045:RPG=探険という風潮
相変わらず、この森のやっかいな所は地形だ。
川の方は緩やかなのに、ちょっと川沿いを外れて森の奥の方に入ると、突然急な傾斜になっていたりまたそこから上り坂があったりと、いろいろ不自然すぎる地形に頭を抱えざるを得ない。
「トール君、足は大丈夫ッスか? 昼食休憩から、もう結構休みなしで歩いてるッスけど」
「あぁ、大丈夫大丈夫。荷物の類も結構持ってもらってるし問題ないよ」
今の所、足にマメの類も出来ていないし本当に問題ない。
まだサバイバル生活始めたばっかりの時は足に水膨れが出来て、アオイに処置されたものだった。
この状況下で水ぶくれは、下手に潰すと悪化するとかなんとかで……。
「そういえば、二人とも向こう側ではどういう仕事をしてたんだ?」
それよりもトークだトーク。
道中の野草なんかの調査に時間取られて、実務的な会話以外ほとんどしてねぇ。
「ん~、前に話したかもッスけどボク達はあれッスよ、ようするに魔術師側の戦力の根幹になる部分の破壊を主としてたッス」
「……武器工場とか補給路とか?」
「それもあるが……一番重要なのは森や水源への攻撃だ」
あぁ、そういえば前に言ってたっけか。自然の豊かさってのがそのまんまその地域での魔法の強さに繋がるとかなんとか。
「大体そういう場所って、魔法側が防御策としてゴーレムは配備してるッスからね」
「……石で出来てる奴?」
「あれ? トール君の世界にもあるんスか?」
「その、空想上の生物……生物っていうか怪物か」
RPGではなんらかの形で出る事の多い奴だ。
「そういうのもあるが、基本的に地域に寄る所が大きい。砂や岩石、鉱石、氷、泥、樹木やその他植物、塩で構成された個体もあったが……火山帯で交戦する個体が一番厄介だな。純粋にマグマが人の形をして襲いかかってきたりする」
ヴィレッタの淡々とした説明は、だがゲームで育ってきた俺には想像が容易い物だった。
「管理している魔術師に寄って個性も大分違うので対策らしい対策も、その場その場で見つけなきゃいけないんスよ」
「そうだな……純粋に固くてパワーもある人型の個体があれば、ひたすら早く動く四速歩行の獣型がいたり、更には毒の霧をばら撒いてこちらの動きを阻害するタイプもある」
「……こっちには来てほしくないなぁ」
今自分が生きてられるのって、この森に本格的な脅威がないっていうイージーモードだからというのがデカい。
ここでRPG並にモンスターがゴロゴロ出てこられたら、俺泣いちゃう。
「それは我々とて同じだ。ちょっとした火器程度ではゴーレムは基本倒せん。もし交戦するとなれば、もう少し威力のある兵装……できればパワードスーツや戦車による砲撃支援が欲しい」
「……そんなに強いの?」
「まぁ、ライフルで倒せる個体もあるっちゃあるッスけど、大抵そう言うのって倒すと却って面倒な奴なんすよね。倒した瞬間弾けて毒を広範囲にばら撒くとか」
「……空爆とかじゃダメなん? 科学の国っていうならあるだろう? 飛行機とか」
こっちの歴史じゃ、隠れてるゲリラを恐れて強力な除草剤を空から撒いた事あるらしいけど。
「まぁ、はい。一応初期の頃はそれで上手くいってたんスけどすぐに対策されて……翼をもったゴーレムが増産されたんスよ」
「こちらの戦闘機より遅いがそれ以上に小回りが利いて……その上固くて、かつ威力の高い熱閃や火球を放つ個体が大量に生産されてな……ゴーレムである以上、敵の魔力が届く範囲から外には出てこないが」
「目立つ戦闘機じゃあ攻め込めないってことか」
「飛行機以外にも手段は一応あるんスけど……ま、そゆことッス」
あれか。ドラゴンとかワイバーン的な奴らがゲイリー達の空を守っていて攻め込めないと。
それで地上を隠れながら侵入するしか敵地に効果的な打撃を与えられないと。
「……魔法が使えないかぎり、ソイツらは出てこないんだよね?」
「我々も魔法を完全に理解していないためメカニズムは不明だが、実際敵領から外に出た事は無い」
「要するに警備専門の兵器ッスよ。あんまり心配する必要はないんじゃないッスかね」
「ほーん……」
まぁ、専門家がそういうなら大丈夫か。
いざって時はこっそりゲイリーに対策を教えてもらえばいいし。
「まぁ、今はトール君が気になる事を一個一個塗りつぶしていくのが一番ッスね。どうスかトール君? ここまでの道のりで変な所ってあるッスか?」
「ん? そうだなぁ……」
とりあえず気になった事といえば、植生が少しずつ変わってきた事だ。
これまではこう……葉っぱが広い奴と、針みたいなやつが半々だった。
だが、こうして川の流れに沿って歩いていると、少しずつ針の様な葉っぱの木が増えている気がする。
「やっぱり、動物の気配が少ないな」
「そッスねぇ。ただ、ゼロってわけじゃあないので拠点候補はいくつかあると思うッス」
あぁ、まぁ。前に比べて気配というか、音が増えた。
ちょっと奥にいくと虫の羽音がするし、所々で蝶や蜜蜂――あるいは同じ役割を持つ虫や小動物が現れている。
針から粘液を出すハリネズミ、花を食べる兎、その他もろもろ――ちょくちょくそういう『変わった生き物』をサーチで発見する事がある。
どいつもすばしっこくて、まだ捕まえていないが……。
「ヤバイな」
「ん?」
「ちょっと前まで、動物を見た時の感想って基本的に可愛いとかカッコイイとかだったんだけどさ」
先導して周囲を警戒しているヴィレッタさんが、こっちを向く。
……ある意味で、一番自分を気にしているのってこの人なんじゃなかろうか。
「最近じゃあ食えるかどうか。味はどうだろうってのが先に来るようになっちまった」
「あぁ~」
テッサがえらく納得したようにコクコクと頷いてくる。
「そりゃあ仕方ないッスよ。ボクも経験あるッス」
「テッサは……動物好き?」
「もちろんッス! 猫とか犬とか大好きッスよ!」
「おぉ……っ」
そっち側でも犬とか猫を愛でる文化は生きていたのか!
「やっぱりトール君の世界はある意味で僕らの世界に似ているのかもしれないッスね」
「あぁ、なんだかんだでいくつかの事は共有できるし理解もできる」
アオイの所も、国の体勢とかは色々問題ありだけし衛生観の一部とか物申したいけど、嫌悪する程じゃない。
あぁ、そういうのもあるよねってレベルだ。
「ヴィレッタさんは、そういうのは無かったのか?」
「……いや、記憶にないな。産まれたときから実質軍属の様な物だったから……戦闘用に改造・調教した動物くらいとしか触れあった事がない」
「うぇいと」
すいません。戦闘用の動物ってなんですか?
「あぁ、そうか。簡単に言うと、こちら側で作製したゴーレムだ。遺伝子を組み替えたりする事で、真正面からゴーレムと戦う使い捨ての有機生命兵器と言えばいいのか」
すいません、どこのホラーゲームやパニックムービーの産物ですか?
「余りに不自然な存在だから、生殖機能などを取り去り、一定期間で自壊するように作られていた。戦闘力は確かに大した物だが……コストと成果が見合っていなくてな。今では一部だけが継続して実戦に投入されている」
「アレっすよね? 人二人分くらいまでサイズアップした蟻とかなんか爬虫類だか昆虫っぽいのが人型になったような奴とか」
「なんでどいつもこいつも闇が溢れてんだお前らコノヤロウ!」
もっとこう! レーザーとかロボットとかパワードスーツとか! そういうまだ夢のある話をちょっと期待してたのに!
「は、話をちっと戻すけど……じゃあヴィレッタさんは、猫とか犬とかを飼った事はないわけか」
「犬ならば、軍用犬を一時期世話した事があるが……そうだな。自分で飼ったことは確かにない」
「…………」
余裕が出来たら、ちょっとしたペット――ってか家畜を飼ってみるか?
それこそ、殺さなくても役に立ちそうな……運搬役か、あるいは乳牛みたいに飲める乳を出してくれる奴。あぁ、鶏みたいに卵を産んでくれるのとか。
……しばらく、獣罠のチェックは自分が行こうかな。
そうすれば、サーチの際に意識すればそこらへんも分かるだろう。
意外と動物を育てるっていう仕事は、多少は共通意識も生んでくれるかもしれん。
あと癒し。うん、癒し。
……癒されたい。切実に。
女の子が多いけど、かといって変な目で見るわけにはいかんし。
数少ない同性のゲイリーとは微妙にギクシャクしてるし。
「トール=タケウチ。君は……動物を飼っていた事があるのか?」
「ん~、親とそういう話をした事もあったけど、結局飼えなかったなぁ。爺ちゃん婆ちゃんの家には猫がいたけど」
「猫ちゃんッスか」
「そそ、灰色の奴」
最初は拾った野良ネコだったらしいけど、爺ちゃんが飼おうっつってキチンと飼い猫にしたんだっけか。
野良猫時代から爺ちゃん家の玄関先か庭から動かない奴だったし、特に問題もなかったようだ。
婆ちゃんはあんま好きじゃなかったらしいけど、それでもちゃんと世話はしてたからなぁ。
「ふむ。家畜ではなく愛玩用として動物を飼うというのは、結構人間として一般的な事なのか?」
「人間としてって……ん~~、まぁ、おかしいことではないかなぁ。例えば観賞用の派手な魚や鳥を飼う人もいるし……小学校じゃあクラスでメダカ飼ってて、校舎の裏には小さな水田と動物小屋あったしなぁ」
多分、ウチの小学校はそこら辺を充実させてた方だと思う。
水田とかでカモ飼ってたし、小屋では兎と鶏飼ってた。
「いいッスね、その学校。話を聞いているだけで平和だっていうのが伝わるッスよ」
「テッサやヴィレッタさんは?」
「軍学校ッスよ。だから、規律なんかを叩きこまれたり武器や爆発物の扱い習ったりっていうのが基本で……動物の世話とかは一切なかったッスね。野良猫をこっそり可愛がってたりしてたッスけど」
「同じくだ。そういう記憶は残っていない」
ふむ。
いいかもしれん。動物飼うの。
なんだかんだで、そういう遊びというか余裕も生活の中に盛っておかないと、変なタイミングで追いつめられそうな予感がする。
……非常食にもなるし。
「とりあえず、そろそろ今日の寝る所を探さないッスか? 」
「あぁー、そうだな」
あんまり寝床を作るのに時間のかからない場所見つけて、ささっと葉っぱを積もう。
ナイフもナタもあるから材料集めも多少は楽だろうし……。
「トール、テッサ、そこの傾斜の向こう側はどうだ? 洞窟らしきものがある」
そういってヴィレッタが指を差したのは、森の奥の方に見える急な傾斜だ。
その一か所――最初は黒土の部分かと思った部分が、良く見ると暗くなってる空洞である事が分かった。
(中に入って頑丈そうなら、今夜はあそこに泊まってもいいか)
雨と風さえ凌げるのなら、後は落ち葉――あるいは新鮮で柔らかい葉のついた枝を引っ張って来てベッドにすればどうにかなる。
行動時はともかく、寝るとなると今のシャツは臭いが気になるから脱いで寝るため、ちょっと多めに葉っぱを用意する必要あるけど。
「私が先行して内部を調査しよう。聴覚、嗅覚共に何も感じないが、野生動物が中に潜んでいる可能性がある」
そういってヴィレッタさんが先導してくれる。
……やっぱり悪い人ではないのだろう。
真面目な軍人さんというだけか。
なら、これからの対応次第ではちゃんと上手くやっていける……と、いいなぁ。
そしてヴィレッタさんが中に入ってしばらくして――
「んお……トール君トール君、ヴィレッタさんから通信入りました……中でトール君に、スキルで調べて欲しいものがあるらしいッス」
「? あぁ、例の通信装置か」
「うッス、わざわざサーチ使いたいってよっぽどッスねぇ。ここまで全部野草知識だけで来たのに」
「だなぁ」
ヴィレッタが入っていった洞窟の入り口。
そちらに向けて足を進めようとすると、中からそのヴィレッタが出てきた。
手に、白い物を持って軽く振っている。
………………。
「テッサちゃんや」
「うッス」
「あれなに?」
「頭蓋骨ッスね」
「そっか」
「そッス」
「なんであの人そんなもの持ってるの?」
「中にあったからじゃないッスかね」
「そっか」
「そッス」
「テッサちゃん」
「うッス」
「帰っちゃダメかね」
「さすがに駄目ッス」
マジでか。泣けるぜ。
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