第3話

 言われるがまま、私はその水をなめてみた。しょっぱい……! 塩辛さが口の中に広がって、思わず私は吐き出していた。

 

「えへへ。うみはね、しょっぱいの! みずうみはしょっぱくないけどね」

 

 いたずらを仕掛けたような笑顔にちょっと苛立ってしまう。背を向けて帰ろうとした私のその背にルゥは抱き付く。

 

「まって、まっておねえさん。ごめんってば。かえらないで」

 

 暑いって言ってるのにこの子はまったく……と愚痴をこぼしたくもなるけれど、無邪気を装った笑顔に負けてしまう。装っているのだ。ルゥは決して天真爛漫で無邪気なオトコノコなんかじゃない。その笑顔の裏にはきっと私の知らない何かがたくさん秘められているのだと本能的に感じる。けれど、ルゥの笑顔はどう見ても無邪気に見える。装うのが上手いのだ。

 

「帰らない……けど、ここで何するっていうの? ここ、うちの近くよりも陽射しが強くて余計に暑いんだけど……」

 

 服の首元をつまんでパタパタ仰ぐようにして風を入れる素振りを見せると、ルゥはにっこり笑ってパチンと指を鳴らした。

 

 その一瞬で風が身体中を駆け巡るのを感じた。気が付くと、私の着ていたはずの服は消え、代わりに面積の小さすぎる布だけが私の身体に張り付いていた。

 

「な、何これ……!? 服は!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る