第23話 勇者と配偶者の面談
「お名前を聞かせてください」
「はい、ヒダカ・モンベツと言います。元勇者で、現在はハンターとして生計を立てています」
マコトは元勇者であるヒダカ・モンベツと面談をしていた。
書類によれば、魔王「アドルフ」を倒すために召喚され、見事倒したのちに領主の娘「クロエ」と去年結婚し、ハンターとして暮らしているとのことであった。
「もしや、お名前の由来は……」
「……はい、父親が鉄道マニアで。こちらでは名前のヒダカで呼んで貰ってますから、支障はないです。だから管理局員さんもヒダカと呼んでください」
両親が鉄道マニアだと召喚されやすいのだろうか。さらに名前についてツッコミたい気持ちはあるが、まずは概要をおさらいするように聞くことにした。
「書類にもありますが、婚姻届こそ、今年の
「はい」
「結婚のきっかけは領主の紹介であったということで間違いないですか?」
「はい。まあ、政略結婚みたいに思われるかもしれませんが、その地帯は本当に魔王に苦しめられていたそうで、クロエ……あ、妻は嫁として魔王に差し出されるところだったそうです。そこで私が召喚され、魔王を倒したということで妻と結婚する運びとなりました」
「はあ、しかし、お互いそれで納得したのですか? 政略結婚に近いですし、クロエさんは納得されてたのですか?」
「はい、魔王のものになるところだった自分が、勇者の嫁になれるとは光栄だと言ってくださって」
現代の感覚では違和感を感じるが、中世、つまり異世界なら当然の価値観とも思える。上流階級ならば親が決めた結婚相手に従うというのは当たり前であり、そういう意味ではやり取りにはおかしなところはない。
「では、もう少し細かく聞きますが、クロエさんを知ったのははいつ頃ですか?」
「それはどういう意味ですか?」
「うーん、今のお話だと領主が結婚話を持ち出す前に、魔王アドルフがクロエさんを差し出されてしまう事情は知ってたのですよね。例えば、彼女から直接助けて欲しいとおっしゃったのでしょうか」
「ああ、そういうことですね。事情を説明してくれた領主様のそばで彼女は泣き明かして途方にくれていました。だから、彼女に言いました。『魔王は倒すから安心してほしい』と」
「なるほど、では面識はあったのですね。召喚されてすぐに会ったのですか」
「確かそうでした。召喚されて魔導師から喚ばれた目的を聞いて、すぐに領主様と妻に会いましたから」
「その時、彼女の印象はどうでした? 美しいドレスを着ていたとか、髪がきれいだったとか、バストが大きいなとか」
「なんだか、新婚さんいらっしゃいみたいな質問ですね」
やや訝しげにヒダカが尋ね返すので、マコトは慌てて否定した。
「ああ、失礼。正直言えば個人的な興味も混ざってます。私はやはり幸せな馴れ初めを聞くのが好きですので、つい聞いてしまうのです」
……質問の意図は悟られてはいけない。まあ、バストは余計な一言だったが。
「ええ、最初は泣いてましたから、泣き顔しか印象にないのです。とにかく魔王に差し出す期限が迫っていたとのことなので。
部屋に沢山の紅花が生けてあったことや、クロエが涙を拭いていたハンカチが追い付かなくて、黄色のドレスに涙の跡が染みていったのが印象的で覚えてます。クロエの実家は紅花を扱うギルドなので服も黄色が多いし、花も紅花をたくさん生けていたそうなんです」
「ふむ、そして、その後に見事に魔王を倒したと」
「ええ、領主様に頼んで強い酒を用意してもらって酒盛りして酔いつぶれたところを……」
「それは日本神話ですか?」
「ああ、それを参考にしました」
なんだか、チート勇者の割には姑息な手で倒したなと思いつつ、本題に戻ることにした。
「では、書類通り、
「いえ、魔王を倒してから半年後です。やはり準備が沢山いりますので。ライラックのブーケの関係もありましたし」
「ライラックのブーケ?」
ブーケと結婚式の時期と何の関係があるのだろう。不思議に思って反芻したのが伝わったのか、ヒダカが補足説明を始めた。
「ああ、管理局員さんはまだ知らないのですね。この国では女神フロルディアの生誕日にちなんでリラ……つまりライラックで花嫁のブーケを作るのです。季節外れの時や、庶民は造花や他の花で代用しますが、やはり領主の娘ですから生花のライラックを作りたいとのことだったから旬を待っていたのです」
「へえ、ライラックブーケと。」
異世界でも結婚式にはブーケなのだな、とマコトは感じた。そういえば、元の世界でも結婚式にはブーケが使われていた。同期の結婚式では女性達がブーケを巡るバトル・ロワイアルが繰り広げられ、マコト達男性陣は恐怖でドン引きしたものだ。
アイツもそういえば春に結婚式の予定だったな……と考え事に耽ってしまったところでヒダカに声をかけられた。
「オダさん? どうしました?」
「あ、ああ、いや、異世界でも風習は似ているなと思って。結婚式は華やかだったのでしょうね」
「はい、やはり勇者と姫ですからね」
「わかりました。それから、こちらの住所の邸宅にお住まいで間違いありませんね。奥様の面談が終わったら、一緒に拝見させていただきます」
慌てて書類にメモを取りながら、マコトは面談を続けるのであった。
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