第24話 豪華なお宅拝見という名の調査
「うっひゃあ、天井が高い」
「声が大きいぞ、マコト。公務員の威厳は保て」
勇者ヒダカ達の面談を終え、二人は住居訪問をしていた。
首都フィエルテには貴族や王族など富裕層が多いとは聞いていたが、このヒダカの住居も小さめながら豪華なものであった。
都市部は小さな建物が密集しており、ここヒダカの住まいも両隣よりも少し大きめというくらいだ。
だが、柱や壁には上質な木材が使われ、床も磨きあげられ、じゅうたんが敷かれている。飾られている絵画や美術品も価値が高そうなものばかりであった。
「うわあ、美術品はわからないが、割ったら一生働いても返せないのは確実だな」
マコトはキョロキョロしながらも手帳にメモを取っている。
「あまりキョロキョロするな。みっともないぞ」
「あ、すんません。記憶力怪しいからなんでもメモをするのが癖なんだ」
「お前、書類仕事はてんでダメだが、そこまで頭の作りが悪かったのか」
「なんとでも言ってください」
「どうぞ、こちらへ。今、執事にお茶とお菓子を持ってこさせます」
ヒダカとクロエが客間へ誘導しようとするのをブルーノは制止した。クロエの面談はブルーノが済ませたので、直に顔を見るのは初めてだ。顔立ちはやや地味だが、金髪の長い髪をまとめた上品そうな女性である。
「いえ、我々は仕事で来ていますからお構い無く。中を拝見させていただきます。どちらかに案内をお願いしたいのですが」
「はい、ならば俺……いえ、私が案内します」
ヒダカが名乗り出て、二人を引き連れて邸内を歩き始めた。とはいえ、思ったほど大きくない。
「シンプルな作りですね」
失礼にならない程度にマコトは話しかける。
「ええ、義父がもっと大きな家を提供すると言ってくれたのですが、さすがに落ち着かないし、身の丈に合わないと思いまして。その代わり、調度品の援助は惜しみ無くさせてもらってます」
「なるほど」
「こちらが寝室です。ちょっと散らかっていて恥ずかしいですが」
「ふむ、では次は……」
「荷物が散らばっているのはなぜですか?」
ブルーノが切り上げようとしたところをマコトが質問を始めた。
「ああ、今、衣替えをしているから整頓中なのです」
「すみません、クローゼットを開けていただいていいですか?」
「おいっ! さすがに失礼だろう」
唐突な提案をマコトはしてきたので、ブルーノは慌てて止める。ヒダカもやや困惑したように答える。
「私が、ですか?」
「ええ、私たちが勝手に開けるわけにはいきませんから」
「これは妻の専用だから怒られそうですが……。わかりました」
そう言ってヒダカが開けると女性の服や小物が見えた。どれもよく手入れされ、きっちりと収納されている。
「失礼しました。確かに奥様専用ですね。ヒダカさんの衣服はどちらに?」
「私のは仕事用の服が多く、土や埃臭いので別室にまとめて保管しています」
「そうですか。では、それも確認していいですかね? あと、普段使っている日用品も見せてもらいます」
マコトは問いかけながら、また何かをメモしている。ブルーノは嗜めようとしたが、彼が入管職員だったことに気づいて思い直した。恐らく入管時代の調査手法なのだろう。
(このやり取りからして、マコトは婚姻実態を疑っているというのか?)
ブルーノは心の中で首を傾げた。書類にも面談でも特段おかしな点見当たらない。今回も形式的なもので、一通り見て終わりだったはずだ。しかし、マコトはしつこいくらいに部屋を探り、調度品にも目を光らせている。
(この手法は見習うべきかもしれないな)
そう思って彼のメモをちらりと見た。大半は日本語で書かれていたが、フロルディアの文字で『女性の下着』と書かれているのは見逃さなかった。
(……いや、どうやら、私の買いかぶり過ぎだったようだ。そういえばチヒロから巨乳好きの変態と聞かされていたな。まあ、性癖と職務は別のものだからな。しかし、見られてまずい言葉をフロルディアの文字で書くとはな)
ブルーノは心の中で大きなため息をつくのであった。
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