第16話 準備はOK?
翌日、思っていたより早く召喚師のジェレノーがやってきた。仕事を早く済ませて、舞台を楽しみたいのだろう。
それは、ユーリと舞台の話題で盛り上がっていたことからも伺えた。
事情聴取を行ったところ、やはりマコト達の疑念を濃くする内容ではあった。ただ、勇者ナカヤマの召喚自体は召喚管理法施行前の召喚であるため、ジェレノーの行為には違法性はなく、そのまま帰ってもらった。
「さて、協力者から聴取を終えた。アポ無し突撃の準備はいいか?」
「はい、召喚石も緊急の使用許可を取りました」
「OK! サポート魔法ならチヒロ様にお任せよ」
エマが召喚石を携行し、チヒロが得意気に杖を掲げる。
「よし、では。エマさん、俺達は街の出入口の門まで移動します。奴が馬で逃亡することも考えられるから、こちらも追跡用の馬をユーリさんに頼んで用意してもらっています。俺、馬には乗りなれていないので、万一の時は二人乗りになってサポートしてもらいます」
「行き先は宿屋ではないのですか? こちらの認可が降りるまでは、滞在すると言ってましたが」
「いや、ジョゼさんに頼んで宿屋に行ってもらいました。『同行している女性と、パーティーメンバーについて詳しくお話をお聞かせ願いたい。なお、その女性も連れてきてほしい』と言う呼び出しをね。
恐らくナカヤマはバレてしまったと、不法滞在覚悟で逃亡を謀るだろう。ましてや、今日は舞台初日。皆、劇場に関心が向いているから門も人気が少ない。どさくさに紛れて出奔を謀るだろうからそこを押さえる」
「マコト、もしナカヤマが真面目に
「その時はユーリさんとエルヴィさんに足止めをしてもらうように頼んである。こちらに現れたら、合図として花火をあげて音を出すように打ち合わせてある。ここからなら音が聞こえるはずだ」
「あ、だからさっき買いに行かせてたのね」
「そう、今日は舞台初日だから、ちょっとしたお祭り状態だ。屋台もたくさんあるし、花火も売っていたから利用したわけ」
「ユーリは舞台へ行きたがっていたのに残念だわ」
エマが部下を気遣う発言をする。そういう気配りができるからこの若さで支部長なのだろう。
「んー、まあ、『劇団に迷惑かけた奴なら、取っ捕まえるのに協力します』と息巻いてたからな。でも、上演は日暮れ後なんだろ? それまでには決着付けてやりたいな。
さて、そろそろ支度しないと。身分証出して門番に説明しないとならないから。それから、布と食用油も忘れずにな」
「マコトさん、本当にナカヤマさんはそんなことを……」
「外れて欲しいけどな。とにかく、嘘をついている時点で相当マイナスポイントだ。門に現れたら、呼び出し無視ということで、その時点でアウト、在留資格取消だ。あと、うまく行けば残りのパーティーメンバーとも落ち合えるはずだ。彼らが向かっていればだがな。ナカヤマが現れるまでは聴取できるはずだ」
「そうやって、何もかもうまく行くかしらね」
そう言っている間にユーリが呼びにきた。
「皆さん、馬の準備ができました。頑張ってくださいね。自分も万一勇者が来たら、足止め頑張ります!」
「ああ、ありがとう、ユーリ。上演前までにはマコトさんが決着を付けてくれるわ」
「はい! 健闘祈ります!」
賭けに勝つか、負けるか。仮に勝ったとしても、それは勇者ナカヤマがクロであるということだ。仕事柄、この手の勘が外れたことはない。
「そこまでして、この異世界に残りたいのか……」
独り言をつぶやいたマコトに、チヒロが返す。
「皆、魔法や幻獣が現れる異世界が魅力的なのよ。チート能力もあるから、ちやほやもされる。文字通りここは夢の国なのよ。夢にも痛みや葛藤があるのにね」
「え……、ほら、エマさんが馬を引き始めたから俺達も行くぞ」
何やら意味深なことを言うなとマコトは思ったが、詮索するのも野暮だし、第一時間が無い。馬を引き始めたエマの後をあわてて二人は追いかけ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます