帝国無双
暗黒星雲
帝国無双
女神様を救え
第1話 夢の中の女鹿
ララ……ララさん
誰かが私を呼んでいる。
まどろみの中覚醒した。こんな真夜中に私を起こすのは何者だ。この不届き千万な奴は誰だ。後でたっぷりとお仕置きをしてやらねばならない。その為にはそいつが誰か確認せねばならない。
私は目を開いた。
私の目の前には何と、黄金の毛色をした女鹿がいるではないか。
ベッドで寝ている私の胸の上に立ち、私を見下ろしている。
これは驚いた。
ここは帝国の中心帝都リゲルの更に中心、カメリア宮殿にある寝室だ。こんな場所に鹿が入り込んでいるなどあり得ない。しかも、この鹿の毛色も、長い毛足も見たことが無い。
もふもふマニアでもある私の知らない鹿がいるというのか。
私はその鹿の美しい毛並みに触ろうと手を伸ばした。しかし、私の手はその鹿に触れる事は無く、虚しく空を彷徨う。
「ララ様。お休みの所申し訳ありません。残念ですが今の私は単なる映像なのです。触ることはできません」
鹿がしゃべった。
これにも驚いた。帝国では二足歩行する獣人はたくさんいるし、彼らは不都合なく人語を喋る。しかし、四つ足で歩く動物が言葉を喋るとは聞いたことが無い。
私はきっと呆けた顔をしていたのだろう。その女鹿は私の顔に頬ずりをしてくれた。何故かそのふわふわの感触が頬に残る。
「私の名はクレドです。ララ様には初めてお目にかかります」
「はじめまして、ララです」
鹿にのしかかられた格好で挨拶をするなど滑稽なものだ。そして、その鹿はクレドと名乗った。クレドとは、このアルマ全土で救世の女神として信仰を集めている存在。帝都リゲルにもクレドを奉じている神殿があるのだが、その女神様が自分の胸の上に陣取っているのは何とも不可思議であった。
「あの、クレド様。私に何か御用でしょうか」
「はい。あら、ララ様の上に乗ったままでしたね。失礼しました」
そう言って自分の上から床へと降りたクレド様だった。その際、蹄が床を叩く音がした。先程は触れなかったのに何故音がするのか理解はできない。悩んでも仕方がないと思い、上半身を起こしてクレド様の方を向く。
「今夜はララ様にお願いがあって参りました」
「はい」
「私の心を救って頂きたいのです」
「心をですか?」
「はい。私の心です」
さらに不可解だった。
自分が得意なのは殴り合いだ。
それなのに心を救えという。
癒し系の技は全く身に着けていないのにその願いは無理があると感じた。その時私は怪訝な顔をして首をかしげていたに違いない。
「私はこれ以上此処に留まることができません。詳しい事情は私の使いに聞いてください。銀狐のフェイスです。よろしくお願いします。ララ様」
そう言い残してクレド様は消えてしまった。
そこには何とも芳しい、ラベンダーの様な香りが漂っていた。
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