026:色んな意味で『餌』が必要
「それじゃあ、この貝はやっぱり食べられるんですね?」
「泥抜きしたあとでしっかり煮ればな。とりあえず、それようにまた違う器を用意しなきゃな……」
罠を仕掛けながら帰還するために少々早めに向こう側を出立していたのだが、思った以上に罠を仕掛ける作業はスムーズに終わり、暗くなってもちょうど拠点の焚き木が見えるくらいの距離にまでは近づけた。
正直、危なかった。
いや、暗くなってもそのまま拠点まで戻れる自信はあったんだけど、火を起こすのが上手いゲイリーもいるしと種火を持ってきていなかったために色々と遅くなったのだ。
森の中で活動する事が多い計画だったので、下手に火を持って火事を起こす可能性を考えたのだが……。
(無理とかしないで、もう途中で一泊すればよかったな、ちくしょう)
心配させては不味いだろうと酷使したためパンパンになっている自分の両足――特に右足を揉みほぐしながら、湯気が立つマグカップに口を付ける。
「どう、トール君? お茶の味は?」
中身はなんと、いつもの煮沸しただけの
「あぁ、これ美味いわ。ウチの国のお茶を薄く淹れた感じ。うん、これ好きだわ」
「アシュリー、お前よくこれを知っていたな。こちら側の物なんだが……」
アシュリーが別行動中に見つけていたのは、彼女達の世界の木だった。
パンという名前の木――うん、聞いた時にはなんだそれと思ったけどそういう名前なんだ。そういう名の針葉樹の葉、これを石で潰した状態で大量の水で煮ると、ビタミン豊富なお茶が作れるらしい。……というか、もう作ってある訳だが。
「戦争している相手の国の文化について調べるのは当然でしょう。万が一そっちの領内で逃げ回る事になった時のために、自然にある食べられそうな物は調べてるわ」
スタイルの良い胸を見せつけるように胸をはるアシュリーに、ゲイリーは汚らわしい物を見るような目で、
「……下品な女だな」
「あら、どういう意味かしら?」
「そのまんまの意味だ」
「あら、そう?」
コロコロ笑うアシュリーに対して、ゲイリーは心底不愉快だと眉をひそめて睨みつける。
落ちつけお前ら。
というかゲイリー、なんでそんな突然親の敵を見るような目をしてんのさ。
「双方落ちつけぇい。で、ゲイリー。これは二人の……っていうよりゲイリーの国ではポピュ……普通にある物なのか?」
「あぁ、どこでも見られる物だ。大抵丘やちょっとした山に生えていてな……」
なるほど、本当に一般的な木だったのか。ふむ。
「その木って何本くらいあった?」
「私が数えた時には五、六本くらいですかねぇ……それにもう一本、なぜかもう折れてる奴がありましたけど」
折れてたのはまぁ問題なし。実際たまに流れてくる木の残骸はあるし。
理由は少々気になるが、アシュリーとアオイが特に気にしていないようだし、特に奇妙な痕跡はなかったのだろう。
一応一度自分の目で見ておきたいが、緊急性は低いと見た。
そして五,六か……ひょっとしたらもっと群生してるんじゃないかと思ったが。
いや、割とマジで飲み物の偉大さを今実感している。
飲む物が美味しいと、肉や魚がなくてもなんか満足できる自分がいる。
「あ、そうそう忘れてたわ。ついでにコレも作って置いたから、二人とも何本か持っときなさい」
そんな事を考えていると、アシュリーが俺とゲイリーに木片をそれぞれ差し出す。
なんだこれと思って受け取ると、触感が想像していた木のモノと少し違う。
「パンの木よ。ただ、樹脂を多く含んだ部分を細かくして、樹皮とかの余計な物を取り除いている。油分が多いおかげで着火剤としては凄く便利だから、それぞれが持っておいて損はないと思うわ」
マジでか。
「ピッチスティックか……。あぁ、確かに便利だ。普段の火起こしは、今まで通り火切り棒で起こすか種火の運搬で十分だと思うが……火が付きにくい状況だったり急ぐ時なら……」
「似たような物ならウチにもありましたよぉ♪ ウチの奴隷が火を起こすのに楽だと言ってよく使ってましたので二年前に奴隷に限り使用を禁止にしてましたぁ♪」
なんでだよっ!?
ホントお前の国は碌でもないな!?
「……好奇心で聞いてしまうが、なんで禁止になったんだ?」
「作業の簡略化は奴隷の勤労精神を犯す要因であるとかいう理由だったと思いますけど……まぁようするに嫌がらせ……というかイジメですよねっ!」
「お前の国はホンッットにクソだなっ!!」
いやホントに!
マジで反乱とか起きないの?
そういう系の物語だと搾取される側が間違いなく反乱起こしてダイジェストでも映画三部作位のボリュームになりそうなえげつない内紛になると思うんだけど!?
「まぁまぁ、私の国なんてどうでもいいじゃないですかぁ♪」
「いいのかそれで!?」
そんなアオイは、嬉しそうというか楽しそうにいつも通りぴょこんと跳ねた髪をひょこひょこ跳ねさせている。
だからどうやって動かしてるんだそれ。
あれか。そういう人間というかそういう種族なのかお前さん達は。
「今回はお互いに収穫ありましたねぇ♪ 草以外に食べれる物を発見しましたし、まだ成果は出ていませんが獣や魚を捕まえる罠をかなり仕掛けましたし」
「キチンと作動してくれるといいんだがなぁ」
「数が増えれば可能性は十分です! 前の所でも作っていたあの大掛かりな仕掛けも湖の適当なほとりで作れば、更にお魚さんが獲れる可能性は更に上がるんじゃないでしょうか?」
「……そもそもさ。魚って何食うんだ? 昔家族で釣りに行った時は海釣りで、使った餌は確かイクラだったけどさ」
「イクラ?」
「サケって魚の卵。俺たちも食う物だけど……意外とこれ釣れるんだよなぁ」
どういう物を食べようとして、それがどこなら豊富かがハッキリ分かればベストである。
多少は罠が起動する可能性が上がると思うんだが……。
「また蟻を見つけて、潰して団子にすればエサになるんじゃないかしら?」
「えぇ!? お魚さんの餌にするくらいなら私達で食べましょうよ!」
待てぇい。
「蟻を腹膨らませるほどに捕まえるのは骨折れるだろうが……」
「それこそ、罠を作ればいいじゃないですかぁ。トールさん、今ならそういう知識を持っているんじゃないですか?」
「いや、そう言われてもな……」
とはいえ、罠に関して尋ねられたために意識してしまったのだろう。一瞬で視界がいつものアレになり。
『現在の状況を読みこんでおります……』
『読み込み完了』
『昆虫型生物の捕獲トラップ、3パターンを表示致します』
…………マジでか。
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