035:またもやスキル会議(副題:どこから君らはやってくる?)
「それじゃあ、今回は二つまでスキルを取れるのね?」
「取れる物は前と全く変わらんがな」
本日の成果は魚一匹と以前にも捕まえた黒リス二匹。
アオイもゲイリーもニッコニコして帰ってきて……よっぽど嬉しかったのだろう。
確かに、このスキル使っても名前がよく分からない黒くてややでかいリスは滅茶苦茶美味かった。
前回は一匹だけで、味はともかく量には不満を覚えていたが、今回は大丈夫だろう。
先ほどまで轟々と燃えていた火は、薪が炭化したことで安定した
アシュリーがナイフで捌いた魚は四人分に分けて枝に通して、程良く火に当たる所に突き刺されてちょいちょい回転させられている。そろそろいい感じに火が通る頃だろう。
流木を削った煮沸用――いや、今では実質鍋となった器では、黒リスの肉や洗った内臓、血液、骨を野草と共に煮込んだシチューがグツグツと音を立てている。
「なるほどぉ。ですが、条件が相変わらずよく分かりませんねぇ。新しいスキルが開かれないと解放できる数が増えるんですかねぇ?」
荒削りの匙で、自分の器にシチューを盛りながら首をかしげるアオイ。
「あるいは、一定のスキルを解放させたから習得数が増えたのかもしれんな。トール、今表示されているスキルの説明には変化がないのか?」
それに対して、違う流木の鍋で沸かしたお茶を啜っていたゲイリーが意見を述べる。
「ない……と思う。多分。一々前回の説明文なんてメモってなかったし……ただ、明らかにこれは違うってのはなかったよ」
そういえば、ここ最近はいつもの『不具合のアップデート』ってのが来ないな。
周りに変化が起きたかどうかビクビクしちゃうから別に良いんだけど。
「で、明日からの行動予定も合わせて、コイツについて話し合いたいんだけど」
「何を取るか、ね? それを決めてから明日からの活動を決めると」
「あぁ、俺としては――」
「魔法魔法魔法! 新しい候補が少ないんですから一個は魔法があったっていいじゃないですか!」
「おう、候補には入れといてやるからちょいと落ちつけサムライガール」
とりあえずガクガク俺の肩を揺さぶってくるアオイのアホ毛を掴んで引き剥がす。
なにやらむーむー言ってるが知らん。
「で、二つ取れるスキルをどうするかって話なんだけど――」
「トール君、とりあえず魔法は置いといて、今取れるスキルって?」
「えぇと……」
スマホをタップして起動させる。
「『健脚』、『毒耐性』、『野草知識』、『気配遮断』の四つだな。とりあえず魔法を抜いて」
個人的に『気配遮断』以外はどれ取っても良いんじゃないかと思う。
例えば、『健脚』を取れば自分も探索班として活動しやすくなるし、次の引っ越しの時にもっと遠くに移動する事もできるだろう。
他もそのままだ、『毒耐性』なら万が一でも俺はそのまま行動できる。
問題は、自分が口にした者が毒入りかそうでないか判別できるかどうかってことだが……。
そして『野草知識』は……正直そういう風に効果が出るのかちょっと不安だが、まぁ悪い事にはなるまい。
で、『気配遮断』は……。
「なぁ、俺が気配を消せるようになったとしてなんか役に立つ?」
「狩りには役に立つんじゃないか? 紐も十分あるしちょうどいい木も見つけたし、近いうちに弓と矢を作ろうと思うんだが……」
「アタシも同意見。それに、万が一攻撃的な獣を発見した時……いえ、違うわね。例えそうでなくても、様子を見るために気配を隠せるっていうのがどれだけ効果があるかは分からないけど、見つかりにくく出来るっていうのならば結構大事だと思うわ」
……あら? 意外と『気配遮断』ってば皆からして好感?
「私も悪くないと思いますよぉ? 本当に私やゲイリーさん達が武器を使う事になった時に、基本非武装のトールさんに害が及ぶ可能性が減る事は非常に大事な事なのでぇ……」
「あぁ、自衛手段になるって事ね」
「はい! 基本的にトールさんが武器を持つ必要こそありませんが、それでも身を守る手段は一つでも持っておくべきです!」
……なんだろう。こうして俺の体が心配されていると、なんか普通にジーンと来る。
特に、最初の方――そう、一番苦労していた頃からずっと一緒にやってきたアオイにそう言われるとなんかクルものがある。
「だからほらぁ、魔法覚えて……ねぇ?」
「うん、なんかこう大事な所で台無しにしていく辺りお前は本当にお前だな」
まぁ、そういう所も含めてなんだかんだで上手く付き合えていると思う。
「今回、スキルの習得回数が増えた訳なんだだけど……念のために最低一つは残しておきたいと俺は考えている」
「出来るのか? ……いや、そういえば以前にスキルの習得を保留していたと言っていたな」
「あぁ。特に今回は新しい物がないからな……そういうわけだから魔法以外で一つ何か覚えておきたいんだけど」
「そんな! 第一候補じゃあないんですか!?」
ありません。
というわけでステイ。
どう作用するかもっとも想像しづらい奴なんて後回しに決まっている。
最初っから選べていたのならば、多分水か炎のどっちか魔法を選んでいただろうけど現状解決しているのならば後回し。
緊急時には取る可能性はあるし、正直いつかは調査ってか実験の意味も含めて取らなくちゃいけないと思ってるけど。
「あー、でもどうすっかなぁ。アシュリー、ビーバー……その、めちゃくちゃ肉が臭かった奴だけど、それ以外になにか発見はなかった? 主に脅威的な意味で」
もしこの近くに肉食獣の気配があるというのならば、すぐさま気配遮断を取った上で明日から武器作ったり壁作ったりするんだけど。
「いいえ、なかったわ。正直、一番動物の気配がするのはこの拠点の周囲ね。ほら」
そういって目で上を――空を示すアシュリーに釣られて俺たちもそちらの方を向く。
一羽の鳥が、気持ち良さそうに空を舞っていた。
この、すでに一月近くは立つ生活の中で一度も目にしていなかった鳥だ。
……いつの間に湧いたんだ?
「自信をもって言うわ。おそらく、ここを中心に動物達は産まれて……いえ、違うわね。転送されてきている。多分あの……ビーバーとかいう動物は例外だったか、あるいはたまたま向こう側の川に行ってしまっただけだと思うわ」
「……俺たちも気が付いたらこの近くにいた。つまり、ここは最初に動物……っていうか生き物が運び込まれてくる場所?」
「そこまでは……。探索したり、あるいは……それこそまた引っ越してみたら色々分かるんじゃないかしら」
「引っ越し?」
「ええ。まだ確証はないけど、ちょっと思う所があるのよ」
だったらその思う所を話してくれませんかね。ねぇちょっと?
ゲイリーも「あぁ……」と何かに気付いたように意味深な相槌打つし!
いや詳しく話さないって事にはなにかしらの意味があるんだろうけどさ!
「ま、それはさておき。トール君としてはどうなの? 覚えたい物は?」
「ん? ……いや、これが良いんじゃないかと思ってたんだけど……」
とりあえずスマホを再度操作して、その説明文が表示されている画面を見せる。
どういうわけか、このスマホに限ってはそれぞれの文字で表示されるらしい。
今更だが、どう言う訳が言葉が通じるのも謎だし……。
で、それを見せたら予想通りというかなんというか、全員から「悪くないんじゃないか?」というある意味太鼓判をいただいたわけである。
タップ。
習得。
変化なし。
……これ大丈夫かな。
絶対無駄にならないと思ったんだけどな、『野草知識』って。
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