第13話 勇者バラキ・ナカヤマの疑惑。後の何じゃこりゃー!

「情報……ですか?」


 面談を終えたマコトは、ナカヤマに対して疑義があることをシャンソニア支部の職員達に告げ、何か情報がないかと尋ねた。


「そうですね、過去の滞在していた各所からの衛兵からの情報では特段、素行に怪しい所は無いと聞いてますし、現在の滞在先の宿屋の主人からも礼儀正しく特段トラブルは無いとのことでした」


 ちょうどチヒロと共に休憩中だったエマは棚から書類を取り出し、めくりながら答える。


「パーティーのメンバーと別行動と言うけど、そいつらとは連絡つかないのか」


「ええ、急いで合流するようにパッシオンへ伝書鳩を飛ばしていますが、入れ違いになっている可能性もあります」


「エマさん、このタレコミはもしかしたら、彼のことではないですか」


 ジョゼという男性エルフ職員が羊皮紙を持ってきた。やはりエルフの割合が多い街だけあって、ここの支部に勤めるエルフはエマだけではなく、このジョゼもエルフであった。ジョゼは老け顔だから、人間で言うところのおっさんだろう。人間の年齢とエルフの年齢の換算はわからないけど、五十歳くらいなのかもしれない。


「なんて書いてある? 俺はまだ読めないんだ」


 少し見上げるように首を上げ、ジョゼに尋ねる。マコトも身長は一七九センチあるのだが、ジョゼはそれよりも高い。


「『あの勇者は女好きだ、勇者にはふさわしくない』とだけ。この紙が、今朝ここの扉に挟まっていました。それ以上は何も無いからガセネタなのか、判断に困っていたのですが。それにナカヤマ以外にも調査している勇者はいますし」


「これは? ここにも何か小さく書かれているな」


「ん? ああ、本当だ。『これを見つけた人は急いで奴の面談前に召喚管理局の扉へはさんでください』とあるな。今日の面談はナカヤマのみだから、やはり彼に関するタレコミか?」


「つまり、この手紙はどこかから託されたものか。別行動のパーティーメンバーか、ナカヤマとトラブルを起こした者か。でも、女好きってどういう意味だ」


「マコト、焦ってはだめよ。タレコミが本当とは限らないわ」


 お茶を飲みながらチヒロが横やりを入れてきた。


「限らないって何がだ?」


「勇者を妬んでガセをチクる輩も結構いるのよ」


「ガセ?」


「『俺はもうすぐ帰されるのに、アイツだけ残留なんて許さない』と他の勇者が妬むケース、多いのよね。あ、私にもナカヤマさんの書類を見せてください」


 マコトは思い出した。入管でも、永住申請を妬んでいる輩が一定数いて、恐らくそういう人間からのよくわからないタレコミが多かったことを。それでも真偽を確認しないとならないから、仕事が増えるとため息をついていたこと。

 でも、時々本当のことも混ざっており、それが永住不許可に繋がったこともある。


「ふうん、とにかくこの街にいる間、アイツの調査は続けよう。早速だけど、滞在している宿の主人から聴取してくる」


「行ってらっしゃい、って言いたいけど、本人と鉢合わせしたらどうすんの? 周辺調査は悟られないようにが原則よ。もし、彼がクロで調査しているのがバレたら隠蔽工作、最悪逃亡されるわ」


 チヒロが書類を見て、羊皮紙に何かを書きながら冷ややかに言う。


「マコトはさっき面談したから、顔は割れてるわよ。真っ直ぐ帰っていたらまずいわね」


「じゃ、どうしろと?」


「うーん、まずは書類で見えるところから洗い出します。エマさん、ナカヤマさんを召喚したジェレノーさんに追加の聴取と、こちらの方に協力依頼の伝書鳩をお願いします。決裁は要急で。日暮れ前に鳩を飛ばせるようにしてください。鳥は夜目ですから」


 そういうと、チヒロは書き上げた書類をエマに渡した。


「え、あ、はい。この文書を送るのですか」


「ええ、彼の申請書通りならば、そこにいるはずです。さて、マコト」


 チヒロは向き直って告げた。


「面が割れている以上は、私が調査に同行するわ」


 また、一緒に仕事なのか。少しはエマと話をしたり仕事をしたいなと思いつつ、疑問を挟む。


「エマさんやユーリさんと一緒ではダメなのか?」


「さっき新しい魔法を習ったのよ。姿を変える変身魔法。ただし、まだ覚えたてで拙いから、術者から離れるとすぐに解けるのよ。だから、そばにいないとならないの」


「変身?」


「そ! さっきもちょっと試したらうまくかかったわ。だから、実習も兼ねてマコトにかければナカヤマさんの目は欺けるわ。まあ、この世界には鏡はあまりないから自分ではわからないだろうけどね。ププッ」


 ……気のせいか、最後は笑っていた気がする。


「ああ、チヒロさんがかけた魔法なら確かに元の人とはバレませんね」


 エマがクスッと笑う。なんだろう、この笑いは。


「あれなら大丈夫だろう」


「絶対にバレないぜ」


「自分もビックリしましたよ。元の顔と似ても似つかないし」


 気のせいか、シャンソニア支部の職員達も笑っている。嫌な予感がするが、調査できる時間は限られているからには、チヒロの案に乗っかるしかない。しかし、まだエマと二人で仕事という望みも絶ちがたい。そっと尋ねてみた。


「エマさんの変身魔法ではダメなのか?」


「申し訳ありません、私の変身魔法はエルフにかけるには問題無いのですが、人間にかけると何故かトロールになるのです。知的に聞き込みするトロールはさすがに不自然ですわ。その点、チヒロさんは人間に変身させていましたから、彼女にかけてもらった方がいいと思います」


 結局、腐れ縁のようにチヒロと組むことになりそうだ。


「よし! 腹をくくってその変身術を受けよう!」


「そう来なくっちゃ! じゃ、行くわよ。変化の神、この杖の先の者を変化させたまえ!

 トランスフィグラーテオ!」


 杖から何かエネルギーが来たのがわかる。そして、いろいろ変わっていくのがわかる。視界が低くなっていくのは、背が縮んだためだろう。短い髪が重たくなっていくのは髪型が変わったからか。


「さ、完了。あら、鏡ありましたか、エマさんありがとうございます。ほら、こんな感じになりましたー!」


 エマから鏡を渡されて顔を覗いてみる。ガラスは高級品だから、金属を磨いたものだからぼんやりしている。しかし、それでもどんな風に変身したのかはっきりとわかった。


「なんじゃこりゃーーー!!!」


 その叫び声もマコトの声ではなくなっていた。

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