013:合流


 ゲイリーの予想通り、女性陣二名が帰って来たのは翌日の日没前だった。


 帰ってくるまでの間。俺とゲイリーはトイレを二つ分完成させていた。

 掘るのにちょうどいい硬さの流木が見つかったのもあって、昨日よりも作業はスムーズに進んだ。無論、作った道具のおかげでもある。

 枝を折るのにこれまでのような労力を使わずに済み、細い木なら石斧で切り倒す事も出来た。

 うん、石斧作って本当に良かった。

 削ったり割ったりして刃物状にした石は、加減が少々難しいが刃に近い所を掴めばナイフとしても使え、木材の加工――たとえば地面に刺さりやすいよう尖らせたり、節や枝を叩き落とすのに非常に便利だった。

 ツタの回収には木材に鋭い石を埋め込んだナタも効果的だ。

 ツタで縛っている訳ではないので強度などには不安が残るが、振りやすさも持ち運びやすさも石斧より上だ。

 石斧も悪いわけじゃないが、俺が扱いに慣れていないのかまだ作りが甘いのか、目標に打ち付けて石が飛んだりツタが切れたり解けたりするトラブルが多かった。

 まぁ、ナタよりパワーというか威力が必要な時には必須であるが。

 ナタは軽くて脆いため、使いどころが邪魔な枝などを叩き落とす時のみというのが唯一にして最大の欠点だ。

 それでもなんやかんやで、やはり活動を開始してから太陽がもっとも高くなるまでには作業を無事終わらせる事が出来ていた。

 本来ならば、例えば木を削ってナタと同じ要領で鋭い石をつけたシャベルや、枝とツタを組み合わせた運搬用のバックパックを作るハズだったのだが、ふとした思いつきからそれらは後日という形になった。


 では何をしていたのか?


 ――罠を作っていた。


「少なくとも腹は満たせるんだから、今の内に試せる物は試しておかないか?」


 というゲイリーの提案に乗ったのだ。

 いるかどうか分からない魚を取るために、ずぶ濡れになりながら男二人で作業をしていた。

 流れに対して、角を取った逆三角形というか――漏斗ろうと型になるように魚が通れないような狭い感覚で長い枝を杭として打ち込み、その先を同じように……なんて言うんだっけ? 生簀いけすというか……まぁ、ある程度の広さを持った行き止まりを作ったのだ。


 この時点でかなりの時間を使ってしまったが、そこから更にもう一つ――同じコンセプトの籠を作った。枝とか丈夫なツタとかを組み合わせた、いわゆる魚籠びくである。自分の道具作製スキルに反応してくれたおかげで大幅に時間は短縮できたと思うのだが、それでも日没ちょっと前までかかってしまった。


 どうにか完成したそれを、拠点――まぁ、少し前に作り上げた魚を閉じ込める罠よりも上流の所に一つ仕掛け、放置している。


 出来れば細目に様子を見に行きたいのだが、もし本当に魚がいれば近づく音などで警戒する可能性があるため、見に行くのは明日の朝になるだろう。

 ……餌として砕いた木の実や果実の欠片を仕込んだり振り巻いたりしたが……かかるのだろうか? 石の下などに程良い虫がいるかもしれないと探し廻ったりしたのだが、一匹もそういうものを見つけられなかった。

 ちくしょう、ホントなんなんだここは。





「で、下流の方はどうだった?」

「ん~、新発見という訳ではないんだけど……」


 合流した二人は、心なしか最後に見た時よりも身綺麗に見える。

 ひょっとしたら、男の目がないという事で水浴びでもしたのだろうか。


「こういうのを見つけましてぇ……」


 そういって差し出してきたのは、渡しておいた弁当箱だった。

 水とかを組んだり、何かを入れるのに使うといいと渡しておいたそれには、俺がまだ調べていない果実や野草がギッシリ詰まっていた。

 反射的に、サーチスキルを作動させて詳細を確認する。


「どれも食べられる物みたいだけど……これは?」


 俺の質問に二人が答えるよりも前に、一緒に弁当箱を覗き込んでいたゲイリーが反応した。


「クロームの葉にイエローケパ……俺の世界の野草だ。いくつかは」

「そうじゃないのは、私の世界にあった野草や果物ですねぇ」


 ……なるほど、そう来たか。


「つまりあれか。俺たちは森に連れて来られたんじゃなくて……木々と一緒に放り込まれたということか?」

「……何とも言えないけど……その可能性もあるわ」


 アシュリーの感想は、歯切れが悪かった。

 話が大きすぎて上手く考えがまとまらないのか、あり得なすぎて否定したいのか。まぁ、そんなところだろう。

 むしろ自分みたいに、『あぁ、そういう話もありそうだよな』と考える方がどうかしている。


「この河原に来てからそういや刺されていないが……あの虫も、どっかから運び込まれた奴らなのかもしれねぇな……」


 これまで食べた野草や木の実、果実に関しては三人共知らない物だった。

 ということは、あれらは別の世界の物だろうか。

 もしそうなら、探せば他にも放り込まれた人間がいるかもしれない。


「見つけたのはこれだけか?」


 ゲイリーがそう聞くと、アシュリーは声をかけられたのが意外だったのか目をパチクリさせる。


「え、えぇ。といっても、当然もっとたくさん生えていたけど」

「周囲の植生は? お前や俺の知る植物はまとまっていたか?」

「…………そう、ね。密集していた訳ではないけど、割と近い範囲に生えていたわ」

「私の方もそうですねぇ。私の知っている木が十数本まとまって生えてて、その周辺に野草が生えてましたぁ」

「ふむ……」


 ゲイリーは口元を手で多い、辺りの木々に目をやりながら何かを考えている。

 聞いていた事から考えて、生えている植物のパターンなどになにか法則があるのかどうか気にしているのだろう。


「動物の類はやっぱり見なかったか?」


 とりあえず向こうの世界関連の話は、当の二人に任せよう。

 少し考えながら話し合っているゲイリーとアシュリーを横に、アオイに話を振ってみる。


「えぇ。相変わらず獣道や糞、毛のような痕跡は見つけられませんでしたぁ。まぁ、アシュリーさんは例の野草などを見てから、動物は絶対にいると考えているようですけどぉ」

「? なんで?」

「わざわざ植物まで持ちこんで、人も持ちこんで動物だけ持ちこまないっておかしいでしょ? という事らしいですぅ」

「……うん、いや」


 言いたい事は凄く分かるが、いくらなんでも安直過ぎやしないだろうか。


 炎の中に枝を差す作業をチマチマやりながら、裂いてパスタの様にした茹で野草を口にしながら、俺は、いつ自分の話題を切り出そうかとずっと考えていた。





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