第38話 それぞれの過去
「ったく、ばあちゃんの向こう見ずな性格は……」
夕食の後、提供されたでマコトはぶつぶつと独り言を吐きながら、寝返りを打って寝付けないでいた。
「もう、あいつのようなのは出したくないのに……」
イライラしながらもようやく眠りについた。
『あ、いたいた、真、ちょっとええか?』
『お、智樹か。あれ? 入国警備官のお前が今日はなんかの出張で来たのか? 彼女の友人紹介なら受け付けるぜ』
『あー、仕事の話は置いといてやな。彼女の友人紹介なら間接的にはそうなるかもしれへん。結婚することになったさかい、お前も式に出席してくれや』
『マジか?! いつ?』
『来年の四月。彼女の誕生日にしたねん』
『ちょっとお花畑じゃないか?』
『披露宴や二次会には彼女の友人が沢山くるぜ。独身の子も多いし、可愛い子も多い思うけどな。そっか、同じ牛久の研修所の飯を食うた同期の結婚をお花畑ちゅうなら欠席、と』
『いえ、すみません、ぜひ、参加させてください。智樹様』
『素直でよろしい』
『智樹、式の準備は進んでいるか?』
『ああ。概ねな。仕事がちょいだが。あまり言えへんが、
『そいつ、名前が良なのに悪かよ。お前も大変だな、警察並みに体を張るから。嫁さんのためにも殉職するなよw』
『ああ、俺、この事件が終わったら彼女にプロポーズするんや、ってなw』
『死亡フラグ立てんなwww って、プロポーズ終えて籍も入れてるだろw』
『それもそうだなwwwそうだ、スピーチ頼むぞ』
『任せとけ』
「ん? あ、夢か……」
不意に目が覚めてマコトは夢だと気づいた。そうだ、ここは異世界だ。昔懐かしい夢を見たものだ。やはり枕が変わるとうまく寝れないらしい。
水でも貰いに行こうと階下へ降りた。呼び鈴があるから誰かに持ってこさせることも可能だろうが、少し動いて気分転換したかったのもある。
そうして、タマキとチヒロが泊まっている部屋の前に通りかかった時、話し声が聞こえてきた。
「さすがにやり過ぎたかしらね」
「やはり優しい孫なんですよ。心配するのもわかります」
タマキがしょんぼりとしているのをチヒロが慰めているようだ。
「私も捕物帖ができると思ったのだけど」
「いえ、今回はマコトの言うことに賛成です」
いつになく、チヒロは真剣な声である。
「チヒロちゃん?」
「マコトの手前、旅行気分を装いましたが、銃の密輸と聞いて、いても経ってもいられなかったのです。私、テロリストに撃たれてこちらに転生しましたから」
「……」
「撃たれた痛みはもちろん、意識が薄れていく中、すごく寒かったこと、死ぬのだという絶望感、今でも覚えています。タマキ様やマコトにはあんな思いはさせたくありません」
「……ごめんなさい」
「いえ、タマキ様も懐かしい友人に会いたくてこちらに来たがったのもわかります。でも、密輸調査は本当に危険です。
「……」
「さ、もう寝ましょう。品物の仕入れもしなくてはならないですから、市場の朝は早いですよ」
その後、ランプの明かりを消す音がしたので寝静まったのだろう。
そのまま足音を立てないようにそっと通り抜け、無人となった食堂へと移動しようとしたその時。
「おっと」
使用人とぶつかってしまった。マコトより背の低い、確かシモンという中年男だ。
「マコト様? 何か用なら呼び鈴でお申し付けくだされば行ったのですが」
「ああ、いや、ちょっと眠れなくて館の中を散歩しているだけだ。すぐに戻る」
「そうですか、なるべく早めにお休みください」
シモンと別れ、階下の食堂に着いた。やはり水は無かったが、すぐに戻る気にもなれず、窓の外の月をぼんやり眺めながら時間を潰すことにした。今夜は満月で月明かりが差し込んでくる。
「だから、
ぼんやりと窓を眺めていると、後ろから人の気配がしたので素早く振り返った。
「誰だっ!」
そこにはビクッと体を硬直させたチヒロがいた。
「なんだ、チヒロか。お前も寝れないのか」
「え、ああ、うん。ちょっと昔を思い出しちゃって」
さっきの話だろうと思ったが、盗み聞きしたのはさすがに言えない。マコトは黙って聞き流した。
「ああ、俺もちょっと昔の親友を思い出してな」
「親友って、いつか言ってた大阪弁の人?」
「ああ。同期……と言っても俺は入国審査官、あいつ……智樹は入国警備官と仕事が違うから本来は一緒にはならないのだけどな」
「なんかよくわからない」
「簡単に言えば俺の仕事は書類審査がメイン、智樹は警察みたいに体張って仕事する。だからその分、警備官の方が危険だし、給料も高い」
「ふうん、どうして知り合ったの?」
「採用されると研修を受けるのだけどさ。
部屋が足りなくて、智樹と相部屋となったんだ。だから朝晩過ごすくらいしか接点がなかったが、不思議とウマが合った。研修後もよく連絡しあったし、出張で来たときは飲んでいた」
「へえ、仲が良かったのだね」
「ああ、実際あいつには彼女いたし、結婚式にも招待された」
「あらー、先越されたんだ」
「ああ、あいつはガタイも良かったし、関西人だなら明るくてモテたからな。悔しいがその点は認める。だけどなあ、あいつは……」
「マコト様にチヒロ様」
後ろから声をかけられ、振り向くとシモンがお茶を持って二人の前に置いてきた。いい香りがするところからハーブティーだろう。
「話し声が聞こえてきましたし、マコト様は眠れないとのことでお持ちしました。夜も遅いですし、お飲みになったら寝室へお戻りください」
「は、はい。すみません」
気が付くと月は中央から大きく西の空へ傾いたところだった。
「さ、執事さんの迷惑にもなるし、俺達もこれを飲んだら寝よう。せめて横になって目を閉じるだけでもしないと」
「う、うん」
そうして、ハーブティーを飲み、二人はそれぞれの寝室へ戻っていった。
寝床に横になりながら、場合によっては長丁場になるのかもしれない、身を守る術も考えないとならないとマコトはいろいろと考えにふけるのであった。
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