第35話 マコト、ドラゴン便を利用する
「さて、チヒロとマコト、カルム行きの準備はできたか?」
アレクが執務室にて二人に確認する。
「はい」
「それで、カルムは南の海沿いだから距離もある。それに私用とはいえ、タマキ殿が移動することも考慮してドラゴン便で移動してもらう」
以前聞いたことのあるドラゴン便。どんなものなのだろう。
「タマキ殿は我が大叔母を見舞いに行くことでもあるし、こちらで一緒に手配をした。高齢でもあるし、負担の少ない観光用のドラゴン便に乗ってもらうことにした。、お前たちはビジネス用のドラゴン便に乗ってもらい、タマキ殿を迎えてくれ」
「えーと、違いって何?」
「観光用のは穏やかなメスドラゴンに乗るものだ。ゆっくり飛ぶし、揺れも少ない。それでも昼前に着くがな。ビジネス用のは速さ重視だから、若いオスドラゴンを使う。どちらも馬と同じように
ざわりと嫌な予感がする。もっと細かく聞こうと思ったが、チヒロに遮られた。
「じゃ、行きましょう。タマキ様は先に行ったし、ドラゴン発着場は少し離れているから歩くわよ。では、アレク様、ブルーノ様、行ってきます」
「ああ、調査にはくれぐれも気を付けろよ。その怪しい元勇者は密輸者かもしれないからな。それに出張が終わったら、魔法の適正検査をするからな」
「……はい」
少し、声に元気が無くなったような気がするがここで確認するのも野暮だ。いつか属性が未確定と言っていたし、フィルじいさんの話からして魔法にコンプレックスがあるのかもしれない。そのまま気づかなかったふりをして、二人は発着場へ向かった。
「ここがドラゴン便の発着場か、すげえ」
着いてみてマコトは圧倒された。大小さまざまなドラゴンが出発を待っていたり、上空を旋回している。
「そ、知能の高いドラゴンを手なずけて利用しているのよ」
「大きいのと小さいのがいるな?」
「簡単に言うと小さいのはメス。アレク様も言ってたと思うけど観光用で、穏やかに飛ぶから景色を楽しみながら移動したい人向け。大きいのはオスでビジネス向け。とにかく速く移動したい人用。慣れが必要だけどね」
「慣れ?」
「あ、タマキ様ー!」
先ほどのアレクの言葉マコトが聞き返そうとしたとき、支度を終えたタマキが向こうからやってきた。
ツナギのような服を着て、ゴーグルのようなものをつけている。まるでひと昔前のパイロットのようだ。
「マコト、あんたも早く支度しなさい」
「し、支度?」
「そうよ、風があるから目を保護するゴーグル、女性はスカートなんて履いてられないからこういう専用の服を借りるの。男性も似たようなものだけどね」
「え、と、荷物は?」
「それはまた固定するのだけど、大丈夫、係の人がやってくれるから」
「はあ……」
「じゃあ、先に乗っていくわ。まあ、メスだからあんたより遅いけどね」
そう言うや、否や、スタンバイしていた小さめのドラゴンに付けられていた
そして、ドラゴンはメスとは言え、凛々しくその姿は気高さも感じられた。自分もあんなドラゴンに乗れるのだ。ワクワクしてきた。
「すごいわあ、タマキ様。多分、ドラゴン便は数十年ぶりなのにあんなにスマートに乗っているわ。じゃ、私たちは同じドラゴン『ブラーヴ号』に搭乗だから、着替えたら十分後にここで集合ね」
「え、と、こ、これに乗るの?」
支度を終えて待ち合わせ場所に来たマコトは固まっていた。先ほどのタマキの乗ったドラゴンより二回りは大きい。色も黒いし、トゲみたいなのもある。
なんとなく、威嚇して吠えそうだが、そんなことはなく、既に先客が二人乗ってスタンバイしていた
「そうよ、ビジネス用のドラゴンのオスで三歳。名前は『ブラーヴ』。大きな体だから四人乗り。時計は無いけど、体感では100キロを一時間くらいで行くわね」
「それって一般道のバイクより早い感じかな。それなら、舌を噛むなんてなさそうだな」
「甘いわね」
「え?」
「ほら、もう他のお客さんも乗っているし、あたしたちが最後。乗った乗った!」
言われるままに鐙に乗り、固定する。そうするとふわりとすぐに離陸していくのがわかった。これが空の旅、きっとファンタジー映画のように壮大な景色に感動する余裕はありそうだ。
しかし、それは間違いだったとすぐに気づいた。
ものすごいスピードで急上昇したかと思えば、坂を急降下するかのように降下しながらスピードを上げていく。そして、オスのためか荒っぽく上下に揺れる。
この感覚は、ジェットコースターと同じだ。しかも、チヒロの話では一時間かかる。そして、マコトは絶叫マシンは大の苦手だ。
「うぎゃあああああああ!!」
「叫ぶなー! 舌噛むって!」
広大な大空の下、マコトの叫び声だけが響くのであった。
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