若者の異世界ばなれが深刻化・・・!

ちびまるフォイ

そして誰もいなくなった

異世界の長老たちは頭をかかえていた。


「最近、なんだか異世界に活気がないのぅ」


「長老ニュース見てないんですか?」

「にゅーす?」


テレビを付けるとアナウンサーが真面目な顔で伝えていた。


『昨今、若者の異世界離れが大きくなっており

 専門家は"なんでもかんでも異世界しすぎた"との見解を示しています』


「なんじゃこれは?」


「長老、若い人はもう異世界に昔のような冒険心を求めて

 ありきたりな事故死で転生してきたりしないんですよ」


「若い人は持て余した承認欲求を、

 この異世界で褒めちぎられて満たすものじゃないのか?」


「その考えはもう古いんですよ、長老。

 いまや若者はすっかり異世界に飽きてしまったんです」


「なんじゃと……」


長老は体を支えていたニワトコの杖をぼとりと落とした。


「若者の異世界離れかなんか知らないが、

 以前、この世界はモンスターがうようよいて困ってるんじゃぞ!?」


「チート転生者が来ないことには、一向に平和になりませんからねぇ」


「こうしちゃおれん! ここはわしが人肌脱ぐぞぃ!」


長老は文字通りのことを実践して、しばらく逮捕されてから、アイデアを実行した。

しばらくして村人Aが転生予定地の様子を見に行った。


「長老、その後どうですか? 転生者は来ましたか? あれ? 長老?」


「ここじゃここじゃ」


「長老。年甲斐もなくそんな大きな着ぐるみを着てどうしたんですか」


「ゆるキャラじゃよ。異世界離れした若者を呼び寄せるには

 ゆるキャラといんすたばえがいいそうじゃからな」


「確かにカラフルですけど……」


長老のデザインしたゆるキャラは丸っこくてカラフルで、

一緒に記念撮影したくなるような出来栄えだった。だが……。


「……誰も来てませんね」

「言うな。わしが一番わかっとる」


長老は悔しさのあまり地面を拳で何度も打ち付けた。


「なんでじゃあ~~!! これで道の駅は活性化できるのに、

 どうして異世界にはひとっこひとり来ないんじゃ~~!!」


「いやそもそも異世界転生してくるような人間は

 ゆるキャラ好きなタイプじゃないでしょ!?」


「そうなん?」

「イメージ的に主婦とか女性とかじゃないですか?」

「言われてみれば……」


ゆるキャラを追いかける男子のイメージが思いつかなかった。


「そうじゃ……たいてい冒険者は鼻の下を伸ばして転生してくる……。

 そんなスケベ男爵どもにゆるキャラなんて、

 なんの効果もないことは婆さんの顔を見るより明らかじゃないか……」


「長老、それですよ!」

「婆さんをゆるキャラに?」


「じゃなくて、スケベ男爵ってところです!」


村人は熱を上げて語りだす。


「異世界転生してくる冒険者の大多数が草食系を装ったムッツリ野郎ってことは

 美人を揃えておけば、それ目当てでやってくるに決まってますよ!」


「それじゃ! すぐに村のぴちぴちぎゃるを集めるんじゃ!」


そうして招集された「ISK48」は異世界内外に広く宣伝された。

顔面偏差値も極めて高く、さらには作者を洗脳して書かせた完璧なプロポーションで描写されている。


「むふふ。この歳のわしでも思わず飛びつきたくなるようなラインナップじゃ」


「長老、これならいけますよ!」


その後、しばらく待っては見たものの、転生者が来ることはなかった。

これには長老もすっかりまいってしまっていた。


「なぜじゃ……ハーレムは男子共通の夢じゃなかったのか……」

「長老……」


「お困りのようだね」


「お、お前は!?」


「私の名前はハイパーイセカイクリエイター。

 どうして転生者が来ないかって悩んでいるみたいだね」


「そ、そうなんじゃ! あんたには理由がわかるのか!?」


「当然さ。僕はこの世界も異世界も見ているからね。

 理由はひとつ"飽きた"のさ」


「なんじゃと?」


「どんなに好きな食事でも毎日食べれば飽きるだろう?

 それと同じでいくらハーレムを用意したところで

 すでに飽きている転生者には響かないってわけさ。ユーライト?」


「なるほど……」


そもそも異世界離れしている若者に向けて、

これまでと同じアプローチをしても響かないのはいわば当然であった。


「頼む、ハイターさんよ! わしらに力を貸してくれ!」


「オーケー、もちろんだよ。そのためにぼくはここに来たんだ」


「なにか手はあるのか?」


「オフコース、当然さ。ようは今の若者が好きなことを持ち込めばいい。

 現実世界で今流行していることを異世界でも取り入れればどうなるか。

 長老にはもう分かるんじゃない?」


「それはきっと新しい体験になるぞぃ!」

「ビンゴ! そのとおりさ!」


今の若者が好きなことを取り入れれば、来てくれるはず。

それも異世界ならなおさら真新しくて人は集まるだろう。


長老はハイターにすべてを一任することにした。


 ・

 ・

 ・


数日後、長老が様子を見に行くと、おびただしい数の転生者が集まっていた。


「こ、これはすごい!! 効果てきめんじゃあ!」


「ハイ、長老。ぼくに任せて良かっただろう?」


「ああ、そうじゃな。若い人の流行は若い人に聞くのが一番じゃ。

 こんなに集まってくれれば、モンスターに怯えなくてすむぞぃ」


喜ぶ長老は転生者が並ぶ行列がふと気になった。


「しかし、すごい人気じゃのう。

 どうやって、今のなうい若者たちの興味を引いたんじゃ?」


「今流行のやつですよ」


ハイターは行列の先にある看板を指差した。




「リアル脱出ゲーム『異世界からの脱出 -現実への帰還- 』です!!」

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