036:岩場にて素晴らしい物を発見してしまった!
「なるほど、手に取って初めて分かる感じか」
習得してから一切変化を感じなかった『野草知識』のスキルだが、試しに一度探索に出てあれこれ試していると、手に持った時というか振れた瞬間に情報を読み取れるようになった。
「どうだ、トール?」
「コイツは食えるな。煮ると上手いスープが出るらしい。ある程度を残して取っていこう。キノコとか久々過ぎて楽しみだ」
「同じくだ。了解」
今回はゲイリーと共に、二日がかりで新たに発見したという岩場に来ている。
うん、やっぱり足湯作って良かったよ。今までに比べて疲労の回復が早くなった気がする。
「にしても、岩場か。なにかあると思うか?」
「んー、結果はどうあれ、念のためにサーチスキルを試しときたい。前に河原を探索した時は成果らしい成果は出なかったし」
ある程度固くて、かつ加工しやすい石。それと砥石をずっと探していたのだが成果は上がらず。
一応適当に砕いた石の中で比較的鋭く、かつ大きさが程良いものに木で作った握りをくくりつけて緊急用のナイフにしているが――アシュリーのナイフが出てきたおかげで実質万が一の予備扱い。
今は一応ゲイリーが持っている。そして俺はアシュリーのナイフだ。
逆の方が良いんじゃないかと思ったんだが、ゲイリー曰く敵に自分の獲物を預けたりしたら君の印象が悪くなりかねないとの事。
なんか、ホントいつも気を使わせてごめんね?
うん。一番気安く接せるのはアオイだけど、一番頼りになるのはゲイリーだ。
「もうちょいマシな石が手に入れば、木材集める作業とか枝を落とす作業が大幅に効率上がるし」
「あぁ、確かに。より容易く木材を集める事が出来るとはいえ、まだまだ細い木でも少し時間がかかるからな」
「石斧よりも骨ノコギリの方が早いからな正直。でも鹿みたいな大物がまたかかるか怪しいし……」
「野ブタの骨は駄目だったのか?」
「あぁ、同じように割ってみたけど上手く割れなくてな、ちょっと使えそうにない」
結局今一番問題なのは、道具に使える固い素材だ。
燃料は……随時確保しているから、どっちかというと大切なのは保管場所のほうか。
「とりあえず、矢じりに使える石とかがあればいいんだけど……」
「ん? 別に気にしなくていいぞ。木で作った矢の先端を尖らせて、少し焦がせば立派に使える矢になる」
さすがに熊の様な大型の獣相手には不安だが、と断りを入れたゲイリーはふと気がついたように目を見開き。
「そうだな。これまでは正直、森そのものが余りに異常だったから気にしていなかったが、食糧の保存庫も作るべきか」
「煙で燻しておくんじゃなくて?」
「その作業場も含めて、拠点から大分離れた所に食糧を置くようにしておくべきだ。それも、獣に触れられない様に高い所に」
「……狼とかが来る?」
「いるのならばな」
あー、うん、それじゃあ確かに手段を考えておいた方がいいか。
「木に吊るすとか?」
「それもありだが、鳥も現れているしな……固めの葉などで覆うか……いっそ、高い所に小屋か蓋付きの箱を作るのもアリだろう。梯子も作って、立て掛ければ登れるようにして普段は外しておけばいい」
「梯子か。作ったとして強度は大丈夫かな?」
「後々の建材用として、とりわけ頑丈な枝や木は確保している。君が今持っているナイフで上手く溝を作って組み合わせた上でしっかり結べば、そう簡単に壊れたりはしないだろう」
一応、アシュリーのいう『トライスティック』というものは今も練習はしている。
今では紐や縄作りは三人に任せて、自分は横で刃物の扱いや火の起こし方の練習をしている有様だ。
火の起こし方の練習の際は、同じく苦手なアオイも一緒になってやっている。
で、だ。今自分がどっちの練習に力を入れているかと言うと、正直火起こしの方で……。
「大丈夫かなぁ……」
「なに、いざという時はアシュリーを頼れ。アイツもそんな所で協力を渋る事はあるまい。特に、君に対しては」
「ま、そりゃあそうなんだろうけどさ」
そういう間にも俺は見たことない野草やツタに手を伸ばし、次々に食える物や薬になる物を回収していきながら足を進める。
……やっぱり、サーチだけでは見落としが多かったみたいだ。
これまで散々目にしていたはずの物が、食えるは役に立つわと新しい発見がテンコ盛りだ。
いつものVRみたいな視界にはならない。触った途端に頭の中に知識が紛れ込んでくる。
今の所、サーチや道具作製のように酔いそうになる事はない。それはいいのだが、たまに耳鳴りというかノイズというか……奇妙な感覚に合うのが悩みの種だ。
(いや、まぁ、スキルとは付き合っていくしかないんだけどさぁ)
そうして次々に草木に関しての情報を増やしながら、目的の位置に付いた。
「……なんでここだけ絶壁?」
唐突にここだけ丘があって、そして唐突に削られ――いえ、抉られた。そんな感じの地形だ。
中腹あたりから下の方は徐々に緩やかな坂になっているが……
「おい。雨の時は近寄りたくないぞ、トール」
「同感だ」
土砂崩れとか落石が起きてもおかしくない場所だ。雨が降った時やその後数日はあんまり近寄りたくない。
「まぁいい。そんじゃ、始めるか――」
相も変わらずやけに使用が限られている力――サーチ・スキルを発動する。
目に入る世界が、うっすらと――だが確かに変わる。変わ……
「なんじゃこりゃ!?」
「? どうしたっ?」
スキルの使用で俺に何か異変が起こったと思ったのか、ゲイリーがやや緊張した声を出す。
そして……あぁ、確かに異変は起こっている。確かに。
「サーチスキルの範囲――その距離的な物じゃなく分かる範囲というか……なんか偉く広がっている」
植物関連限定だが。
目の前の岩場の所々に生い茂っている芝の様な植物、その葉や根の可食性や効能。振り返れば、これまでは些細な意識の違いで見えたり見えなかったりした物が、全て正確に……か、どうかは知らんが……分かる。
「うっ――」
余りの情報量に目眩がして、少しだけふらつくと即座にゲイリーが駆け寄って俺の体を支えてくれた。
「わりぃな、ゲイリー」
「気にする事じゃない。それより、大丈夫なのか?」
「一応はな。くそっ、こりゃちょいっと慣れる必要があるな」
多分だが、野草知識とサーチの二つのスキルが重なって、いわゆるシナジー効果を産み出したのだろう。
サーチを使う時には意識の傾け方を注意しないとひでぇ事になりそうだ。
一瞬、頭の片隅に不快感とも快感とも言えない感覚がもぞもぞとしたが、邪魔だと強く思ったら消えた。
(そうか、脳には絶対に影響あるし……病も気からじゃないが、あんまし意識しすぎると変な影響出来るかもしれないな)
とにかく、今の目的はここにある岩や石に関しての調査だ。
石や岩。そういった方向に集中し、草木に関しては意図してシャットアウトする。
そして―ー
「ビンゴ」
大中小、様々な岩が転がっている中、割と様々な場所に散らばっている目標の内の一つが隠れている場所へと足を運び、石をどける。
「なんか、本来はこういう所でこれほど大量に見つかるのは珍しいらしい……ってか結構あり得ない事見たいだけど」
その下から姿を見せたのは、そこらの石では出せない煌めきを放つ、黒い石。
「ゲイリー! 刃物の素材、確保だ!」
天然のガラス、黒曜石と呼ばれる石がびっしりと詰まっていた。
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