第12話 エルフはやはり貧乳であった……って仕事で来てんだろ!
「うう、腰が痛くなってきた」
翌日、マコトとチヒロはシャンソニアに向かってロバに乗って移動していた。徒歩だと三時間はかかるが、長距離を歩き慣れてないマコトに配慮して、ブルーノが多少時間がかかって良いからロバに乗れと言って用意してもらえたからであった。
とはいえ、乗りなれないものに揺られているのは疲れてくる。ついでだからと書類や差し入れの品物も沢山持たされたから、そのスピードは緩やかなものであった。
「ほらほら、文句言わない。同じ時間を歩くよりは楽でしょ」
チヒロは乗り慣れているらしく、ロバのスピードでは物足りないようだ。
「無茶言うなよ。俺はこないだまで文明の利器にどっぷり浸かっていたんだぜ。馬なんてブルジョアの乗り物だ」
「馬じゃなく、ロバですぅ。これだから文明人は」
「お、お前だって俺と同じ世界から来ただろう。なんだ、ドイツじゃ馬は一般的なのか」
「んな訳ないわよ。慣れというものよ。ほら、もう少しでシャンソニアだから。エマさん達一同が迎えに来てくれるって」
「う、ならばもう少し頑張るか」
「……本当に現金な奴ね」
そんなやり取りをしているうちに街道沿いの建物が増えていき、関所っぽい建物の入り口にエルフの女性達が手を振って立っていた。あれがエマに違いない。
「初めまして。本部の職員のチヒロさんにマコトさんですね。お疲れ様です。私がシャンソニア支部のエマと申します。ここからは歩いてすぐですので、他の職員にロバをひかせます。ユーリ、エルヴィ、こちらのロバを休憩所までお願い。ジョゼは荷物を持って」
「あ、ありがとうございます」
ロバからぎこちなく着地して、手綱をユーリという職員に託す。ちょっとカッコ悪いところを見せてしまっただろうかと彼女を見ると、やはり美人だ。そして、さりげなく胸を見るとやはり貧乳だ。
マコトはちょっとどぎまぎしながら挨拶をする。
「は、はじめま……」
「初めまして。本部の職員のチヒロ・カウフマンです。こちらは新米のマコト・オダです」
マコトが挨拶するより早くチヒロが挨拶をする。まるでマコトに話をさせないようにしているかのようだ。
(あいつ、ばあちゃんの言いつけを守って、俺がエマさんに何かしないようにと警戒しているのか?)
「ああ、あのタマキ殿のお孫さんですね。噂は
ここでも祖母の七光り。しかし、なんであれ、美人とお話しできるとっかかりはできた。ばあちゃん、ありがとう。しかし、下心はむき出しにしてはならぬ。ここはクールに仕事の話をしようとマコトは構えた。
「え、と。勇者の事情聴取と調査と聞いていたのだけど、勇者ナカヤマとの面談はいつでしょうか?」
「はい、既に支部で待機しています。もう少し後の時間の予定でしたが、早く面談したいとのことです」
「え? もう来ているの? 魔王討伐のために旅をしているのではないの?」
「いえ、在留更新中は許可が降りるまでは申請した居所に留まるか、居場所を伝書鳩で知らせるように決まっています。破ったら即強制送還ですから皆さん従いますよ」
「はあ……」
「もちろん、面談が長引いて魔族に逃げられてしまっては元も子もないから、そうないように、こちらも迅速な調査が求められているの。さっさと行きましょう」
そういうとチヒロはマコトの服を引っ張り、スタスタと歩き始めた。
「あ、おい、チヒロ!」
「こちらも遊びじゃないですよ。私もエマさんから魔法の講習を受けないといけないですし、勇者だって早く討伐へ行きたいでしょうからね」
「えー、お名前と年齢、職業をお願いできますか」
「はい、バラキ・ナカヤマ、二十一歳、勇者をしています。剣がメインですが、火属性なので炎系の術も使い、炎の剣も扱います」
ここは召喚管理局シャンソニア支部の一室。マコトは勇者ナカヤマと面談をしていた。書類の似顔絵の通り、二十一歳にしては精悍な顔つきに日に焼けた顔、スポーティーに短く切った髪、数々の戦いを経た男の顔をしている。
(はあ、せっかくエルフに会えたのに、こんなむさい男と二人っきりなんて、なんて罰ゲームだ)
がっかりした感情を悟られないように、事務的に面談を続ける。
「なんだか、お名前が駅名みたいですね」
「……言わないでください。子供の頃はその路線沿いに住んでいたから、黒歴史なんです。だから、仲間には名前ではなく名字で呼ばせています」
「はあ、そうですか」
異世界に来たのなら、好きな名前を名乗ればいいのにと思いつつも質問を重ねる。
「この提出された履歴書通り、一年前に魔王を討伐するために、魔導士ジェレノーに呼ばれたということで合っていますか?」
「はい、その魔王は数々の人間を惑わし、混乱に陥れたということで俺……私が呼ばれました。なんでも、過去の勇者も戦いに挑みましたが、惑わされてなかなか討伐できなかったそうです。こちらも追ってはいるのですが、逃げられてばかりで、ようやくここに潜伏しているらしいと聞きました」
「一緒に旅をしているパーティーのメンバーを教えてください」
「剣士のケヴィン、黒魔導師のエリック、弓使い兼白魔導師のガストールの三人ですが、私だけ先にこのシャンソニアへ魔王を追って来ています」
「あれ? 一緒に行動はしないのですか? 勇者とはいえ単独行動はきついでしょう」
「え、ええ、私の足が速いのと、エリックの魔法に必要なアイテムがパッシオンの街にあるということで、別行動になっています。間もなく合流して在留更新許可が出たら出発予定です」
しかし、ナカヤマの目が一瞬泳いだのをマコトは見逃さなかった。
「ふむ、他のメンバーとは別行動で後に合流と。ところで、書類と供述に嘘はありませんね。嘘と判明すると審査に悪影響を及ぼしますが、間違いありませんね」
「はい、間違いありません」
「じゃ、お疲れ様でした。今日の面談は終わりですが、認可が降りるのに少々時間がかかります。それまでにまたお呼び出しするかもしれません。その時は、速やかに出頭願います」
(あいつ、何か隠しているな)
入管職員としての勘が働いたマコトは、お辞儀してドアを閉めるナカヤマを見送りながら、調査が長引くかもしれないと考えるのであった。
(あ、でも、そうするとエマさんと長くいられるな)
……下心も働いたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます