052:update
「ほう、これがスキルというものか。えらく……その、素晴らしいものだね?」
やめてクラウさん、そんな真っ直ぐな目でこっち見るのやめて! 今回のはどう考えてもおかしいって!
「なるほど。こういう形になるのか……興味深い」
ヴィレッタさんは何を言っているんですかね!?
「うるぁ! 貴様らとりあえず飯にするぞ! 今日のメインディッシュはとれたての鹿肉だこの野郎!!」
「トール君、ボクらレディッス」
シャタップ!
あの後、それぞれの食糧調達作業が完了し、戻って遅めの昼食を取って……うん、そのまま話せばよかったのだがワンクッション欲しかった自分は、ついついまたいつもの悪い癖で先延ばしにしてしまい……晩飯の時間に至る訳だ。
今日は獲物は苔ウサギと鹿だ。
ちょうどいいので鹿の胃と膀胱を取り出して洗って来た。
これでやっと水筒が作れる。
「で……私やゲイリー君もまだ詳細は見せてもらっていないわけだが……実際どういう物だったんだ。そのスキルは」
「あぁ、ちょっと待って。今全部表示されるようになった」
ササ~っと表示して……これだ。
『・身体部品生成/身体機能を補う、あるいは増設することが可能です』
『・全身骨格の強化/全身の骨格を特殊合金でコーティングし、身体の頑強さを高めます』
『・暗殺/暗殺に関する行動に補正が入り、知識をインストールします』
『・機械知識/機械に関する知識をインストールします』
『・食人耐性/食人によって起こる身体への異常を防ぎます』
『・性転換/自分の性別を自在に変えられるようになります』
……うん、よし。
「今回新しく入ったのは全部スルーしていいんじゃないかな」
暗殺とかまず論外。誰をぶっ殺す気なんだよ本当に。
機械知識……まず機械がない上に作製する設備も備品もないので却下。
身体部品作製、骨格強化。すいませんよくわかりません。
食人体制。おぉいなんでこんなスキルが生えてきた!? あれか!? 唇のささくれとかを歯で取った時についつい食べちゃうのが引っかかったか!?
そして――
「トールさんトールさん」
おう。
「私、スキルっていうのは本人の願望や経験の影響を受けて現れると思ってますぅ」
おう。
「トールさん、ひょっとして前は女の子だったいたたたたたたた!! 髪を! 髪を離してくださぁぁい!」
ならば貴様は目を輝かせてアホ毛をピョコピョコさせるのをやめんか。
「トール君トール君」
おう。
「まぁ、どうしていくつか意味不明なスキルが生えたって事は置いといてッスね」
おう。
「トール君! 戻れるっていうんなら一回女の子にいひゃいいひゃいいひゃい! ほっへ! ほっへからてをはなひてくだひゃいッス~~!」
何言ってるかワカリマセーン。
「それにしてもこれはいったいどう言う事かしら? いえ、アタシ達の目線だとあんまりおかしいのはないけど……」
「ないのかよ!?」
「骨格強化や身体部品の代用品作ったり、あるいは増設したりするのは軍なら珍しくないわ」
マジでか。
「なに、足が四本あったり腕が六本ある兵士とかいたの?」
「いたわ」
「いるぞ」
「いるッス」
マジでか。
「まぁ、足四本はさすがに無かったけど、腕か、腕を模したギミックパーツを増設する兵士は多かったわ。生身の部分と合わせて四本から六本持っているのが一番多かったかしら」
「……アシュリー」
「なに?」
「ごめん、正直に言わせてもらうけど……お前らの所の技術気持ち悪いな」
「その国の出身者として否定したいところだけど……ちょっと難しいわね」
やっぱり、彼女の美意識からしても気になってはいたようだ。
そうだよね。それが本当に普通だって言うんならこの三人も出会った時に腕生やしてるはずだもん。
「うぅぅ~~~、ほっぺが痛いッス」
一方、俺の手の内からスルリと抜けだしたテッサが、頬を抑えながら唸っている。
「それにしても……うーん?」
テッサは相変わらず胸を押し上げるように腕を組んで、首をかしげてクラウを見ている。
クラウに対しての敵意はちょっと減ったからいいけどさ。
ねぇ、その腕の組み方はわざとなん? 見せつけてんの?
男の目にはそれ毒なんよ?
「いやまぁ、少しずつ分かってきた事はあるッスけど……この性転換って奴だけはホントに意味不明ッスね。トール君、どうッスか?」
「次はアイアンクローを所望と申すか子娘」
親指と人差し指で口元を吊り上げるいつもの仕草をするテッサは、それでもなお首をかしげている。
「ん~~、本気でトール君にも心当たりはないみたいッスね。まぁ、今回はトール君の好きにするべきかと」
寄生虫対策とやらで、一度切り取った大きな肉を、食べる分だけ細かくサイコロ状に切った物を串代わりの枝に刺して焼いて行く。いつも通りのバーベキューだ。
……今思えば、コップ一杯でも海水持って帰れば良かったな。
「まぁな、この間の一件で予備分のスキル習得は使ってしまってたし……とはいえ、今後の事を考えるとやっぱり有用なスキルは増やしておきたい」
つまり、まだ残っている候補だ。
というか――
「? どうかしましたかぁ?」
アオイとの約束があるしなぁ。
うん、よし。
「皆。今回のスキルなんだけど……俺は魔法を取ろうと思う」
アオイ、座ってろ。
……いや、そんな目を輝かせてこっち見んでも。
「ついに、か。魔法側の人間としては嬉しいのか、あるいは怖いのか」
俺は怖いよ。マジ。
やっぱり、意識的には科学寄りなんだろうな、自分は。
頭の中に機械が埋め込まれても、時間が立てば『うっわぁ……』程度で済んでしまうのに対して、魔法という不思議ワードには未だに少々恐れを感じる。
「いやぁ、多分大丈夫ッスよ。むしろ早いうちにとっておいた方が、色々と分かる事が増えてなにかあった時の対策とかが取りやすくなるんじゃないッスかね?」
むぅ、やっぱそうか。
引っ越しに備えて『健脚』とか取っておこうかなと思ったけど……。
ま、約束は約束だしやっぱしょうがないか。
「OK、魔法でいこう。で、問題は――」
もう一度スマホを操作し、問題の場所を開く。
「どの魔法を覚えるかって話なんだけど……」
魔法を捕る一番怖い所は、説明文が一切ない事だ。
地水火風と分かりやすい四つに、光と闇という想像しやすいんだかしにくいんだか微妙な感じの二つの系六種類。
「これ、どれがどういう風になるか想像付く人いる?」
例えばゲイリー。
例えばアシュリー達。
「どういう風になるかと言ってもな……多種多様としかいいようがない」
「そうね。アタシも色々見て来たけど、てんでバラバラだし……そもそもそんなにしっかり分けられる物でもないわ」
むぅ……。
「少しいいかい?」
その時、挙手した人間がいた。
クラウだ。
途端にテッサ……はともかく、アオイ以外の人間の気配がちょっと変わる。
この森に来たばかりに俺だったら分からなかっただろうけど……あれ? 皆大なり小なり警戒している?
「リーダー君。思うにそれは、私の世界の魔法か、それに近しい物ではないかと思う」
「クラウの世界の?」
「あぁ。極端な話、私の使う錬金術も魔法の一部だ」
そういうとクラウは、作りの荒い石斧を手にして刃の部分にそっと触れ、今度はそれを俺に差し出す。
受け取り、彼女が触れた刃の部分を触ると――
「温かい?」
まぁ、温かいというかちょっと温いくらいだけど、いつもなら冷たい石斧に少し熱が入っている。
ふと思いついて、熱していない冷水をかけてから水気を切ってみる。
すぐに乾く訳ではないが、触ってみると熱が残っている。
「まぁ、キチンとした設備や鉱石、素材があれば高温から低温までキチンと調整できるのだが……道具が実質『手』しかない今はこれが限界だが……君があげた内の四属性は錬金術と繋がりが深い」
「じゃあ、これが火か。それじゃあ風とかは?」
「専門外だが詳しくないが……確か、常に風を送るように付加を付ける物があった。もっと本格的な魔法は知らないが、錬金術師の分野ならば……そうだな、溶けない氷と組み合わせて、温度の高い所でも快適に動き回れる鎧や兜。樹内世界の換気装置などに利用されていた」
……文字通り風を扱うけど、それ以外は不明と。
「土には関しては……腐敗と浄化の力だ。物を腐らせ、分解し、そして始まりのゼロへと戻す。我々錬金術師にとって最も重要な力と言っていい」
「んん?? 使わない生ものとかの肥料化とか?」
「使わなくなった物は大体全て分解できる。その上で、リーダー君が言うように肥料やその他の物へと活用するのが普通だな」
なるほど。火と水もまぁなんとなく分かる。――で、だ。
「光と闇ってのは? どう考えてもやばいんだけど」
「知らないね」
「おい」
たった五文字で即答しやがったぞこやつ!
お前の所の魔法に近いんじゃないかい!!
「いや、そういう魔法を使う対魔物戦の要と言われている魔法使いがいるのは知っているんだが、具体的にどういう物かというのは分からないんだ」
「……攻撃とかそういう類の物?」
「ではないかと思う。専門外な上に、そういう物騒な部署とは縁がなくてね」
なるほど。はい却下。
結果として武器にも使える物は取る事もあるだろうけど、一々武器を増やす必要はない。
狩猟道具というならありだが、オーバーキルになりかねない代用品なんざ持った所で碌な事にならねぇ。
「一応聞いとくが、火とか水もやっぱり攻撃?」
「なくはない。一応どの魔法も攻撃用の物があるが……基礎は熱を加えるか、熱を奪うかだ」
「……う~~~~ん」
迷う。凄く迷う。
火と水は魅力的だが、浄化の力があるという土もいい。風……少々出来る事が不明だけど、上手く他のと合わさればかなり便利になりそうだ。
まぁ、魔法は少なくとも今の所は、一つしか取れないという話だが……。
「ここはトールさんが好きに選んでいいんじゃないですかぁ?」
「アタシもそれに一票。君のこういう時の判断は信頼できるわ」
「同じくだ。トール、君の判断に任せる」
と、言われてもなぁ。
言葉を発した三人に加えて、残る三人も特に異論は内容だし……。
ぬ~~~~~、よし。決めた。
「ほいじゃ、パパッと……うっし」
――魔法(土)を習得します。よろしいですか? Y/N
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「で、リーダー君。なにか変化はあったのかね?」
「ま~~~~~~~~~~~~~ったく」
てっきりスマホで『土魔法を使用しますか?』的な選択肢が出ると思ったんだけど、魔法の習得を許可した瞬間にスマホはなにやら訳分からん言語が『ぶあああああああああっ!』と流れ出している。
……大丈夫だよね? バグったとかじゃないよね?
いやスキル無くなっても、この面子が揃っているならなんとか出来ると思うけど。
「この分じゃあ、他のスキルも使うには時間がかかるな」
鹿の内臓洗って、片口を縛ってから風船のように膨らませるという作業を終えた俺は、一息ついてそれを乾燥用の場所に置く。
鹿の胃と膀胱。水を貯めるのに最適なその器官を、水筒にするための作業だ。
焚火の反対側では、最近じゃあ完全に暇つぶしの道具になってる俺の教科書をクラウが読みふけっている。
横にはゲイリーが付いていて、分からない所を口頭で教えている。
思えば、ここにいる面子もうほとんど日本語マスターしてるんだよなぁ。
ちょっとしたメモ書きや、地図となっているノートの注釈も、今では日本語で統一されてきている。
「ちなみにクラウ。今出来る物だけで何か役に立つ物作る事は出来る? その、具体的に何かある訳じゃないんだけどさ」
さっきの温かい石斧は、特に役に立つと言う訳ではないが凄い技術だと思う。
ああいうのを上手く使えれば、もっと生活が楽になる気がする。
ただでさえ道具には不足しているのだ。
「そうだな……現状、上手く手を加える事が出来る物となると、アシュリー君達のナイフや釣り針、縫い針やそれらの入っていた箱といった金属の品。時点では……そうだな、あの藍色のナイフか」
一瞬、そんなのあったっけと首をかしげるが、すぐに思い出した。
俺たちがここを空けている間にゲイリーとアオイが作った、例の黒曜石のナイフだ。
「先ほど少し触ったが、あれなら耐久性を上げるくらいの事はできそうだ」
いいな、それ。
良く切れるナイフって貴重だから、長持ちさせられるならそれに超したことは無い。
「本当か? なら、矢じりの方もいけるか?」
そして、その話に食い付いて来たのはゲイリーだった。
今はほとんどが、尖らせた部分を焦がしただけの矢だが、クラウに日本語を教えながら、ちょうどその石の破片で矢じりを作ろうとしているところだった。
「あぁ、問題ないよゲイリー君。なんなら明日にでもやっておこうかね?」
「ぜひ頼む。今の所矢を使う機会はまだないが、多分その内必要になる」
狩猟もなぁ。
ゲイリー一人に任せるわけにはいかないけど、狩猟を兼ねた探索はやるべきだろう。
……次は気配遮断スキル取ってみるか。
「明日は魚罠の方をアシュリー君と一緒に回るからね。その後の仕事の最中にやっておこう」
「その後……あの巻貝の泥抜きか」
「あぁ、絶品と聞いているからね。正直、食べられる日が楽しみだよ」
「期待しておけ。マジで美味いから」
それにしても、こう……。
クラウは落ち着いてるなぁ。いきなりわけの分からない世界に放り出されてるのに、一切取り乱さずに。
不満とか不安、恐怖が溜まっているのならば解消させなきゃって思ってたんだけど。
「おや、リーダー君。君の持ち物が震えているようだが?」
「ん? おぉ、マジだ。サンクス」
頼むから『エラー』とか『不具合発生』とか『意味不明な文字列』とかは勘弁してくれよ?
そう思いながら手に取る。
――特殊スキル習得の影響による全体的なアップデートが完了致しました。
――候補者の構成要素の再計算……完了
――候補者所有スキルの再構築……完了
「……おい、なんぞこれ?」
スマホをもう一度タップすると、これまで通り習得したスキルの一覧が出てくる。
だが……なるほど、違う点がある。
「どうした、トール?」
その質問に答えるのは簡単だ。
「スキルが成長してる。いや、するようになったのか?」
スマホに表示されている物が、今ではこうなっている。
・サーチ『2nd』/半径6.5mの状況を把握する事が可能になります(5時間ごとに一度使用可能)
・道具作製『1st』/初歩的な作りたい物に関して、何をどう組み合わせれば完成するのかがインストール可能です
・トラッパー『1st』/罠設置に関する知識や技能、感覚に補助が付きます。
・野草知識『1st』/野草に関しての知識がインストール可能です。
・自己再生『1st』/身体に一定レベルを超えた負傷が起きた場合、肉体を修復します。
・土魔法『1st』/土に関する魔法の使用が可能。
覗き込んできたクラウ――はともかくゲイリーなら分かるだろう。
今までになかった数字がスキル名の横に現れている。
そして唯一『2』と書かれているサーチは、判断できる範囲が広がり、チャージの時間が短くなっていた。
それに、制限時間の単位が良く分からなかった所が、しっかりと『時間』で表されている。
「トール」
ゲイリーの一言に、反射的に頷く。
使ってみろと言う事なのだろう。
先ほどのようにスマホをタップし、性能が上がったサーチスキルを発動させる。
「……大丈夫、使った感じ変な所はない。見える範囲が確かに広がっているけど」
「リーダー君。今の眼はどの範囲まで捉えている?」
「向こうの……トイレの方向を示す、白い布巻いた木がいくつかあるだろう? その手前から三番目の奴くらいまでは分かる」
「――なるほど、かなりの性能だな。普通はもっと狭い……自分の手元くらいのはずなのだが……興味深い」
……なんで今ナイフの柄に手をやるのクラウ?
というか向こうの世界からナイフは持ってきてたんだねクラウ。
言っておくけど、さすがに抉るのは勘弁してくれよ?
「純粋に機能が強化されただけだというなら問題ないか。他に違和感は?」
「ん、大丈夫。他には――」
前後左右の視界を確認し、なんとなく下を見て――
次の瞬間、俺は地面に這いつくばっていた。
文字通り地面にキスをする様に真っ直ぐ下を見るために。
「なにかバタバタし始めたと思ったら、何をしているんですかぁ?」
そう言いながら、自分のシェルターからアオイが出てくる。
いつもの着物ではなく、ジーンズっぽいズボンにシャツ。そして薄いポンチョっぽい物を羽織っている。
「悪い、お前の服のセンス褒めたいんだけどちょっと待って」
今はそれどころではない。体感では、おそらくあと数秒でサーチが消える。
その間、俺はじっと地面を――その先を見て。
「ある」
「なにがですかぁ?」
「空洞」
「俺たちの足元に、かなり広い空洞がある」
「それも、多分人工的な物だ」
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