051:新しいスキ……ル……?
「では、私は罠の確認作業についていけばいいのか?」
「あぁ、ついでにここらの植物に関しても調べて欲しいし」
とりあえず、クラウには罠の場所を知っていてもらう必要がある。
話を聞けば、小さい食用家畜の解体くらいはやった事あるらしいし大丈夫だろう。
「俺と……ゲイリーも来てくれ」
「あぁ、分かった」
例の事件以降、ゲイリーを三人娘の面子と組ませることは実質不可能。最低限自分かアオイが間に入らないとキツいだろう。
「で、残るアシュリーとテッサはとりあえず魚の方を見て来てくれ。かかっていたら、とりあえず処理を」
「えぇ、分かったわ」
「それじゃあ、私とヴィレッタさんはどうするんですかぁ?」
「あぁ、そこなんだが……」
正直これだ。
罠の回収は、陸も水中もこれまでより数が増えたとはいえ、二人いれば回収には十分……だと思う。
よっぽど一気に捕まらない限りは。
その場合は……獲物によっては獣の方は面倒な事になるが……まぁ大丈夫だろう。
じゃあ、他の仕事となると――
「色々考えたんだけどさ。とりあえず野草……木の実とか果実系をちょっと溜めておいてくれない? 弁当箱は昨晩ガッツリ煮沸して消毒したから使えると思う」
「……食糧調達をかなり増やしますね。やっぱり人が増えたのが不安ですか?」
「あぁ、いや。そうじゃなくてだな」
食べる物自体には当分困らないってのは分かってる。当分といっても、二,三日の間罠に獲物が一匹も掛からないくらいならどうにかって話だけど。
「引っ越ししようと思うんだ。また」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「海辺近くの林に完全な本拠を作ろうというのか」
「そゆこと。ヴィレッタさんも海辺の調査が進んでないの気にしてたでしょ?」
うむ、やっぱり未だに「さん」付けしてしまうなぁ。
できるだけフレンドリーに接しようと考えていたし、その結果距離を詰めて気安く呼べる人間がほとんどだけど、ヴィレッタさんだけはどうしても距離を感じてしまう。
「なるほどねぇ。確かに海があるっていうなら、食糧確保の手段も広がるだろうけど……」
「いちおう森にも近いッスからね。罠さえ仕掛ければまた色々捕まえられると思うッスよ」
ただ、動物の気配はあんま無かったけどなぁ。魚はともかく。
「で、まぁ仮に引越しをしたとして、向こうで食糧確保の体勢が整うまでは保存食が俺らの生命線になるわけだろう?」
「それで、ですかぁ。了解しました。天日干しに出来そうな物を中心に集めておきますぅ♪」
「もし不安な奴があったら別にわけといてくれ。帰ってきたらサーチで一気に調べる」
一応ここら辺の食べられる物は全部調べたし、ノートに取ってある。
最初っから一緒にいるアオイならまず間違えんだろう。
ヴィレッタさんも、一緒に探険して分かったけど、一度見た物は絶対に忘れないみたいだ。
サブブレイン? とかでそういう機能があるんだろう。
俺も使いこなせれば便利なんだろうけど、テッサから機能の扱いの訓練は受けてる真っ最中。今は初歩の初歩として、防衛策を強めてるだけだしなぁ。
「了解です。それで、多分お昼回ったくらいで帰って来れると思うんですけど、それからはどうします?」
ん~、まぁ、もう一度水を汲んで煮沸したりとかの細かい事やって……で、その後の話なんだけど。
「一応、丈夫なバックパックが二つ手に入った。とはいえ、これから先の移動にゃ時間がかかる」
途中川が緩やかに大きく曲がっていたから、その間を真っ直ぐ行ければ距離の短縮になるんだろうけど……。
そこの地形を把握しているわけじゃあないし、やっぱ川沿いに行くのがベスト。
出来るだけ一度に荷物を持って、ちまちま進めばまた二日……三日くらいで付けるだろう。
「その間の移動を楽にする物を作りたいんだ」
「ん~~と、前にゲイリーさんが作った手造りバックパックの方の強化とかですかねぇ?」
「うん。あと、出来れば何とか草を編んで履き物も作りたい」
正直ね、気になってはいたんだよ。
どういうわけか全く汚れないサイバー組の服とかはともかく、俺の靴とか結構前からちょっと臭い始めてるし、最近じゃあ拠点では裸足でいる事の方が多かった。
泥汚れくらいなら水で洗って、その後程良い温度にした足湯に浸していればそれなりに垢は落ちるし。
「あぁ、そうですねぇ。私の履物もとっくにズタボロですし……」
「動物の解体なんかで血で服も所々汚れてしまってるしなぁ。あ、アオイ、ゲイリーも回収した衣類で着れそうな奴があったら持っていってくれ」
そうだ、昨日の内に言っておこうと思ってたのに忘れてた。
さすがにそろそろ服を変えないと限界だろう。
「あ、はい、ありがとうございます! 出来るだけいい感じの選ばせてもらいますね!」
……いい感じってどういう感じ?
とりあえず、自分が眼のやり場に困らない奴をお願いします。
「俺もあとで服を選ぶとするさ。……だが、靴を回収出来なかったのは痛いな」
それな。
正直、前の日常じゃあそんなに気にしたことなかったけど、あるのとないのじゃ滅茶苦茶違う。
なんで靴は既製品が一つも無かったんだろう? 川でも渡ってた?
「履物に関しては、午後から何とかして見る。道具作製でも反応がないけど……まぁ、どうにかなるだろう」
ちょっとした思いつきとトライ&エラーで、意外とどうにかなるもんだ。
一応、ちょっと考えている事はあるし、どうにかなるだろう。
「あぁ、そうだ。アオイ,ヴィレッタ組はツタも探しておいて。硬すぎず、でも柔らかすぎない奴。あればでいいけど……俺も罠チェックのついでに探すし」
履き物作るには、ちょうどいいツタが必要だ。
……俺の考えがあってれば、だけど。
「了解した」
「分かりましたぁ。それじゃあ昼食時にお会いしましょう♪」
なんというか、この光景ももう慣れたもんだなぁ。
焚火を掻く見ながら、いってらっしゃいとかまた会いましょうって言い合うの。
……やっぱりこの生活、悪くは無いんだよなぁ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「クラウ、やけに手慣れているな。俺より上手ぇや」
獣罠を確認していると、三つめで早速ヒット。
背中に苔の様な物が生えてる兎だ。たまーに捕まえてたんだけど、この苔が海苔みたいで美味いんだ。
肉もこのサイズにしちゃそこそこ付いてる。
「む、料理は得意だったからな。まぁ、主に捌いていたのは魚と鳥だったが」
「鳥?」
「飛べないがね。我々の主食の一つとして色んな所で飼われていた」
こっちでいう鶏みたいなもんか。
「卵とか食える?」
「あぁ、小さいがな」
「……もしこっちで見かけたら飼おうと思うが……そっか、卵小さいのか」
ウズラよりも小さくなければまぁいいか。
卵とかマジでしばらく食ってねぇ。
せっかくフライパンを手に入れたんだから、動物の脂で野菜と卵と肉を炒めて掻きこみたかった。
「卵か……。あぁ、いいな。確かに食べたい」
「なんだ、ゲイリーもか」
「我々の国では生物の卵というのは生命の象徴でな。なんといったか……縁起物という奴だ」
「特別な日しか食べられない?」
「そこまでは……まぁ、ちょっとしたお祝いの時に出される物だ。まぁ、鳥の卵は比較的出てくるものだったが」
ちくしょう、こんな話してたら本気で食いたくなってきたな。
「もし鳥を捕まえたら、飼う事も考えておこう。考えてみたら、定期的に確実に食糧を手に入れるってなると、畜産か農耕しかないよな」
もっとも、それには場所を選ぶ必要があるけどさ。
それと、当然だけど育てる物。
「海辺の林か森の中に、それっぽいの作るか」
「育てる物か。魔法が元通り使えれば、役に立てるのだがな……」
「なら、知識でなにかいいのはないか?」
兎の首を裂き、紐で吊るして血を抜く作業をクラウに任せた俺たちは、今後の事を話し合っていた。
「そうだな。やはり、育ちやすい植物の選別が第一だ。あとは……少々時間がかかるが果実が成る木の枝を切り取って育てるとかだな」
「育つの? それ?」
「物に寄るが、大体は方法がある。葉一枚だけでも増えていける物から、水やりのタイミングがシビアなもの、あとは……特殊だが、接ぎ木と言って、他の木の枝を軽く裂いた所に育てたい違う木の枝を差しこむんで苗を作るって方法もある」
「育つの? それ?」
木が違うってそれ意味あるの?
「育つ。うん、まぁ……疑う理由も分かる。農家の人に聞いた時はからかわれているのかと思っていた。まぁ、キチンと枝に切り方というか差し方に技術がいるらしいが……」
「あれ? ゲイリーひょっとして農作業に関しての知識豊富?」
「領民ほどじゃない。お前風に言えば、俺には魔法という『ズル』を持ってたからな」
「……じゃあ、俺とおそろいなわけだ」
土というか、農作業に関しては。
正直、もし魔法を使えるようになったらこれ以上なく心強い存在になる。
いや、今の時点でも超助けられてるけど。
「お揃いか、そうか」
俺の言葉に、ゲイリーは小さく微笑む。
いい意味と取ったのか、あるいは「お前とかよ……」って感じの笑みだったのか。
――ブーッ、ブーッ、ブーッ……
お。
「トール、来たのか?」
「みたいだな」
震えているスマホを取り出し、確認する。
前回は意味不明な不具合の修正だったが、おそらく今度は――
――『アップデートが完了しました。以下のスキルが習得可能になります』
やっぱり。
どうやら、今回は新しく覚えられるスキルが大量にあるみたいだ。
えぇと……あらま、かなり多いせいかいつもの説明文がないな。
あとで個別に見ろって事か?
えっと、新しいのは――
『・身体部品生成』
『・骨格の金属コーティング』
『・暗殺』
『・機械知識』
『・食人耐性』
『・性転換』
おい、いくつか突っ込みどころ満載のがあるぞ。
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