第四章 不穏な噂の元勇者
第31話 キナ臭い話
「いやあ、召管の人間だったとはな」
ここはフロルディア王国の首都フィエルテにあるオリヴィエ大聖堂の一階にあるカフェ『ジェラニウム』。
前回の捜査に協力してくれたホームレスのセドリックがマコトを訪ねてきたため、マコトはポケットマネーで夕飯を奢っていた。
……匂いが気になったので、施療院で清潔にしてもらったが。
「俺の個人的なおごりだから好きに飲み食いしてもいいぞ」
「おう、じゃ、遠慮なくいただくぜ」
「あ、でもカフェだから、酒はない。済まないな」
「ちぇっ、ありつけると思ったのにな、まあいい」
セドリックは本当に遠慮なく注文していく。今月の出費はかさむなと思いつつ、マコトは礼を言うのであった。
「あんたの証言で不法滞在者を追い出せたよ。ありがとうな」
「おう、良いってことよ。なんなら今後も調査に協力するぜ」
「ああ、オフィシャルにはできないが、何かあったら頼むよ」
「はい、おまちどおさま。ワイバーンシチューと鶏のもも焼き。ポテトコロッケはもうちょっと待ってね。セドリックさん、孫が世話になったそうね。たくさん食べていってくださいね」
タマキが料理の皿を運んできた。
「おお、酒が無くてもうまそうだな。しかも、俺のような乞○でも、タマキ様は普通に接してくれるのだな」
セドリックは感激していることから、ここでも祖母は有名なようだ。フロルディアの全国民は何かしらでタマキのことを知るのだろう。
「うん、うまいな。タマキ様のおかげでこんなにうまい飯が食えるなんて、本当にいい国だよな」
俺の奢りなのだが、とツッコミを入れたいのをこらえつつ、自分ももも焼き肉をかじる。
「ところで、怪しいタレコミも受け付けているか?」
唐突にセドリックが切り出してきた。飯代の代わりに情報提供という訳か。
「参考程度だがな」
「ああ、異世界とこっちを行き来して密輸している元勇者がいるって話は知ってるか?」
「いや?」
初耳だ。第一、召喚石『フロルディアの雫』がないと簡単にできないし、一度使うとしばらくは使えないと聞く。そんなに頻繁に行き来できるのだろうか。
「ああ、怪しいやつが俺たちの仲間に声かけしてるのよ。一日だけ働くといい報酬が貰えるぞってな」
「それが密輸してる勇者とどう関係あるのだ」
「俺らの仲間でマルスって奴がその話を受けてよ。前金だといって金貨を貰ってたのさ。でも、そいつよぉ、それっきり行方がわからなくなっちまった」
「何かの犯罪の片棒担がされて、始末されたっぽそうだな」
「マルスだけじゃねえ、何人も行方がわからなくなった。でもさ、一人だけ帰ってきた奴がいたのさ」
「ふうん」
「ああ、でも、ひどく怯えていて、またどこかへ逃げていったが。なんでも、生け贄にされるところだったと。そいつともう一人がどっか魔方陣があるところへ連れていかれて『フロルディアの雫の力になれ』と言われた途端、片方が目の前でバタッと倒れたのを見て、命懸けで逃げたのとか」
「規制を掻い潜って、ひっそり召喚石を持っているということか。で、よくわからないがエネルギーとして人柱を使うと。それだけでも重罪だな」
話が重くなってきた。
「それで、これも噂なんだが、異世界のものじゃないかという武器が出回っているらしい。物凄い速さで小さな粒を飛ばして体を傷つけるとか」
銃のことだろうか。確かにこの世界では存在しない。しかし、通常の召喚では出回るほど持ち込みなんてあり得ない。密輸だとしたらこの世界の軍事バランスが崩れるほどの脅威にもなりえる
「他にも嗅いだだけで幸せになれる粉も手掛けてるらしい。しかし、べらぼうに高い上にそれが無いと生きられなくなると聞いた。
頻繁に異世界を行き来している奴と武器と変な粉、何か繋がりつかないか?」
「麻薬だ……」
勇者の中にマフィアがいるのだろう、まさかそんなのが出てくるとは思わなかった。むしろ、騎士団と連携を取らないと大変なことになる。
「そいつの情報、他にも何かわかったら教えてくれ。俺も上に進言しておく」
「おお、その時はまたうまい飯をよろしくな」
「はい、ポテトコロッケおまちどおさま。あとはオムレツね」
タマキが追加の料理を配膳に来たので二人は慌てて黙った。
「あ、ああ、ありがとう。ばあちゃん」
「あ、ありがとうございますです、タマキ様」
二人の慌てぶりを見て、何かを勘違いしたのか、ため息をつき冷ややかな目でマコトを見ながらタマキはセドリックに注意した。
「セドリックさん、何を話していたか知りませんが、確かにマコトは巨乳好きの変態ですが、変な目で見ないでやってくださいね」
「ばあちゃん、どこまで孫を変態にしたいんだよ……」
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