第41話 タマキの安楽椅子探偵
「な?! でも、少なくともヒガシは今は適正な在留資格でこの世界にいますよ?!」
「声が大きいわよ、チヒロちゃん」
言われて、チヒロははっとして辺りを見渡す。とりあえず、怪しい人物はいないし、昼時なので回りは同じようなランチ客で溢れ、だいぶにぎやかになっている。マコト達のことは注目を浴びていないようだ。
それを確認したかのようにタマキは推理を話し出す。
「今の話からして、ヒガシさんは何らかの方法で荒稼ぎして豪遊してきたけど突然の雲隠れ。家の前には怪しい人達。
借金取りならば、いざとなれば家に侵入してその豪華な調度品を売れば借金は回収できるはず。
でも、怪しい人達はそれに手を付けなかった。ならば、ヒガシさんはどこかに潜んでいて組織の人間が探し回っている可能性が高いわ。探しているということは、少なくとも生きてはいるでしょうね」
「なるほどな、さすがはお義母さんや」
「多分、何か掟を破って……大方お金をちょろまかしたか、縄張り荒らしたかで、睨まれたから追われているのでしょ。捕まったらコンクリ詰めにされて、カルム港へ沈むパターンよ」
「お義母さん、この世界にはコンクリは無いのとちゃいます?」
マコト(おばちゃん)がツッコミ入れるが、タマキは華麗にスルーして持論を述べ続けた。
「そこへ
「なるほど、それならば、あぶり出せそうね」
「あとは密輸について知ってることを聞き出して、送還って所でしょう」
「しかし、犯罪者を元の世界に送還するのはちょっと……」
マコト(おばちゃん)は難色を示すが、タマキは諭す。
「今回はカルム支部の皆さんやラージ様の意見も聞かないとならないけど、組織の実態解明が先でしょう。ヒガシさんは司法取引ということになって、情報と引き換えに送還で手打ちじゃないかしら?」
「むむむ、本来なら法で裁きたいけれど……」
なおも、マコト(おばちゃん)は食い下がるが、ダニエルがそれを止める。
「いえ、
「アレクサンドル家の警備隊に言われると説得力ありますね。まずはカルム支部へ戻って協議しましょう」
タマキの提案により、一同は支部へ引き上げることにした。
「これはこれは、アレクサンドル家の警備隊まで動員しての捕物になるとは、さすがはタマキ様です」
マコト達はダニエルを連れてカルム支部へ赴き、これまでの一部始終を聞かされた支部長のディディエは目を丸くしながらも感心していた。
「それで、ヒガシの行方はわかったのですか?」
緊張のためなのか、ディディエは冬なのに大汗をかいており、忙しなくハンカチを当てている。
「ええ、カルムの隅にあるマリーという女性の家ではないかと言うので、その女性に伝言をお願いしたいのです」
「はあ、では、早速書類を作って決裁を取ります」
「いえ、急がないとヒガシさんはカルムの魚のエサになるでしょう。さすがに異世界で死んだら転生はできないでしょうし」
さらっとチヒロが恐ろしいことを言うが、その通りだ。マコトも同調してディディエに促した。
「確かにそうです。決裁は後回しで呼び出しをしましょう、ディディエさん。罪状は強制送還事由ならなんでもいいですが、多分違法薬物の売買でしょっぴけると思います」
「は、はあ、わかりました」
そうして、ディディエとオリヴィエの二人はマリーの家に急行し、『伝言』を伝えてきた。当初、マリーは警戒していたが、『伝言』の真意を悟ったらしく、書状を受け取ったという。あとは指定した場所と時間に待ち構えて収監するのみだ。
「はあ、結果的にはヒガシの疑惑調査ははかどっているけど、アレクへの報告書がややこしくなるな」
要点をメモしながら、マコトはため息をついた。
「休暇中なのに、立ち回って、なぜかマリエル様の警護隊まで出動している、不思議ね!」
「あの時のばあちゃんの脅しに屈しなければこうならなかったのに……」
「大丈夫よ、とっくに皆はマコトが変態と知れ渡っているから」
「な?! おい、皆は俺のことを何だと思っているんだ!?」
「エロゲーやギャルゲー好きで、めちゃくちゃデカイおっぱいが好きな二次元オタ」
「……」
もしかしたら、あのタブレットマコトにとっては災いのアイテムなのかもしれない。
そもそもタブレットのせいで異世界に来るきっかけにもなったのだ。いっそ破壊した方が良いのだろうか、メモを取りながらもマコトは頭を抱えるのであった。
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