと危ないからついていってあげなさい」


 タマキに言われるまでもなく、マコトは外套を羽織っていた。


「あ、武器は……」


「あれはさすがにかさばる。とりあえず尺は短いけどチヒロの杖を借りてく」


 立て掛けてあったチヒロの杖を手に取り、慌ててマコトは飛び出した。


「あいつ、どこへ行った?」



「うう……そりゃ、死ぬ前に告白できりゃ苦労しないわよー」


 月明かりの中、チヒロはフラフラと路地を歩いていた。

 ふと、何か違和感を感じて立ち止まった。


「なんだろ? 変な魔力が近くにあるのを感じる」


 そのまま引き寄せられるようにある路地を覗いた瞬間、強い光の柱が突如現れた。


「うわ、これ、召喚石の光! こんなところになぜ……?!」


 光の中心には男が立っており、辺りを見回している。そしてその男と目が合った。


「ちっ、戻ってくるポイントがズレちまったか」


「げ……リィヤンミン」


「何故俺の名を知っている? 召管か!」


 そのまま、リィヤンミンは素早い動きでチヒロのみぞおちを殴り、気絶させた。


「運がいいな。さすがに連続して召喚石は使えんからいけにえにはできん。さて、こいつは利用価値ありそうだな」



「チヒロー! どこ行ったー?」


 マコトは彼女を探してあちこちを歩いていた。


「まったく、この杖が光ってチヒロの居場所を知らせてくれないかな」


 マコトは杖の先の魔石を見るが、反応はない。


「ま、そんな都合良くはないよな……ん?」


 ある路地の一角が変に明るく光っている。それはよく見るとキノコが生えておりそれが光っている。


「なんだ? 光るキノコ?」


 キノコは点々と生えていて、何かの道しるべのように繋がっている。確か、チヒロはまだ属性が不安定だからか、こういった植物を散らしたり、生やすことがまだあった。

発作から時間差で執務室に突然花が咲いてしまい、花粉アレルギーらしきアレクが大変な目に遭ったこともある。


「夜だからツキヨノタケか。まさか、あいつ、捕まったのか。急いでアレク達に連絡しないと!」













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