第39話 ワイバーンの仕入れは難しい
翌朝、卸売市場に三人は来ていた。
正確にはタマキにはダニエルという若いボディーガードがそばにいるから四人だ。
このダニエルは無口な孫という設定らしく、道中も無言であった。彼曰く、こうした方が何かの際にうかつなことをしゃべる恐れもないから、ボロが出にくいからだという。まあ、最初から無口設定な方が、変に気遣って話をしなくてもいい。ちなみにマコトはチヒロに頼んで大阪のおばちゃんに変身している。
そういう訳でちょっと風変わりな組み合わせで調査を開始することにした。
「ちょっと聞きたいのやけど、ワイバーンのガラと干し肉、ウチの店に仕入れたいけどなんぼやろか」
「うーん、干し肉は十ポンドで金貨十五枚、ガラは金貨五枚だな」
「あらま、高いさかい、二つ合わせて金貨十枚にまけてくれへんか」
「ええ!? 無茶言うなよ。これでも卸値で安いんだぜ?!」
「せやけど、高いねん」
「相変わらず、大阪弁上手いですね、マコトは。お店の人もたじろいでいますわ」
「あの子は大阪の子と仲良かったからねえ」
「ああ、少し聞きました」
「でも、殉職してしまったのよ。若かったのにね。亡くなったと聞かされた時のマコトは見ていられなかったわ」
「えっ」
聞き返そうとしたその時、おばちゃんに変身したマコトとの交渉にキレた店主が叫んだ。
「ええい、そないに安う仕入れたいなら直接ワイバーンハンターから買うたってやっ! ちょうど、そこにハンターがおるで!」
「……大阪弁がうつってますね」
「まあ、なんにせよワイバーンハンター仲間に接触できそうね」
「ほな、そうさせてもらうわ。あんた、ワイバーンハンターでっか?」
声をかけられたハンターは異世界人の女性でボーイッシュな恰好をしている。
「ええ、アン・トツカと言いますが、ワイバーンの直接購入かしら?」
「もしかして、
そう言うとアンはキレたように叫び出した。
「もう! せっかく、この世界に来てカッコよく『アン』と名乗ってたのに異世界人はすぐにばらす! そうよ! 親が鉄道マニア通り越してクレイジーだったのよ! 女で
「ちょっと、マコト……、いえマコおば様。今のはおば様が悪いわ」
「そうよ、マコさん謝りなさい。これから仕入れする人に失礼だわ」
単に名前の由来を聞いただけなのに、こうもキレられるのも理不尽だが、二人の言う通りに謝罪した。
「すみまへん、思ったことをつい口にしてしもた」
「まあ、わかってくれればいいのよ。それで買い付け? うちはハンターだから干し肉やガラは無いわよ。塊の肉になるわね」
そのまま買い付け交渉になりそうだから、マコトはひっかけて聞くことにした。
「それもあるんやけど、ハンター仲間のヒガシさんのことを確認したくて」
「ヒガシ? 何かしたの?」
「うち、飲食店やってんやけど、常連のヒガシはんが最近は金払い悪くて。三日前から来なくなってん。なんとか取り立てたいから、ハンター仲間ならなんか知らへんかと」
「ああ、そういうことね。あいつはハンター仲間でも怪しいと噂なんだ」
「怪しいって、どういうことですか?」
チヒロが問い返す。
「ワイバーンはでかいけど、一人じゃ倒せないから数人がかりで倒すから報酬は分け合うんだ。でも、あいつはなんか、武器もいっつも最新のだし、服も変に宝石が混ざっていて豪華というか、羽振りがいいのよね。いくら他のハンターよりワイバーンハンターが稼ぎがいいと言ってもおかしくて。今の話からして、借金して豪遊してたのかしらね」
「あらま、そりゃ、まずいわ。夜逃げされる前に取っつかまえて取り立てなきゃ」
マコトが慌てたふりをすると、アンは腕組みをして答えた。
「うーん、早めにした方がいいかも。こないだ仲間から聞いたけど、ヒガシの荷物から銃が見えたから、金が無いからやばい仕事しているのではないかって」
「それ、ワイバーンを仕留めるための武器ではないのですか?」
チヒロがなおも食い下がる。
「それは無いわ。銃弾って鉛でしょ? 使うと食べられるところが減るから売れなくなるのよ。昔、召喚された猟師が持ち込んだ散弾銃を使っていたら、その肉を食べ続けた人が鉛中毒になったことがあるらしいの。ワイバーンの固い皮でも銃弾は貫通するからどうしても汚染されるのよ。
以来、暗黙の了解で銃はあっても絶対に使わないことになってるの」
ファンタジーの世界でも現実世界の武器はチートだけではない、不都合な事情があるらしい。
「で、ヒガシさんはどちらにいるの?」
「うーん、確かカルミット丘の近くに家があると聞いたけど、それ以上はわかんない。ハンターはいつも狩場で現地集合して、市場へ持ち込んで解散だからね」
「狩場?」
「そう、北の方に山があって、その沼地がワイバーンが沢山住んでいるの」
「じゃあ、会いたければカルミット丘か狩場へ行くしかなさそうね」
「ええ。でも一般人は狩場は危険だからハンター以外は立ち入り禁止よ。カルミットへ行った方がいいのじゃない?」
「わかった。ありがとう、じゃ、マコおば様、私はヒガシさんを探して代金回収するから、仕入れ交渉頑張ってね」
そういうとチヒロはスタスタと歩き出してしまった。
「え、おい、チヒロ……ちゃん?!」
「私がヒガシさんを探して代金回収、マコおば様はワイバーンの仕入れ。分担した方が効率いいわ」
「でも、この姿じゃ……」
「腕は上がったのだから、しばらくは大丈夫よ。じゃ、またあとで市場前の屋台にでも合流しましょう」
「ほら、マコさん。ここでうろたえてどうするの? 息子の嫁として、私の店をのれん分けしてフィエルテに出店するのでしょ? ここでドーンと値切りなさい」
タマキが機転を利かせて、ごまかしてくれた。このまま別行動で大丈夫だろうかと思いつつ、マコトは大阪弁で仕入れ交渉を始めるのだった。
「ほな、そうやったわ。やってみせますわ。アンさん、塊肉を十ポンドを金貨七枚でどや。塩漬けにすりゃ、傷まないし、その方がええやろ、ば……お義母さん。
あと、なんかおまけ付けてくれないかね」
「噂には聞いてたけど、大阪のおばちゃんの交渉術は本当にえぐいわね」
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