第32話 マコト、祖母の暴走を食い止められるか?
「ふむ、こちらも密輸の噂は聞いている。しかし、量などして異世界との行き来が多くないと成り立たないから首を傾げていたのだ。今の話で合点がいった」
セドリックから聞いた話を進言したマコトにアレクは冷静に答えた。
「やはりマフィアがいるのか」
「明らかに異世界の武器や薬物と見られるものは闇で出回っている。だが、召喚石のほとんどは回収済みなのだ。僅かに回収しきれなかった分がそういう輩に使われていると見られる」
「……人柱とはどういうことだ?」
「フロルディアの雫は一回召喚に使うと魔力が落ちる。通常なら大聖堂や各地の教会の女神像に捧げて祝福を受けて力を回復させるが、使えるようになるには数週間から数ヶ月ほどかかる。しかし、すぐに使うとしたら生け贄を捧げるしかない。もちろん、法的にも宗教的にも禁忌とされている」
「消えたホームレス達はその犠牲になったのか」
「ああ、最底辺の貧民は使い捨てにするにはちょうどいいのだろう。死体さえ見つからなければだがな」
「胸糞悪い話だ」
この世界でもカーストがあり、最下層に対する人権意識は低いらしい。しかし、こんな使い捨てにされる命があるのを見せつけられて反吐が出る思いだ。
「ふむ、そうだな。カルム支部から応援要請が出ているが、もしかしたら密輸している勇者かもしれぬな。ワイバーンハンターから仲間の元勇者が仕事の割にはいやに裕福そうだとの通報があった」
「ワイバーンハンター?」
「ああ、知っているかもしれないが、ワイバーンは火を吐く厄介な小型ドラゴンとでも言うべきか。しかし、味が良いので食材としては人気なのだ。お前も食べたことあるだろう」
そう言えば階下のカフェでワイバーンの卵を使ったオムレツや、肉が入ったシチューを食べたことがある。
「ただ、マコトの特殊なスキルは勇者達にも知られ始めているしな。出張だと怪しまれるかもしれない。……いや、タマキ殿をだしにするのはなんだな」
アレクは難しい顔をして考えこみ始めた。
「何か考えがあるのか?」
「カルムにはタマキ殿の旧友でもあり、私の大叔母のマリエル様が静養しているのだ。タマキ殿の見舞の付き添いとしてマコトが同行し、裏で調査すると言うのも考えたのだが……むむ」
「私ならカルムへ行ってもいいですわよ。マリエル様にもお会いしたいですし」
不意に声が聞こえたので二人が振り替えるとお茶とお菓子を持ったタマキが入口に立っていた。
「ばあちゃん?! あ、あれ、だって、ドアは鍵がかかっているはず??」
「その鍵はこれでしょ」
タマキは片手でお盆を持ちつつ、ポケットからマコトの職員カード兼カードキーを取り出してヒラヒラと見せつけた。
「あれ?! え?!」
「ランチの時に忘れてたわよ。まあ、フィルさんからのコーヒーとお菓子の差し入れも持ってきたのだけどね。二人ともまだ休憩に降りてこないから、忘れ物届けがてらに来た訳」
「マコト、カードの管理は厳重にしろと注意しただろう」
アレクが睨んでくるが、もう手遅れだ。始末書は避けられないと思いつつ、祖母を止めにかかる。
「ばあちゃん、友達に会いたいのはわかるけど、危険だぞ。俺の祖母だとそいつにバレたらまずい」
「まずいも何も、私のことを知らない人はこの国にはいないわよ。今さらだわ」
「そ、それもそうだけど」
「マリエル様のお見舞いはいずれしたかったし。それにシチューの出汁用のワイバーンの骨と干し肉が無くなったから、仕入れにも行かなくちゃ。一回見たかったのよ、ワイバーンハンターにワイバーンの卸売市場」
ダメだ、好奇心とバイタリティーの塊の祖母が行くと言ったら聞かない。
「で、でもカフェ、忙しいだろ? フィルじいさんの負担が増すのじゃ」
「わしなら大丈夫だぞ」
「ええ!? フィルじいさん?」
ドアを開けっ放しにしていたからか、フィルじいさんまで上がってきてしまった。調査の話が聞かれてしまったとしたらまずい。
「いやあ、タマキさんがなかなか降りてこないから来たら、友達の見舞いやら、ワイバーンの仕入れの話が聞こえてきたから。
タマキさんがいないときは、臨時で信者から手伝いを募集するから大丈夫じゃよ。それに友達には会える時に会った方が良い。この年だと会っておかないと、二度と会えないかもしれないからの」
フィルじいさんには話の後半しか聞こえていなかったようだ。しかし、祖母が乗り気になってしまうのも困る。
「そうよね、さすがフィルさんはわかってくださるわ。じゃあ、マリエル様のお見舞い兼ワイバーンの仕入れに行きましょう。あんたは荷物持ちね」
「ちょっと待て! さすがにそれは無理だ!」
「そうだ、マコト、お前からも説得してくれ」
「まあ、そろそろ厨房へ戻るわ。続きは夕飯の時にね、マコト。では、フィルさん、戻りましょうか」
タマキはそういうとコーヒーとお菓子を配膳し、お辞儀をしてフィルじいさんと共に階下へ降りて行った。
「マコト、絶対に止めてこい。万一のことがあったら私が逆賊扱いされる」
ものすごい威圧感で凄むアレクにおびえつつ、始末書も書かないとならないことに胃が痛む思いであった。
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