055:引っ越し準備と初の魔法
「まぁ、詳しい内容はともかくとして……しばらくの間は女として過ごす事になったと。そういうことか、トール」
「…………うん」
今日は小魚以外に収穫らしい収穫が無かったので、晩飯は泥抜きが終わったタニシモドキと干し魚のスープだ。
物足りない人は鹿肉の薄味ジャーキーで腹を満たしてくれ。
「…………」
「…………」
「その……なんだ。……可愛らしくていいと思うぞ? 俺から見ても美少じょ――」
「殺せぇぇぇぇぇぇッ! 殺せよぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉっ!!」
てっめゲイリー! お前想像できるのかこの恐怖! 多少改造されても別にあれだったけど、完全に姿形が変わるのって意外と怖ぇーんだぞコルァ!
「まぁいいじゃない。アタシの目から見ても、身体に深刻なダメージは見受けられないわ。アオイちゃんとテッサも調べたんでしょう?」
それに関しては本当に感謝します。
しますが……アシュリーちょっと近くない? なんで俺の太ももに手を乗せてんの?
「それで? なんで女の子になる必要があったんスか?」
「それには関しては、もうしばらく待ってほしいが……そうだな。私の体の治療のために必要だったとだけ」
「治療に女体化必須って意味がわからんッスよ!?」
テッサもういい。もういいからその話題に触るのを止めてくれ。
どうせしばらくこの姿だし、クラウとクロウの報告次第ではもう何度か繰り返さなきゃいけないから……。
「ま、それに関してはしばらく待ってくれ。ある程度先が見えたらちゃんと報告するから」
「……トール君も、声がなんだか幼くなってて違和感酷いッスね」
すまぬ、本当にすまぬ。
いや本当に、すぐ元に戻れると思ってたんだ。
「とにかく、それぞれの進行状況を確認しよう。アシュリー、先行の準備は?」
「えぇ、今日の小魚を今捌いて燻しているから、それといくつかの干し肉をお弁当にして早朝に出発。ある程度罠を仕掛けて……えぇ、明後日の夕方にまでは帰ってくるわ」
「それに薪や素焼き壺みたいな大きい物を運ぶためのバックパックも追加で作りましたし、運搬に関しては大丈夫ですぅ♪」
うし、とりあえず準備の方はできたか。
「ゲイリー、テッサ組はどう? 上流の拠点は……」
「あぁ、生け簀型の罠は撤去。離れた所から獣罠は順次解体して、部品として使っていた紐等は回収してきた」
「一応、悪あがきみたいなもんッスけど、一番近い所の罠は二,三残してあるッス」
ゲイリーとテッサは、上流拠点の撤去作業に従事していた。
あそこら辺は今現在獣も多いし、猟場としては少々惜しいが仕方ない。
もし機会があれば、またその近くに探索拠点を作る事もあるだろう。
で、ヴィレッタさんは――
「こちらも同じくだ。湖に仕掛けていた魚籠は回収。一応釣り針罠を五ケ所ほど残しているが、その他の物も回収して今乾かしている」
「壊れた針とかはあった?」
「我々の釣り針なら大丈夫だ。……骨の釣り針はいくつか砕けていたが、まぁ仕方あるまい」
「だろうなぁ」
ヴィレッタさんは湖の罠の回収を任せていた。。
骨の釣り針は正直消耗品だったし、そこらの道具に関してはまた新しく作り直すしかあるまい。
魚籠もいくつかはツタが切れたりして駄目になってるし。
金属の鉱石などがあればクラウがもっと丈夫な物を作れるんだろうが……。
(今の時点で理想はあれだ。竹。竹どっかに生えてないかなぁ)
先日回収した竹のザルを思い出して、その丈夫さから改めて身近だった植物がいかに便利な物だったか思いしる。
種類によっては他の木々を追いやる勢いで生えてくると聞いているが……この世界なら案外どうにかなるのではないか。
生えていれば、建材から道具の作製、しなりを利用したトラップなど様々な方面で役に立つだろう。
……あと、タケノコ食べたい。あのコリコリ感大好きだったんだ。
食べたいって言うとオカン嫌な顔してたけど……。
クラウなら美味く調理してくれるだろう。
「ここに帰りつくまでに分かった事なんだけど……女になってから微妙に体力が落ちている。そもそも背丈っていうか足も少し縮んでいるから、歩幅も小さくなってる。先の話だけど足引っ張ったらスマン」
先延ばしにしてもいいけど、既に罠の解体とかやっちゃったしなぁ。
「アタシが抱きかかえて移動するのはどうかしら?」
アシュリー、シャタップ。
ほら横を見ろ横を。部下のテッサが隊長のお前さんの事、排水周りのぬめりを見るような目で見てるぞ。
「で、どうする? アタシは正直、君達が到着するまで先に海の周りで待機しててもいいんだけど?」
「さすがに一人で放っておくわけにはいかないだろう。ただでさえ、他にスキル持ちがいる可能性があるんだし」
一人で向こう側に待機させていて、いざ向こう側について姿が消えてたら心臓に悪いだろうが。
最悪――最悪死体になって発見なんて事になったら、ガチ泣きする自信があるぞコルァ。
「心配性ねぇ。その時の訓練も受けてるし、テッサやヴィレッタにも通信できるのに」
「あぁ、そういえば……」
自分ももうちょいで出来るようになるんだっけか。
たまにテッサが遠距離からこっそり侵入しようとするから、それを教えられた技術を使って妨害するって訓練もいい成績出してるし。
一応その訓練の過程でテッサとだけは通信できるようになっている。
今日も喰われている間にブロック出来たし、防衛技術の腕は上がってるとテッサから太鼓判も押されてるし、向こうに着くくらいの時には他の二人とも交信可能にしておいた方がいいか。
「まぁ、それでもだ。とりあえずは帰ってきてくれ。戻ってきて一旦休息を取ったら、海に向けて出発しよう」
「フフ。えぇ、トールちゃんがそう言うなら分かったわ」
……ねぇアシュリーさんやい。
なんでずっと俺の足を撫でてんの? なんでいつもより距離近いの?
…………。
『テッサさんテッサさん』
唯一回線開いてるテッサに、頭の中で話しかける。
『なんスか、トール君』
『……こう、今の身体のサイズに合う服ってあったっけ?』
一応元々の服を、余った所を折り込んだりベルトを強く締めたりして、なんとか着込んでいるが……。
こう、なんというか無防備だ、これ。
『身の危険を感じたッスか?』
『……うん』
『サイズに合うのはないッスけど、縫い針と縫い糸はボク持ってるッスから、適当な服を仕立て直しておくッスよ。出来に期待はしないでほしいッスけど』
天使がここにおる!
「あ、それでトールさん」
「ん? どったのアオイ?」
「魔法の方はどうですかぁ?」
「……実はさっぱり」
今日はそれどころじゃなかったって言うのもあったけど、ヒントすら分からない。
スマホ弄っても、魔法の使用が可能になりましたって事以外さっぱり分からないし。
「地面を触ってもだめだったんですかぁ?」
「あぁ、それは試した」
土魔法だっていうから地面に何かあるのではと思ったんだけど駄目だった。
とりあえず石とか岩に触って色々イメージしたりしてみたけど、全然駄目だった。
「ゲイリー、マジでなんかアドバイスない?」
「む……そう言われてもな」
実際に俺がイメージする土魔法を使うゲイリーに聞いてみれば何か分かるかも。
うん、困った顔するのは分かってたけど頼むよ。なにかヒントが欲しい。
「そうだな……イメージが不足しているか、あるいはなにか材料が必要なんじゃないか?」
「材料?」
「あぁ。例えば俺の魔法で土を肥料化するには、落ち葉や木の枝などが必要になる。壁作りなどはその場でも出来るんだが……変化を起こす魔法には大体材料というか……触媒がいる」
「触媒っつってもなぁ……」
地面に何か変化を起こす材料。
とりあえず、放り込むまえだった薪を一本もって肥料になる様に祈ってみるが……さっぱりだ。
(もっとこう、ハッキリと地面に変化を起こせる物……)
真っ先に思いついたのは泥とかぬかるみだが、これではただ水をぶちまけるだけと変わらない。
……いや、レベル1みたいなもんだとその程度か?
(落ち葉、枝、砂……あとは……石?)
ふと、煮沸用に用意している適度な大きさの石を掴んでみる。
とりあえず砂っぽくなる様に念じてみる。
すると――手の中から石の感覚が消えた。
「……あれ?」
成功した!?
……いや、でも完全に手の中から反応が消えている。
え、消しただけ!?
「トールさん、足元。足元見てくださいよぉ」
足元?
目の前にあるは足湯として削った流木。
そこから視界を少し下げる。
―― 地面に、今握っていた石と同じ色の平べったい石が落ちていた。
―― 正確には、張り付いていた。
「なんじゃこれ?」
爪で引っぺがそうとすると、どう見ても軽い石なのになかなか剥がれず、両手を使う羽目になった。
ふんごごご! と頑張って引っぺがすと、どうやら地面にへばりついていたらしい。
やはり軽いのだが、かなりしっかりと張り付いていた。ちょっとやそっとのことじゃあ外れるどころかズレる事もないだろう。
「これ、えらく平らになってるわね。大量に同じ事が出来るのなら、綺麗な道が出来るんじゃないかしら?」
……道?
「ですねぇ。白い石でやってくれたら、多少暗くても目に付く道になります! やりましたねトールさん!」
何を?
え、ちょっと待って。
恐る恐るとはいえ、やっぱり期待するものがあって取った魔法だけど。え?
その結果が俺、整地要員?
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