005:石の使い道。なお、同行者は――
――ぐきゅるるるるるる
「……腹、減りましたな。レスタロッセさんちのアオイさんや」
――きゅごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ
「……そうですねぇ、タケウチさんちのトールさんや」
サバイバル生活……俺は四日目……五日目だっけ?
その間に口にしたモノと言えば、梅干しの種だの弁当箱の底に残ったソースやマヨネーズだの。
一応昨日今日と、例のサーチスキルで見つけた食える果実で完全な空腹状態こそ避けているモノの、それにしたって限度がある。
そもそも完全な満腹状態なんて一度だってなかった訳で……
(晩飯食った後、風呂に入るまでの間に満腹感で爆睡しかかってた頃が懐かしい……)
いやいや、そんな過去に
飯だ。食糧だ。……もっと具体的に言うなら、肉とか魚とかのたんぱく質系の栄養を体が欲している。マジで。ガチで。
「川、どう思う?」
たった一言の俺の問いかけに、アオイは分かっているとばかりにため息を吐いて答える。
「少なくとも、朝起きてからしばらく観察した限りでは、魚はまだ見てないですねぇ……」
「……マジでか」
「マジっす」
「ガチでか」
「ガチっす」
……じゃあ、どうしよう。
「ま、まぁ……私が見つけられなかっただけかもしれませんし」
「それならいいんだけどな。……隠れるのが上手いとかさ」
現状、正直素人二人にしてはまぁまぁ上手くいっている。……一度死にかかった事を除けばだが。
火と水は無事に確保。寝床は……急いで作り直したために不格好だし、やや壁が薄いが一応ある。
とにかく、現状でもっとも力を入れたいのは――飯の確保だ。
「とりあえず、山の中を探索しようと思うんだけど……」
もしサーチスキルが成長するものだとしたら、恐らく使いまくるしかないと思う。
ゲーム脳と笑わば笑え。だけど実際そういう物が手に入ったのならば、使いまくるしかないだろう? 目に見えるデメリットは今の所無いわけだし。
「う~~ん……確かに探索は必須ですけどぉ……」
そう思って提案したが、アオイは首を捻り、
「そのお仕事、私に任せてもらえませんかぁ?」
と、俺に聞いてくるのだった。
「? なぜだ?」
「いいえぇ、別に深い意味はないんですけどぉ……トールさん、山歩きが苦手ですよねぇ?」
「まぁ……都会とまでは行かなくても街住みだったからな」
そういえば、何かの拍子に元山育ちって言ってたっけ、この子。
となると、やっぱりそういうのも分かるものなんだろう。
「せっかく二人いるんですし、別々に行動した方が効率が良いと思うんですけどぉ……かといってトールさんとバラバラに探索したら、迷わずに帰って来られるかどうか不安ですしぃ」
…………ふんっ!
「あぁっ! あぁっ! な、なんでまた髪の毛掴むんですかぁ!!」
「いや、なんか腹立ったから」
きょろきょろ~と動くアホ毛が、まるで俺を煽る様に動いていたので思わず動きを封じてしまった。
だからお前それどうやって動かしているのかと。
「まぁ、二人して拠点から動くのもあれだし別にいいが……俺、なにすればいいんだろう?」
「あぅぅ……トールさんの思うように動けばいいと思いますぅ」
掴んでいた手を払いのけて、ぴょこぴょこ跳ねる毛を包みながらアオイは続ける。
「トールさん、直接役に立つかはともかくとして色んな知識を持っているようですので、ここで出来る事を考えて色々と試行錯誤を試してみるのは、先の事を考えると無駄にならないと思うんですけど……それに」
「それに?」
「ただですら体力面に不安ありそうなトールさんに、これ以上無駄に体力を使わせるのも心苦しく――」
「……モヤシなのは否定しない。否定はしないがそれはそれはそれとして喧嘩売ってんのか、売ってんだよな、よし買った!!!!」
「なぜそんな話に!?」
なぜじゃねーよコンニャロウ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……さて、どうしたもんかな」
あの後口喧嘩しながら朝飯の木の実や果実を食いに行った後、調べた範囲をおおよその地図にしてくるというのでノートとペンをアオイに貸して、俺は一人テントの前で火の中にまだ若い木の葉や草を放り込みながら延々と考えていた。
さっさと考えていたシェルターの強化なりなんなりした方がいいのだろうが、とりあえず一度落ちつく事にした。
先ほど甘い物を食べて気持ちが落ち着いているのもあるし、なによりも一度考える時間が必要だと感じたからだ。
(焦って適当な考えでテント……シェルターか。アレ作った挙句流されたからなぁ……)
気温の下がる夜に、できるだけ温かいまま寝るには必須だととりあえずのシェルターは作ったが……やはり薄いというか、最初に作った物よりも心なしか寒く感じる。
失敗するのは別に仕方ないとは思うが、命に関わる失敗や徒労は可能な限り避けたい。
(どっちにせよ、いずれここは動かなきゃいけないんだよなぁ……)
正直ずっと考えているのが、塩分の問題だ。
うろ覚えの知識で怪しいが、人間の体に塩分が必要不可欠だというのはなんとなく覚えている。
さらに適当な素人知識ではあるが、手っ取り早く塩分を手に入れるには海に行くのが早いと考えていた。
(何かの無人島生活番組で、海水を煮詰めて塩分の濃いソースというかタレとして使っていたのを見た事あるし、あれでもなんとかいけるだろう)
少なくとも、火を起こす事が不可能ではない事は自分の身で体験している。
それに今ならば、例えば炭などに火種を確保して、締められた草や苔を敷いた弁当箱に乗せれば火種を運ぶ事も不可能ではないはずだ。
(いずれ移動する……その上で今することってなんだろう?)
濛々と立ち込める煙に涙ぐみ、少し離れてからまた考える。
これがないとまず苦労するだろうという作業は――
(枝とか葉っぱみたいな燃やす物の確保。……そうだな、これは本当に大事だ。シェルターの強化や増設にも使うし)
いざという時に燃やす物がないと、本当に苦労する。マジで。
今みたいに既に火があるのならばまだ何とかなるが、一から始める時にそれがないとどれだけ苦労するかは文字通り身を持って知っている。
(……この場所はあくまで仮拠点。生活の基礎を整えるのは当然だけど、同時に移動する際に必要な物も揃えておかないと不味い)
とりあえず、後に移動する時に必要な物を考えておく必要があるが、同時に今の拠点をより過ごしやすくする必要がある。
「よし、もっと安心して水を飲めるようにしよう」
そして決めたのがこれだ。
正直、布で
そして不安を感じたまま口にするのは、多大なストレスになるのだ。
(水場が近くにあっても、怖くてガブガブ飲めないしなぁ)
ここらにある小石や砂、そして火を点けた事で手にした燃えカス――炭。
これらとペットボトルを使って簡単なろ過装置は作製できる。
が、それだけで安心できるほど自分は自分の体を信じていない。なにせモヤシの比較的都会っ子だ。
ちょっとした菌や微生物を口にして腹を下す事は十分にあり得ると考えるべきだろう。
今の所は大丈夫だが……やはり殺菌のために煮沸をする必要がある。が――
「火に耐える器がないってのがなぁ……」
以前にも考えたことがある問題だが、煮沸に必要な熱に耐える器がないのだ。
水を入れておけそうなものはどれも熱に弱いものばかり。火にかけた瞬間に燃えて穴が空いて、中身がこぼれてしまうだろう。
(さて、どうしたものか。ろ過を何度も繰り返せば安全になるって聞くけど、それも『比較的』って言葉が頭に付くしなぁ……)
沸騰という現象をもっとも単純にすれば、水を限界まで熱する事である。
つまりは熱を与え続ければいいのだが……。
「……よし」
とりあえず思いついた事を実行に移すため、出来るだけ太い流木を探しに変わらを歩きまわる。
昨日、火を起こすには大きすぎると放置していた物がいくつかあるので目星はすぐに付く。
自分の体力で持ち運べそうな小さめの物を選び、それと一緒に持ちやすそうで、かつ尖っている石もいくつか探す。とりあえずの道具代わりだ。
(やっぱり刀借りればよかったかなぁ……)
出かける際にアオイが、万が一のためにと俺に刀を貸そうと言ってくれたのを思い出す。
女の子一人を探索に出している上に武器まで借りるのはさすがにどうか
と思い、そのまま彼女には帯刀してもらったが……刃物が欲しい。
(ロープ代わりのツタとかが揃ったら、石斧作ってみるか)
切れ味では刃物には遠く及ばないのは間違いないが、枝を折ったりするのにはかなり適している気がする。
自分がしっかりしたモノを作れれば、だが。
とにかく、引っ張って来た流木を火起こしの時の様に石で削っていく。
この間は摩擦熱が逃げにくい様に細く作っていたが、今回はかなり大きく削る。ここに水を貯めるからだ。
「……今焼いてる分だけで沸騰するかね」
同時進行で火の中に放り込んで熱しているのは、削った大きな溝の中に入りそうな石だ。
ようするに、この溝に簡単にろ過した川の水を貯めた上で、熱々に熱した石を沸騰するまで放り込んで煮沸させようというつもりだ。
ほぼ生水を延々飲み続けるわけにはいかないし、なにより食べれるらしい植物の中には、サーチスキルの説明文の中に『茹でれば』という一言が付いている物がかなり多かった。
仮に肉の類が手に入らなかった場合を考えて、少しでも食べられる物は増やしておきたい。
ひょっとしたら大豆やキノコみたいに、たんぱく質を取れる代用品が手に入るかもしれないし。
(……やっぱり俺も付いていくべきだったかねぇ)
ひたすら流木を削り、程良い深さと形に削れた部分には焼けた石を枝で持ち運んで押し付け、軽く焼いていく。一応の殺菌だ。
枝に火を付けて直火で焼こうとも思ったのだが、意外とこっちの方が難しかったので石焼き方式に変更してみた。大変なのはこっちもだが、意外と悪くない。
作業は意外と速く終わった。
その後、少し迷ったがペットボトルの底を石で強引に開けて、鞄の底に入っていた輪ゴムを使って、以前簡単なろ過に使った弁当箱の布袋を畳んで飲み口に固定。ペットボトルの中には、一度火にかけておいた砂、灰、砂、灰、やはり火にかけてから冷ました小石の順に中にいれてみた。
正直、順番が正しいかどうかは分からないが、これだけ層があれば機能しない事はないだろう。
後は弁当箱を使って水を汲み、ペットボトルのろ過器を通して煮沸用の溝の中に注いでいく。
ちょっと削りすぎたために組む作業も少々大変だったが、ある程度溜まった所で、ずっと熱していた石を投下。――大きい石は途中爆発したので、どれも手の平よりも小さいサイズに限定してある。
このサイズだと一つだけでは足りないだろうとたくさん焼いておいて良かった。
入れるたびに『じゅっ』と音がしていくのだがそう簡単にはやはり沸騰せず、5個、6個と投下して言ったらようやくボコボコっと泡が立ち始める。
煤で少し濁ってしまったが……生水に比べればはるかに安全だろう。
念のために、泡が立つ時間が長続きするようにちょくちょく石を投下する。
すると、思った以上に時間に余裕があったので、火と煙を絶やさないようにしながら薪を濡れないように保管するための場所を作った。
といっても、練習も兼ねて小型のシェルターをささっと作って見ただけだが……。
まぁ、おかげで崩れにくい組み方とか結び方を色々と練習できたのはよかったと言えるだろう。
そして日が落ち始めるまで燃やせそうな枝や葉を拾い集め、お湯で空腹を誤魔化しながら炎の灯り以外完全な闇に覆われていくのをじーっと待って……待って……。
「……あんにゃろう! 帰ってきやがらねぇ!!!!」
やっと出来た同行者が突如行方不明になったようです。
……泣ける。
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