025:罠で大事なのは『場所』と『数』である
「どうだ、トール。スキルの具合は?」
「思っていた以上に当たりだったかも。バランスの難しい罠でも、それほど時間をかけずに仕掛けられる」
上流の方に仕掛けた魚籠や漏斗型の罠の様子をときたま見に行きながら作った紐、出来るだけ真っ直ぐな枝。平たく、だが重い石。
罠を設置するのにこれらはゲイリーが背負っているバックパックに積まれている。
うん、ツタも決して悪いわけじゃないんだけど、紐の方がトータルで見ると上だよね。
ゲイリーやアオイが全力で引っ張っても大丈夫だったし、そもそも材料の時点で引っ張ったり、途中で折れたりせずに一重結びが出来るか試しているから問題ない。
「基本的には紐を使った締め罠か。向こうの獣道の奴と同じ……」
「石とかの落し物系をもっと作ろうかとも思ったんだけどね、もし他に人が来ているとしたら怪我する可能性があるから……こっちの方がまだ大丈夫だろう」
そう言って適当に布を巻いて止血した手をひらひらと見せる。
鋭い石を使って枝の一部を削って、三本の枝でアラビア数字の『4』になる様に組み立て、地面と平行になる棒の先に餌――とりあえず柔らかい果実の欠片を突き刺しておいた――をつけ、頂点の部分で大きめの石を建て掛ける。
餌を食べようとした瞬間、棒のバランスが崩れ、真上の石が落ちてくるという罠なのだが……これマジでバランス難しかった。
例の酔いそうになる視界の補正でどこにどう組み合わせれば完成するのかというのは分かるし、成功確率もご丁寧に表示されるのだが上手く行かないのだ。
まず60%より上に行く事がまれだし。80とか90という数字が見えたと思って手を止めたら50%になっていたりするのだ。
どうにかギリギリの所でやっても枝組みが崩れたり、石が手の上に思いっきり落ちてきたりで死ぬほど面倒だったし滅茶苦茶痛かった。泣ける。
「大丈夫かい?」
「一回煮沸した水で洗ったし大丈夫だろう。布も真新しい奴だし」
それに実質擦り傷に近いものだ。
一応患部を守るために布を巻いているが、カサブタが出来たらもう大丈夫だろう。
「とりあえず適当な長い枝を突き刺して目印を付けておこう。ゲイリー、石斧使っていいか?」
「あぁ。……いや、君は手を怪我しているし俺が叩こう。枝を支えていてくれないか?」
「ん、分かった」
いつも気遣ってもらってホントにすみません。
でも滅茶苦茶ありがたいです。
一応ここに罠があるという目印として、俺たちはその近くに必ず棒を打ち込むようにしていた。
そして打ち込んだ棒の先端を鋭い石を使って軽く割り、薄く削った樹皮に矢印と、それぞれの言語で『罠』とペンで書いた物を挟みこむ。
「ゲイリーの世界での識字率ってどんなもん?」
「……そう、だな……領主のやり方にもあるが、全体だと六割位だと思う」
「思ってた以上に低いな」
「村や職人街だと、文字覚える暇があれば仕事を手伝えという所が多いからな。俺の領地では一応、最低限の教育として学校で文字や計算を教え込んでいるが……場所によっては反発もあってな……誰もが文を読めるという君の所の環境にはほど遠いのさ」
「……大変なんだな。そういうの」
俺の言葉にゲイリーは軽く苦笑して、『そんなもんだ』と肩を竦める。
ちくしょう、イケメンは何やっても似合うなこの野郎。
ともあれそうだ、文字自体が通じない場合も考えて、骸骨に二本の骨を交差させた海賊とか毒とかのマークも書いておこう。
「とりあえず、獣道とか細くなった道っぽいところには締め罠。水たまりの近くには落し物の罠を張った。これで……えぇと……」
「六つ目だな。二人がかりとはいえかなり頑張った方だ」
「スキルには本当に世話になっているなぁ……サーチスキルのおかげで他の動物の痕跡も分かったし」
森の方に少し踏み行って発動したサーチスキルは、落ちていた動物の体毛や、噛み千切られた葉や果実の残骸を発見していた。
「あの中途半端な水たまりが、動物達にとっての水場と判明したのは大きかった。湖の拠点からも来れない距離じゃないし、ここのチェックは欠かさず行うようにしよう」
「だなぁ。結局今回、タンパク源はほとんど入手出来なかったし……また野草と果実の生活に逆戻りか」
「そんなに日数は経っていないのに、その頃がもう半年は前の様な気がしてくるな」
「同感」
前にアシュリーとも話したが、本当にここ最近は一日が長く、そしてちょっと前の事が随分と昔のような気がしてくる。
「出来る事なら、毛皮も出来るだけ確保したいし……布とか作れんのかな」
「毛皮? 一応すでにあの草食動物の毛皮はあるが……何に使うんだ?」
「あれだよ。寝床を心地よくしたいってのと、それと……いざって時のための防寒対策でなにか作っておきたい。特にアオイは、下手したら今でもいるかもしれんし」
俺たちの中で一番薄い格好しているのがアオイだ。
今はまだいいが、万が一急に寒い日が来たり、あの時の豪雨みたいに急激に気温が下がる時があると一番辛い目に合うのはアオイだ。
医者もいないし薬の類もない現状では、体調を崩す可能性はちょっとでも下げなくちゃ……。
「君は自分が柄ではないと言っていたが……」
「ん?」
「ボ……俺が思うに君は、君が思う以上にリーダーに向いていると思うぞ?」
……ホントかよ、それ?
俺、責任のあるポジションよりも流される方が好きなタイプなんだけどなぁ。
ホント、やっかいなしがらみがなければゲイリーをリーダーに推薦して言われた事をこなしていく生活になっていただろう。
「まぁ……なんだかんだでリーダーになってしまったし、出来る事はするさ」
それなりに拠点に近づいていたため、もう湖は視認できる。おそらくもうちょい近づけば拠点も見えてくるだろう。
うっすらと、湖の周囲を歩いている二人が見えた気がする。
「さて、次はなにをしようか。ゲイリー」
「あの二人の行動次第だろうさ。トール――いや、リーダー」
「くすぐったくなるからその呼び方、止めてくんない?」
「フフッ」
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